4K レストアで蘇る、映画の奇跡
54 年という短命な生涯ながら、全8 作品の劇映画を世に送り出し、クリストファー・ノーランやアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥといった現代の映画監督たちにも多大な影響を与えている、旧ソ連が生んだ巨匠アンドレイ・タルコフスキー。
長編デビュー作『僕の村は戦場だった』(62)で、ヴェネチア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞を受賞するも、2 作目『アンドレイ・ルブリョフ』で歴史解釈をめぐってソ連当局から激しい批判を受け上映禁止を言い渡されてしまう。その一方で同作は1969 年のカンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞、その後も『惑星ソラリス』(72)、『鏡』(75)、『ストーカー』(79)と、唯一無二の映像世界で批評家や観客たちを魅了した。だがソ連国内の厳しい検閲は依然として強く、ソ連を出国。はじめてソビエト連邦国外のイタリアで製作されたタルコフスキー監督作が長編6作目となる『ノスタルジア』である。
モスクワからイタリアにやってきた詩人アンドレイ・ゴルチャコフと通訳の女性エウジェニア。ふたりは、ロシアの音楽家パヴェル・サスノフスキーの足跡を辿る旅をしていたが、旅の終盤アンドレイは病に冒されていた。そんな中、二人は、世界の終末が訪れたと信じ家族で7 年間も家に閉じこもり、人々に狂信者と噂されるドメニコという男に出会うのだった―。
今回解禁されたのは、アンドレイがドメニコの家から去ろうとするシーン。屋内にも関わらず絶え間なく水が滴り落ちるドメニコの家で、アンドレイはドメニコに、なぜ世界の救済を自分に託すのか、と問い、壁に「1+1=1」という数式が描かれている象徴的な場面だ。タルコフスキーの代名詞といえる、滴り落ちる「水」、窓から差し込む「光」が、高精細のレストアでより鮮明に映し出される。
また本作を愛してやまない文化人からコメントが到着。ロシア文学者の沼野恭子氏は「ロシアによるウクライナ侵攻開始以降<ノスタルジア>が切実なテーマになっている今、新たなリアリティを得てふたたび私たちの前に立ち現れた本作品。息を呑むほどに美しいこの交響詩を<奇跡>と呼ばずして何であろう!」と本作が製作から40 年経った今でもアクチュアルな作品であることを語り、文学紹介者の頭木弘樹氏は「私たちはだれでも、どこか現実に適応できないところがある。だから、たとえ自分の国の自分の町の自分の家にいても、本来の居場所ではないところにいるようなノスタルジアを感じる。そのことを自覚させられ、同時に世界とのつながりを取り戻したいと思わせてくれる映画だ。」と寄せた。
なおBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下では、1 月27 日(土)にロシア文学者・沼野恭子氏、28 日(日)に映画批評家・須藤健太郎氏を招きアフタートークイベントを実施する。
https://www.bunkamura.co.jp/topics/cinema/8302.html
監督・脚本:アンドレイ・タルコフスキー 脚本:トニ一ノ・グエッラ 撮影監督:ジュゼッペ・ランチ
出演:オレーグ・ヤンコフスキー、エルランド・ヨセフソン、ドミツィアナ・ジョルダーノ
1983/イタリア=ソ連合作/ビスタ/カラー/126 分 原題:NOSTALGHIA
配給:ザジフィルムズ
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