貴重な戦前の日本映画のコレクションに光を当てる!55年ぶりの特集上映
アメリカ議会図書館が所有していた約1,400 本にも及ぶ戦前・戦中期の日本映画の可燃性フィルムが、1967 年の第一次から1990 年代の第四次にかけて日本側に返還された。当館の基盤となるコレクションを形成した「返還映画」の中には、戦前・戦中期に心理・情報戦の資料として、米国内外で収集されてきたものや、戦後に「非民主的映画」として上映を禁止された劇映画の一部などが含まれていた。このたび国立映画アーカイブでは、長期にわたり整理作業に取り組んできた返還映画の収蔵時の経緯等について再調査を実施し、収蔵時期の明確になったコレクションから順次(再)公開する運びとなった。
本企画では、第一次返還映画のうち『進軍』(1930)から『乙女のゐる基地』(1945)までの劇映画31 本に、第一次返還を希望したにも拘らず、唯一後送された劇映画『鴛鴦歌合戦』(1939)を加えた計32 本を上映します。当館における「返還映画」を冠した特集上映としては、1968 年以来の55 年ぶりの開催となる。
見どころ
戦時体制下における映画の光と影
戦前・戦中期に心理・情報戦の資料として米国内外で収集された「返還映画」には、日本における映画検閲や映画国策という特殊な政治状況下で製作・公開された作品が多く含まれている。本企画は、満州事変から太平洋戦争期における軍事や国防、植民地開拓や敵愾心高揚といった歴史的背景のもとで生み出された映画群を再検討する機会を提供する。12 月2 日(土)上映の『かくて神風は吹く』では、加藤厚子氏(茅ヶ崎ゆかりの人物館運営アドバイザー)による講演を行う。
1930~40 年代日本映画黄金期の名作群が再びヴェールを脱ぐ
日本映画初の海外映画祭受賞作『五人の斥候兵』をはじめ、 当時高く評価された名作揃いのラインナップとして今回上映する32 本の中には、1930 年から1944 年にかけて「キネマ旬報」または日本映画雑誌協会によるベスト・テンの入選作品が5 本含まれる。溝口健二、内田吐夢、島津保次郎、小津安二郎、清水宏などの名匠監督たちによる、映画ファンが当時返還を待ちわびた日本映画黄金期の名作群に改めて注目したい。11 月30 日(木)上映の『月夜鴉』では、木下千花氏(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)による講演を行う。
サイレント映画の伴奏付き上映
サイレント映画『進軍』(1930 年、牛原虚彦)、『警察官』(1933 年、内田吐夢)、『霧笛』(1934 年、村田實)、『母を恋はずや』(1934 年、小津安二郎)の上映に際しては、経験豊富なピアニストたちによる演奏付きの上映回を設けている。
上映作品
『進軍』(1930 年、牛原虚彦)/『上陸㐧一歩』(1932 年、島津保次郎)/『警察官』(1933 年、内田吐夢)/『霧笛』(1934 年、村田實)/『母を恋はずや』(1934 年、小津安二郎)/『花形選手』(1937 年、清水宏)/『忍術三妖傳』[『自來也』改題版](1937 年、マキノ正博)/『人肌觀音 第一編』(1937 年、衣笠貞之助)/『五人の斥候兵』(1938年、田坂具隆)/『東洋平和の道』(1938年、鈴木重吉・張迷生)/『奴銀平』(1938年、大曾根辰夫)/『新編 丹下左膳 隻眼の卷』(1939 年、中川信夫)/『亜細亜の娘』(1938 年、田中重雄)/『月夜鴉』(1939 年、井上金太郎)/『兄とその妹』(1939 年、島津保次郎)/『上海陸戰隊』(1939 年、熊谷久虎)/『残菊物語』(1939年、溝口健二)/『鴛鴦歌合戰』(1939 年、マキノ正博)/『沃土萬里』(1940年、倉田文人)/『冬木博士の家族』(1940 年、大庭秀雄)/『西住戰車長傳』(1940 年、吉村公三郎)/『上海の月』(1941年、成瀬巳喜男)/『四つの結婚』(1944年、青柳信雄)/『名人長次彫』(1943年、萩原遼)/『北方に鐘が鳴る』(1943年、大曾根辰夫)/『日本人 明治篇・昭和篇』(1938年、島津保次郎)/『成吉思汗』(1943年、牛原虚彦、松田定次)/『我が家の風』(1943年、田中重雄)/『三尺左吾平』(1944年、石田民三)/『激流』(1944 年、家城巳代治)/『乙女のゐる基地』(1945年、佐々木康)/『かくて神風は吹く』(1944年、丸根賛太郎)
返還映画コレクション(1)――第一次・劇映画篇
会期:2023 年11 月28 日(火)~ 12 月24 日(日)
会場:国立映画アーカイブ 長瀬記念ホール OZU [2 階]