成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。
「イコライザー」出演は今回が最後だと思うが「絶対」とは言わない?
新作『イコライザーTHE FINAL』(2023)では何とイタリアで地元のマフィアと戦う主役のロバート・マッコールを激演、監督のアントワーン・フークアをして、
「何度もデンゼルにそんなに張り切るな! スタントマンに任せろ! と叫んだにも関わらず、まだまだイケるとアクション場面をやってしまうんだ。もう68歳なのだから、僕は彼を守らなくてはという義務感でいっぱいだった」と言わせた程である。
当人は「毎日トレーニングして体を鍛えるのも役者の仕事。今回は前作の続きとは考えずロバートの新しい挑戦と見て、撮影に臨んだ。ロケ先のアマルフィ・コーストの漁村が又最高に良いところで、今回はスパゲッティー、パスタ、リゾットの数ぐらいに悪人を叩きのめした気分だった(イタリーの食べ物に相当溺れたらしいコメント!)。」
「『マイ・ボディガード』(2004)で共演した少女のダコタ・ファニングがすっかり大人になって、CIAのアナリスト役で出て来たのも嬉しかったね。2004年には10歳だった彼女がもう29歳なのだから! 当時も天才的子役だったが現在はベテランの貫禄がついて更に演技力が冴えてきていた。」
「今回で『イコライザー』は最後だと思って欲しい。巨額なギャラを提示されても4回目には出ないと思う。ま、人生は長い、絶対にしない、『ネバー』という言葉を使うべきではないかもしれないけれどもね。」
彼の信念、恵まれない人々のために不正と戦うパターンを「頭脳型暴力」と呼ぶそうだがデンゼルが味方についてくれたら怖いものなし、間違いない。
彼は又、敬虔なクリスチャンで「人は最高の状態にいる時、悪魔が侵入してくる。そういう時、悪魔は人間の間違いを無視する」
と「有名人の奢り」に対する警告を語っている。昨年のオスカー賞授賞式時に司会者に暴力を振るった後輩のウィル・スミスをなだめた時に繰り返していたのは記憶に新しい。
人柄の良さそうな柔らかさがあり、インタビューでもリラックス
さてデンゼルに初めて会ったのは最初のオスカー賞(助演男優賞)を獲った『グローリー』(1989)の時。既に35歳だったがまだ若々しく、整ったルックスが目に優しく、そして新人らしい謙虚さを保っていた。
「少年時代はプロのバスケットボール選手になりたかったが大学でジャーナリズムを専攻しがてら舞台にも出るようになり、2年生の時に『オセロ』の役をもらってすっかり演技にハマってしまった」
トム・ハンクスがエイズに罹る男性を描く映画『フィラデルフィア』(1993)のインタビューではトムの陰に回ってひたすらサポートに徹していたようにエゴの全く無い人柄が垣間見えて微笑ましかった。
今も恵まれない若手俳優たちを助け、近年惜しまれて亡くなったチャドウィック・ボーズマンも彼の補助を受けてブレークしている。
息子のジョン・デヴィッドがプロフットボール選手から転向して俳優として頭角を現し、『アムステルダム』(2022)などの映画で活躍中だが、(次は私だけの個人的意見)まだまだ演技が固く、表情に甘さがないのがちと気になってしまう。
デンゼルには「人柄の良さそうな柔らかさ」があって、例えば2016年のゴールデングローブ授賞式で功労賞を受賞したのだが、既にスタートしてから時間が経っていたために、テーブルの上のワインやらをかなりきこしめして、壇上に上がってからしどろもどろのスピーチをしたのである。
彼の「かっこよいスピーチをしよう!」などと気張らないキャラクターが露呈してそれが又、クールだったのを思い出す。
つまり本格的なインタビューでもあまり深刻にならず「まあ、お互いに気楽に喋ろうぜ」という姿勢を貫き、原稿にする時は内容が薄くなりがちで困りものだが一緒にいるとリラックスして楽しいスターなのである。