史上最も成功したトロント発の演劇作品のひとつと言われる『ピアノ』(原題:2 Pianos 4 Hands)が松竹ブロードウェシネマで楽しめる!
オフ・ブロードウェイ(1997年)、ウエストエンド(1999年)でのロングランのほか、日本では2004年に東京で3週間、2012年には4週間にわたり東京・仙台・名古屋・大阪をツアーした。
世界各地で大人気の『ピアノ』は、異なるキャストによる様々な版が制作・上演されており、200もの劇場で4000回以上を上演。オリジナル・キャストの2人の出演回数は1000回に近い。今回の映像はその最終公演の模様を収録したものである。
2024年3月22日(金)、いよいよ全国劇場にて順次限定公開される。
画像1: 『ピアノ』〈2人の男と2台のピアノから生まれる「笑って怒ってサテどうなる⁉」の人生〉【松竹ブロードウェイシネマコラムvol.10】

ピアノを弾きながら過去へとさかのぼる

2台のピアノを前に2人のピアニストが向かい合い、挨拶を交わして演奏が始まる舞台劇。カナダ発、1996年以降ニューヨークのオフ・ブロードウェイをはじめロンドンのウエストエンドから東京もふくめた世界の200都市、200万人もの人々が見たという大ヒット作が演技とピアノ演奏を兼ね、どちらも超一級の演技者によって演じられ、ピアノと共に生きてきた人生が語られていく。

ピアニストの片やリチャード・グリーンブラットはどこにでもいそうなおじさんタイプ、片やテッド・ダイクストラはそこそこスマート(でもないか)なおじさん。この芝居の創作者でもある2人は、ピアノを見事に弾きながら自分たちの過去へと時をさかのぼる。

2台のピアノのほかにあるのはステージの奥のフレームに映し出される映像の窓や時計だけ。黒いジャケットを着たり脱いだりするだけで別の衣装に着替えることもない2人は、ピアノ教師や音楽学校の試験官、時には彼らの父や母になるなど、立場を変えながらピアノを学んで成長していく少年リチャードと少年テッドを演じる。

舞台の上では幾つもの矛盾が生まれ、それが真実をついていて笑わせる。かつて父親から勉強よりピアノの練習をしろ、と怒鳴られて頑張ったが、いまリチャードは反発する。試験の成績が悪いからもっと勉強しろ、せめて80点はとれ、だなんて。母は「買い物に行ってくるからあと30分練習しなさい、そうしないとテレビは見せないわよ」。言われた息子はむくれる。『スタートレック』が見たいのに・・・大人ってホントに身勝手だ。

画像: ピアノを弾きながら過去へとさかのぼる

会話の面白さとテンポの良さで乗り越え

さまざまなエピソードが刻まれる舞台劇を撮影、1本の映画に仕立てた『ピアノ』を見ているとすぐに、これはどのように撮影したのだろう、カメラは一体何台使っているのか?と疑問がわいてくる。向かい合わせに置かれたピアノの白い鍵盤の上を華麗に動く10本の指が2組。芝居のもともとのタイトルは『2 Pianos 4 Hands』(2台のピアノ 4本の手)だ。

舞台劇を撮影、“ライブ・ビューイング”という形で上映するシステムは、劇場に行く時間がない演劇ファンや、演劇に縁のない映画ファンには嬉しい贈り物だ。でも『ピアノ』のように、わずか2人の人物の会話と2台のピアノ演奏だけで出来上がっている芝居は、そのまま撮影して映画にすると、小さな劇場に漂う独特の空気を生かすことが出来ずに芝居そのものの魅力が消えてしまいそうだ。

その困難を会話の面白さとテンポの良さで乗り越えて映画になった『ピアノ』の見せ方の巧みさ。2人の俳優と彼らそれぞれの手が語る人生の面白さ。ピアノを弾く4本の手、20本の指がモノを言う演出。

それに加えて私たち日本人が小・中学校の音楽の時間に学ぶ作曲家の名前や楽曲が出てくる作り方には、見る者を“知っている!”と嬉しくさせる巧みな計算がある。このあたりは原作芝居そのままだとしても、観客の関心を惹く計算が巧みでより多くの観客を相手にする映画にもピッタリだ。

画像2: 『ピアノ』〈2人の男と2台のピアノから生まれる「笑って怒ってサテどうなる⁉」の人生〉【松竹ブロードウェイシネマコラムvol.10】
画像3: 『ピアノ』〈2人の男と2台のピアノから生まれる「笑って怒ってサテどうなる⁉」の人生〉【松竹ブロードウェイシネマコラムvol.10】

僕たちはただの上手な演奏家

テッドとリチャードの2人にとってピアノに対する思いには複雑なものがある。それぞれが一生懸命に練習を積み、技術も知識も身に着けて音楽学校の試験を受ければ試験官は意地が悪い。
「きみは才能を無駄にしている。毎日5時間、2年練習してまた来なさい」。
この先生は自分ではなく他の教師に学んだ生徒が気にいらないのか?そんなことがイヤになり、いままでのクラシック一辺倒からリチャードはジャズの音楽院の入学試験を受けた。

知識はある。演奏もできて名曲『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』を演奏するが、映画を見ている私が聞いても「なんだか違う」の気分だ。ここで描かれるクラシックとジャズの違い。そして少しずつ見えてくる2人のピアニストが身にしみて感じる天賦の才と努力の違い。

どんなに練習しても天才にはなれない、と描きつつ僕たちはただの上手な演奏家、超一流ではないけれど、近所で一番かな、なんて笑ってリチャードとテッドが握手するシーンはやるせない。そして少々悲しい・・・。だって天才じゃない、ということに気づいてしまうのだから。

でも、劇作家としての2人が天才であることは確か。2台のピアノと4本の手だけでこんなユニークな芝居を創り出したのだから。これぞ最高の舞台劇。それを舞台ならではの濃密な空気感をいかしたライブ・ビューイングに仕立ててくれたことに感謝‼だ。

画像: 僕たちはただの上手な演奏家

『ピアノ 2 Pianos 4 Hands』
2024年3月22日(金)より全国順次限定公開!

画像: 『ピアノ 2 Pianos 4 Hands』予告編 www.youtube.com

『ピアノ 2 Pianos 4 Hands』予告編

www.youtube.com

上演回数4000回!
米国、最多制作演劇作品トップ10入りを果たし、 “カナダ演劇界のレジェンド”と言われるテッド・ダイクストラとリチャード・グリーンブラットが放つ、ツアー全公演完売を誇る、グローバル・ヒットメーカー・ショー開幕!

ストーリー

強引な親に風変わりな教師、何時間にもおよぶ反復練習、舞台恐怖症、ライバルや試験の重圧、そして偉大なピアニストになるという夢──ピアノ漬けの日々を送るなか、テッドとリチャードは“ピアノオタク”になっていく。

成長するにつれ、2人は“とても上手”と“偉大”との差を痛感し、コンサートに引っ張りだこのスターにはなれないのではないかと、身の程を思い知らされることに。とはいえ、2人がこの界隈で1、2を争うピアニストかもしれないこと自体、祝福する価値あり!

『ピアノ』(原題:2 Pianos 4 Hands)は、ピアノのレッスンに付き物のユーモラスなあれこれや、いずれ来る夢を手放す瞬間の喪失感を描く。

(2 Pianos 4 Hands 公式ホームページより)

配給:松竹 ©BroadwayHD/松竹
〈カナダ/2013/ビスタサイズ/114分/5.1ch〉 日本語字幕スーパー版

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