セリフがなくても大満足の理由とは⁉
本作の原作小説「Handling the Undead」は2005年にスウェーデンで映画化される予定で、原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが脚本を書き上げていたが実現せず、今回、テア・ヴィスタンダル監督とヨンが共同でリライトし、新たな脚本を完成させた。「自作の映像化のときはいつも、作品を監督に手渡した時からすでに僕の物語ではなくなると思っている。むしろ監督のやり方で映像化した別作品になって欲しい。監督それぞれのタッチで、時間をかけて選んだビジョンを形にしてくれるのが楽しみだから、彼らのリライトに、特にリクエストはしない」と話すヨン。しかし本作では、唯一自ら監督にお願いしたのが、映画へのカメオ出演だった!
これまでに多くの小説が映像化されているが、ヨンがこれまでにカメオ出演したのはスウェーデンのTVドラマのみ(本人談)。「その時は斎場のディレクター役でした。役のセリフに違和感があり、現場で監督に何度も相談しました。自分のセリフだけでこんなに変だと感じるのだから、他の役者のセリフは大丈夫だろうかと心配になりました」と笑い、また、「実は『ぼくのエリ200歳の少女』でもカメオ出演の機会があって撮影もしたのですが、そのシーンはカットされてしまった。結局、声のみの主演になりました」と、貴重な撮影秘話をこっそり教えてくれた。
そして、今回の映画『アンデッド/愛しき者の不在』で監督から提案されたのは①セリフのあるうさぎ売り、②セリフがない斎場の人の2択。ヨンは、またしても斎場の人をチョイス!そして、結果、セリフのあるうさぎ売りのシーンはカットされることになり、遂に念願の映画へのカメオ出演を果たしたのだ!
「半日間、女性を入れた棺を押し続けるのは記憶に残る撮影だった」と笑いながら語るヨンの役者姿は、美しい壁画を掲げる教会(ロケ地:オスロの東部火葬場にあるリール礼拝堂)で登場人物の老婦人・トーラ(ベンテ・ボシュン)が最愛の恋人を弔う悲しみに満ちたシーンで見ることができる。
日本の観客に向けて、「『アンデッド/愛しき者の不在』はスタイリッシュで、品のある非常に良質なホラー映画になっています。ホラー映画というと若者たちが大勢で笑いながら見るような作品もあるけれど、この映画は静かに、映画と向き合える作品です。ヴィスタンダル監督が手掛けたこの美しい映画が、ノルウェーの岸辺から日本の皆様のところに届くと聞いてとても嬉しく思っています。胸を締め付けるような体験になるかもしれないけれど、ぜひ、お楽しみください」と、メッセージを送っている。現在、ヨンは、スウェーデンやハリウッドで映画化された大ヒット作、『ミレニアム』シリーズの新作を書くオファーを受けていたが実現には至らず、自分の3部作となるクライムシリーズの3作目を執筆中とのことで、また新たな独自の世界を届けてくれそうだ。
アンデッド/愛しき者の不在
2025年1月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか全国公開
<STORY>
現代のオスロ。息子を亡くしたばかりのアナ(レナーテ・レインスヴェ)とその父マーラー(ビヨーン・スンクェスト)は悲しみに暮れていた。墓地で微かな音を聞いたマーラーは墓を掘り起こし、埋められていた孫の身体を家に連れて帰る。鬱状態だったアナは生気を取り戻し、人目につかない山荘に親子で隠れ住む。しかし還ってきた最愛の息子は、瞬きや呼吸はするものの、全く言葉を発しない。そんなとき、招かれざる訪問者が山荘に現れる。そして同じ頃、別の家族のもとでも、悲劇と歓喜が訪れていた…。
原作・共同脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
監督・共同脚本:テア・ヴィスタンダル
出演:レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ビヨーン・スンクェスト、ベンテ・ボシュン、バハール・パルス
配給:東京テアトル