『灰とダイヤモンド』にならぶ、ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダの傑作
『地下水道』(1957)や『灰とダイヤモンド』(1958)で世界の映画界に新風を巻き起こし、ポーランドがたどった歴史やポーランド文学の名作をたびたび映像化、数々の傑作を発表し続けた巨匠アンジェイ・ワイダ。本作は「ヤヌシュ・コルチャック」の筆名を用いて活動、その生涯を子どもたちに捧げ、「子どもの権利条約の父」と呼ばれるユダヤ系ポーランド人教育者・児童文学者・小児科医のヘンルィク・ゴールドシュミット (1879年〜1942年)の半生に基づき映画化した作品である。

1989年よりボーランド上院議員に就任したワイダにとって、本作の撮影時期は政治家として多忙を極め始めた頃と重なっていた。しかし彼は「持てる才能と技能のすべてを『コルチャック先生』に注ぎ込んだ」と語っている。完成作が1990年の第43回カンヌ国際映画祭で上映された際、観客は一斉に立ちあがって万雷の拍手で賞賛の念を表明した。街が侵攻され、虐殺がはじまり、極限の状況のなかで、子どもたちを守るために奔走するコルチャックの姿。揺るぎない子どもたちへの信頼と愛。過酷な日々を過ごしながらも確かに描き出される、少年少女たちの愛らしく生き生きとした表情。そして、「映画の救い」ともいえる幻想的なラストシーンまで、安易な同情をこえて深い感動を我々にもたらす。

脚本を手がけたのは『太陽と月に背いて』(1995)、『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』 (2019)、『人間の境界』(2023)の女性映画監督、アグニェシュカ・ ホラント。撮影は『アメリカの友人』(1977)、『パリ、テキサス』(1984)、『奇跡の海』(1996)など、ヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュ、ラース・フォン・トリアー監督作をはじめ数々の作品を手がけた名カメラマン、ロビー・ミューラー。音楽はポーランドを代表する作曲家で、ワイダともたびたびタッグを組んだヴォイチェフ・キラル。コルチャック役として映画史に残る名演をみせるのはフランス、ポーランドで活躍したヴォイチェフ・ブショニャク。

物語
1936年、ポーランド。子ども向けラジオ番組のホスト役として人気を集めていた小児科医コルチャックは、ある日突然、番組の打ち切りを告げられる。ナチスドイツの影が忍び寄る中、ユダヤ人児童のための孤児院を設立し、自身もユダヤ系でもあるコルチャックを起用し続けることを上層部が危ぶんだ結果だった。やがて第二次世界大戦が勃発、ワルシャワはドイツ軍に占領され、200人におよぶ子どもたちを養うコルチャックの孤児院もゲットーに移設される。常に死と隣り合わせの日々に耐え、なんとか子供たちを守るコルチャックだが、ユダヤ人の強制収容所送りが開始され…。

監督:アンジェイ・ワイダ
撮影:ロビー・ミューラー
音楽:ヴォイチェフ・キラル
脚本:アグニェシュカ・ホラント
編集:エヴァ・スマル
キャスト | ヤヌシュ・コルチャック(ヘンルィク・ゴールドシュミット):ヴォイチェフ・プショニャク | ステファニア・ヴィルチンスカ:エヴァ・ダウコフスカ | マリーナ・ファルスカ:テレサ・ブジシュ・クシジャノフスカ | エステラ:マジェナ・トリバワ | ヘニック:ピョトル・コズウォフスキ |
シュルツ:ズビグニェフ・ザマホフスキ
1990年/ポーランド=独=英/ 118分/モノクロ
提供:マーメイドフィルム 配給:コピアポア・フィルム
Image: Ziegler Film/Renata Pajchel