幅広い年代や国のアニメーション映画の系譜を豊富なポスターコレクションなどの資料から網羅的にたどる
映画の誕生から130年の節目を迎える2025年、国立映画アーカイブでは、初期作品から現代の新作まで幅広い年代や国のアニメーション映画の系譜を、所蔵する豊富なポスターコレクションなどの資料から網羅的にたどる。ハリウッドのカートゥーン映画、欧州各国の特徴ある名作、そしてもちろん日本が誇るアニメーションの名作にも重点を置き、この映画文化が形作った大いなる潮流を振り返る。
展覧会シリーズ「ポスターでみる映画史」の第5弾! 初期作品から最新作までアニメーション映画の歴史を総ざらい
宣伝ポスターを中心に映画ジャンルを歴史的にたどる「ポスターでみる映画史」シリーズ。2012年の「西部劇の世界」を皮切りに、「ミュージカル映画の世界」(2014年度)、「SF・怪獣映画の世界」(2018年度)、「恐怖映画の世界」(2022年度)と、これまで4回催された当館主催の人気シリーズ展。第5弾の今回は、映画の誕生間もなくの頃から連綿と作られ、いまや映像文化の大きな一翼を担うアニメーション映画の系譜を、ポスターを中心とした約130点の資料によって網羅的に横断する。
視覚面のみならず聴覚面からもアニメーション映画を追体験できる音楽展示にも注目!
2022年開催の「恐怖映画の世界」以降、お馴染みとなっている音楽展示も展示スペースの一角に登場。古今東西のアニメーション映画の音楽を聴くことができる内容によって、聴覚面でもアニメーション映画の世界を追体験できる。聴きなじみのある旋律や主題歌など、多種多様な音の世界も堪能したい。
公式HP https://www.nfaj.go.jp/exhibition/animatedfilms2025/
第1章 1900s-1910s アニメーション映画の始祖たち
アニメーションは連続した静止画から運動を知覚する「仮現運動」の性質を利用して生み出される。1895年のシネマトグラフの公開から間もないうちに、実写にストップモーション(コマ撮り)によるアニメーションを組み込んだ映画作品が作られ、1900年代の後半には現在のアニメーション作品の基礎となるような作品群がJ・ステュアート・ブラックトン、エミール・コール、ウィンザー・マッケイたちによって作られた。本章では、映画草創期に活躍したアニメーション作家たちとその作品など、アニメーション映画の始祖たちに注目する。
第2章 1920s-1960s ハリウッド製カートゥーンの隆盛
1928年、ウォルト・ディズニーは「ミッキー・マウス」を生み出し、『蒸気船ウィリー』を全篇トーキー作品として公開した。作品は大きな反響を呼び、ディズニーは一躍時代の寵児となる。その快進撃は続き、世界初の長篇カラーアニメーション『白雪姫』(1937年)を筆頭に数々の意欲的な作品を送り出し、ライヴァルたちとともにアニメーション映画の芸術的水準を飛躍的に高め、アメリカの映画産業にアニメーションの一大牙城を築き上げた。本章ではディズニーのほか「ベティ・ブープ」などで知られるフライシャー兄弟、「トムとジェリー」を作り出したウィリアム・ハンナとジョゼフ・バーベラなど、1920年代から1960年代にかけて隆盛を極めたハリウッドのカートゥーン作品について取り上げる。

『バッタ君町に行く』(1941年、日本公開1951年、デイヴ・フライシャー監督)プレス資料 国立映画アーカイブ所蔵
第3章 1930s-1980s ヨーロッパ、社会主義諸国のアート・アニメーション
アニメーション映画の隆盛はアメリカだけに限らない。世界初の長篇アニメーション『アクメッド王子の冒険』(1926年)がドイツの女性監督ロッテ・ライニガーによって手がけられたという例を挙げるまでもなく、アメリカの隣国カナダ、大西洋を隔てたヨーロッパ諸国、あるいはソヴィエトやチェコなどの社会主義圏でも、アニメーション作品は盛んに製作された。絢爛な色彩と力強く流麗な動きが目を引くアメリカ製の諸作品とは一味違う美しさや質感、そして高い芸術性に彩られた、多様なアニメーション作品の系譜をたどる。

『線と色の即興詩 (ブリンキティ・ブランク)』(1955年、日本公開1956年、ノーマン・マクラレン監督)ポスター 国立映画アーカイブ所蔵

『悪魔の発明』(1958年、日本公開1959年、カレル・ゼマン監督)ポスター 国立映画アーカイブ所蔵
第4章 1930s-1970s 日本のアニメーション映画
現存最古の『なまくら刀』(1917年、幸内純一監督)を皮切りに、日本は世界でも有数の豊かなアニメーション映画の歴史を誇ってきた。さまざまな作家たちが自主製作で精力的な活動を続ける一方で、1956年には日動映画を前身とする東映動画(現在の東映アニメーション)が設立され、大手製作会社の手になるアニメーション製作体制が確立したことも特筆に値する。本章では、大藤信郎、政岡憲三、瀬尾光世、藪下泰司、持永只仁、岡本忠成をはじめとする作家たちが様々な創作態度やスタイルのもと送り出した作品の数々を、テレビ界が大きな発展を遂げる1970年代までを区切りに取り上げる。

『天狗退治』(1934年、大藤信郎監督)ポスター 国立映画アーカイブ所蔵

『桃太郎の海鷲』(1942年、瀬尾光世監督)プレス資料 国立映画アーカイブ所蔵
第5章 1980s-2020s アニメは世界を制す
展覧会の最後となる本章では、1980年代から現在に至るまでのアニメーション映画について取り上げる。テレビの台頭を受けた映画界の斜陽化とテレビアニメの爆発的普及によって、1970年代に入ると日本のアニメーション映画の勢いには翳りが見られたが、宮﨑駿・高畑勲たちによるスタジオジブリやそのライヴァルたちの活躍によって再び活力を得る。そしてアメリカでも、1970年代以降低迷を続けていたディズニーが1990年代初頭に「ディズニー・ルネサンス」と呼ばれる再興を果たし、またピクサーやドリームワークスなどによるフルCG作品が高い評価を得るなど、1980年代から1990年代にかけてアニメーション映画は盛り上がりを見せ始めた。現在も、さまざまなアニメーション映画が生み出され話題をさらっている。まさしくアニメーションは世界の映画を制したと言えるだろう。
トークイベント
ゲスト講師によるギャラリートークや当館研究員による展示品解説を実施。
申込不要、参加無料(展示室内で開催のトークは、観覧券が必要)
●ハリウッド・カートゥーンのなかのクラシック音楽
開催日 2025年5月31日(土)
講師 藤原征生(当館特定研究員)
場所 展示室ロビー(7階)
●企画の見どころと展示品解説
開催日 2025年6月28日(土)
講師 岡田秀則(当館主任研究員)
場所 展示室内(7階)
●映画産業におけるアニメーションの歴史
開催日 2025年7月19日(土)
講師 宮本裕子氏(立教大学現代心理学部准教授)
場所 展示室ロビー(7階)
*詳細は後日発表。