約40年にわたってハリウッドを中心に映画記者活動を続けている筆者が、その期間にインタビューしたスターは星の数。現在の大スターも駆け出しのころから知り合いというわけです。ということで、普段はなかなか知ることのできないビッグスターの昔と今の素顔を語ってもらう興味津々のコーナーです。今回は新TVシリーズ「エリック」に出演のベネディクト・カンバーバッチについて。(文・成田陽子/デジタル編集・スクリーン編集部)

成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。

大学に入る前に1年間チベットで英語を教えた経験は俳優業に役立った

画像1: 筆者とカンバーバッチ

筆者とカンバーバッチ

新TVシリーズ「エリック」(2024)で行方不明になった息子を探し回る父親の役を憑かれたように演じるベネディクト・カンバーバッチ。ちょっとユニークな面は同じだが、以前の剽軽な若さは影を潜め、代わりに私生活では3児の父親としての責任、俳優として年輪を加えて来た自信、そしてほんの少し加齢が覗く47歳のベテランの風格が漂うようになった。

「『セサミストリート』に似ている人形使いが職業なのだが、エリックという人形と不思議なつながりを持ち、息子の話を一緒にして喜びを見出すようになり、周囲からは精神の健康を疑われるようになる。ドラッグによる一種のハルシネーションなのだが彼にとってはリアルな友人なんだよ。舞台は1980年代、ニューヨーク警察のゲイの黒人刑事、エイズ問題などが背景に出て来て、僕としては社会性のあるドラマとして張り切って取り組んだ作品だ」と力を込めてコメントしている。

画像: 2006年頃のカンバーバッチ Photo by GettyImages

2006年頃のカンバーバッチ

Photo by GettyImages

さて、若い時のベネディクトについてだが、これは!という新人を見つける名人の私は『Start er for 10』(2006、日本未公開)という映画で、クイズ番組に出る大学生チームのキャプテン役で、それは知的にクールに目立っているのをスポット。主役はジェームズ・マカヴォイ、彼の不良のダチ役がドミニク・クーパー、ガールフレンドになったのはレベッカ・ホールと今をときめく英国スターがひしめいていた作品だった。

初めてベネディクトに会ったのは『戦火の馬』(2011)で英国将校を演じた時。

『両親とも俳優なので、やはり同じ道をたどってしまった。僕の本名はベネディクト・ティモシー・カールトン・カンバーバッチというのだけど、古くさいと批判された最初と最後の名前を使う事にした。大学に入る前に1年間程、チベットで英語を教えた経験は、その後の俳優修行に凄く役に立った。全く異なる環境に身を置くというのは心身に強烈な刺激と感性を与えると思う』

とお行儀良く、歯切れの良い正式な英語の発音で、真面目な表情で話していたのも彼の育ちの良さを見せていた。

将来は英国演劇界を代表する重鎮になりそうだが、気安く近づけなくなるかも?

画像2: 筆者とカンバーバッチ

筆者とカンバーバッチ

それからスター街道をまっしぐら。TVシリーズ「SHERLOCK シャーロック」で世界中のお茶の間の人気を得て『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014)と『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)で晴れてオスカー主演賞候補になったのである。

2015年にオペラなどの監督のインテリ女性、ソフィー・ハンターと結婚。この頃からカンバーバッチはプライバシーを固く守るようになり、両親のこと、家族のこと、自分のこと、家のこと、全てにノーコメントと激しく反応して、イベントなどで遭遇してもツーショットなど絶対に撮らせないようになったのである。一応丁寧な挨拶はするものの、仕事場以外での写真はタブーとなってしまった。

つまり、お気楽で、おかしなことを言って笑わせるカンバーバッチは消滅し、固い儀式張った表情が取って代わり、2015年に英国女王からCBE(騎士の勲章のひとつ下)を授かって、さらにロイヤル・ファミリーとの距離が縮まったせいか(これは嫌味)、ぐんと、プロパーに「尊大」になってしまったようだ。

もちろん、ファンとの交流などでは一緒にはしゃいでいるものの、マスコミ相手になると警戒心を見せて体が固くなるのが見て取れる。3人目の子供を妊娠し、見るからにお腹が大きい奥方をレッドカーペットに同伴した時「いつ産まれるのですか?」などという、プライベートで低俗な質問は拒否。

もちろん長い付き合い?のワタクシに対しては、変わらずハグしたりするものの、昔のノリノリの陽気さは影を潜め、かなり堅苦しく義務的(と感じられる)になっている。近い将来は英国演劇界の重鎮になるに違いないが、ちょっと寂しい気がしないでもない。

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