和田誠画『巴里のアメリカ人』(2011年) 画像提供:和田誠事務所
東京・京橋の国立映画アーカイブでは、2023年12月12日(火)から約3か月半にわたり、展覧会「和田誠 映画の仕事」を開催。グラフィックデザイナー、イラストレーターの和田誠が手がけた挿画や著書、収集した映画ポスター、そして『麻雀放浪記』を始めとする監督作品などから、彼と映画の深い結びつきに光を当てる。

日本が生んだこの最高の“映画ファン”の限りない映画愛

日本を代表するグラフィックデザイナー、イラストレーターの和田誠(1936-2019)にとって、映画は人生の友であり、創造の泉でもあった。
少年期からの映画への情熱に支えられ、若手デザイナーとして頭角を現すや、本職の傍ら映画ポスターの制作やアニメーション映画にも挑んだ。やがてその味わいある画風は広く支持され、世界の映画人を描いた無数のイラストレーションや、映画をめぐる著書や対談集を続々と送り出してゆく。さらにその情熱は日本映画界を動かし、監督修業の経験なしに『麻雀放浪記』(1984年)をはじめ4本の優れた長篇娯楽映画を監督するに至った。
また私生活でも、熱意をもってアメリカ映画のフィルムやポスターのコレクションを築き、国立映画アーカイブにも2015年の展覧会「ポスターでみる映画史 Part 2 ミュージカル映画の世界」にそのコレクションを貸与したことも。
その博覧強記にもかかわらず、「評論家」ではなく常に“映画ファン”を自称していた和田誠。この展覧会は、日本が生んだこの最高の“映画ファン”の限りない映画愛を感じ取れる絶好の機会となるだろう。

和田誠 略歴

1936年生まれ。多摩美術大学図案科(現グラフィックデザイン学科)を卒業後、1959年に広告制作会社ライトパブリシティに入社。1968年に独立後、グラフィックデザイナー、イラストレーターとしてさらなる活躍を続け、映画監督、エッセイ、歌の作詞・作曲などさまざまな分野で業績を残した。たばこ「ハイライト」のデザインや「週刊文春」の表紙は国民的に知られるほか、数多くの書籍の挿画や装丁を手がけ、絵本も発表している。2019年に逝去。

展覧会の構成

I 映画を知った ~映画館通いに励んだ少年時代とポスター作りへの志

中学時代にアメリカ映画に夢中になった和田誠は、高校生になるとヨーロッパ映画や日本映画への関心も深め、それと同時に、国立近代美術館で催された「世界のポスター」展(1953年)を訪れた経験から「ポスターを作る人になりたい」という望みを育む。そして多摩美術大学に在学中、映画『夜のマルグリット』の手描きポスターで当時若手デザイナーの登竜門だった日宣美賞の受賞を果たした。

画像: 和田誠作「国立近代美術館『アメリカ映画史講座 チャップリンの歩み』」ポスター (1959 年) 国立映画アーカイブ所蔵

和田誠作「国立近代美術館『アメリカ映画史講座 チャップリンの歩み』」ポスター (1959 年)
国立映画アーカイブ所蔵

II  映画を描いた ~映画ポスターへの挑戦、そして華麗な映画人イラストレーション

大学卒業後、広告制作会社ライトパブリシティに入社した和田誠はデザイナーとして活躍を始めるが、その傍ら、東京新宿の「日活名画座」のためにポスターを無償で制作するようになる。以降半世紀以上にわたり、映画ポスター、映画書の装丁・挿画などを手がけ、国内外の俳優・監督・映画スタッフから評論家に至るまで、映画人の似顔絵を数えきれないほど手がけることになった。

III  映画を語った ~「お楽しみはこれからだ」 終わらない映画談義と映画書の数々

 

映画のさまざまなシーンについて抜群の記憶力を持っていた和田誠は、1973年から「キネマ旬報」で連載「お楽しみはこれからだ」を開始し、軽妙なタッチで映画の名セリフやシーンの魅力を語り尽くした。その後も映画にまつわる数々の著作を残したが、さらに山田宏一や三谷幸喜などとの対談本でも終わらない映画談義に花を咲かせ、読者を大いに楽しませた。

画像: 和田誠著『お楽しみはこれからだ (Part 』(1975 年 )国立映画アーカイブ所蔵

和田誠著『お楽しみはこれからだ (Part 』(1975 年 )国立映画アーカイブ所蔵

IV  映画を集めた ~仕事場は映画館だった――和田誠の映画&ポスターコレクション

映画をめぐる和田誠のさまざまな活動の中で、比較的知られてこなかったのが映画フィルムやポスターなどの収集。収集したフィルムは300本以上に及び、またアメリカ映画のオリジナル版ポスターのコレクションも長年続け、ときには自身の監督作品のセットを飾った。さらに映画関連の洋書やスチル写真など、イラストレーション制作の参考となる資料も豊富に所有していた。

画像: 和田誠旧蔵『キス・ミー・ケイト』(1953 年、ジョージ・シドニー監督) アメリカ版ポスター 国立映画アーカイブ所蔵

和田誠旧蔵『キス・ミー・ケイト』(1953 年、ジョージ・シドニー監督) アメリカ版ポスター 国立映画アーカイブ所蔵

画像: 和田誠事務所のフィルム収蔵庫 撮影:吉田宏子

和田誠事務所のフィルム収蔵庫 撮影:吉田宏子

V 映画を撮った ~アニメーションへの情熱、そして劇映画監督としての道のり

アニメーション『MURDER!』(1964年)で評価されていた和田誠だったが、名プロデューサー角川春樹との出会いを通じて、初めての劇場用長篇映画『麻雀放浪記』(1984年)を作ることになる。同作品はその堂々たる完成度で多くの賞を受賞したが、その後も『快盗ルビイ』(1988年)、『怖がる人々』(1994年)、『真夜中まで』(2001年公開)と多彩な長篇作品を残している。

画像: 『麻雀放浪記』(1984年、和田誠監督) 絵コンテ[複製] 個人蔵 (澤井信一郎氏旧蔵)

『麻雀放浪記』(1984年、和田誠監督) 絵コンテ[複製] 個人蔵 (澤井信一郎氏旧蔵)

関連上映

上映企画「N FAJ コレクション2024 冬」
会期:2024 年1 月19 日(金)-2 月4 日(日)※金・土・日曜のみ
会場:国立映画アーカイブ 小ホール[地下1 階]
上映企画の中で和田誠監督作『麻雀放浪記』(1984 年)、『快盗ルビイ』(1988 年)、『怪盗ジゴマ 音楽篇』(1988 年)、参加作『恋の大冒険』(1970 年、羽仁進監督)などの上映を予定。

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