半世紀を経ても色あせない“ダーティハリー”の鮮烈さ
現代ハリウッド最古参の巨星クリント・イーストウッド
現代ハリウッドの最古参といえるビッグスターはもはやこの人を置いて存在しない。その名はクリント・イーストウッド。1930年5月31日生まれで、先日95歳を迎えたばかりの彼は、昨年末、最新監督作にして再び高い評価を得た『陪審員2番』を発表したところで、いまもってアメリカが誇る現役の映画人なのだ。
そんな彼のキャリアはユニバーサル社の低予算ホラー(『半魚人の逆襲』など)から始まり、50〜60年代の人気TVシリーズ「ローハイド」のレギュラーで最初の成功を掴んだことで波に乗る。そしてイタリアに渡ってセルジオ・レオーネ監督と組んだマカロニ・ウエスタン『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』の傑作3部作で独自のアンチ・ヒーロー役を開発し、後に続く自身の個性を磨いた。
イーストウッド史の重要な一年メモリアル・イヤー“1971”
その後イタリアからハリウッドに戻った彼は一人のベテラン監督と出会う。それが68年の主演作『マンハッタン無宿』で組んだドン・シーゲル。この作品で2人は意気投合。本作はアリゾナの田舎町から凶悪犯護送で大都市ニューヨークに派遣された一匹狼の保安官が、犯人を取り逃し必死の追跡を始めるというもので、『ダーティハリー』のオリジンとも言われる。2人は続いて西部劇『真昼の死闘』(70)でもコンビを組み、イーストウッドはすっかりシーゲルの簡潔で濃密な演出に惚れ込んだ。そんな2人の関係が最も豊かな実りを生んだのが1971年。まず2人にとって3作目となる異色のスリラー『白い肌の異常な夜』が公開され、そのシーゲルのサスペンス演出を受け継ぐようにイーストウッドは監督デビュー作『恐怖のメロディ』を作り上げた。本作には師匠シーゲルがカメオ出演もしている。そして矢継ぎ早に作られたコンビ第4弾がハードボイルド刑事アクションの金字塔と言われる『ダーティハリー』。ここでイーストウッドは体制に抗う孤高の刑事ハリー・キャラハンを熱演。単純な正義の味方ではなく、ルールを無視しても悪人を非情に追い詰めていくマグナムを手にしたダーティ・ヒーローは観客の心を掴んだ。シーゲルにとって最大のヒット作になり、イーストウッドにとっても自らの俳優イメージを確立する代表作に。シリーズ化され約20年に渡って5作目まで製作されているばかりか、『ダーティハリー4』(83)では監督も兼任。「Go Ahead, Make My Day」という映画史に残る名セリフを生み出した。
半世紀を経ても色あせない“ダーティハリー”の鮮烈さ
本作を皮切りに70年代は全米マネーメイキングスターの王者として君臨。『ダーティハリー2』(73)『ダーティハリー3』(76)などを次々ヒットさせながら、同時に『アウトロー』(76)『ガントレット』(77)などで監督としても実力を発揮していく。シーゲルとのコンビ作は79年の『アルカトラズからの脱出』が最後になってしまったが、イーストウッドが初のアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞した西部劇『許されざる者』(92)では、この傑作を91年に死去したシーゲルともう一人の恩師セルジオ・レオーネ(イタリア時代の3作の監督)に捧げていることも良く知られたエピソード。その後『ミリオンダラー・ベイビー』(04)で2度目のオスカー監督賞を受賞し、米映画界隋一の巨匠となっても、イーストウッドと言えばダーティハリー、というスター・イメージは消えることがない。スクリーン初登場から半世紀になってもなお、それほど強烈なインパクトを備えたアクション映画史に残る重要キャラクターなのだ。
『ダーティハリー』STORY
サンフランシスコ市警殺人課のハリー・キャラハン刑事はダーティハリーと呼ばれ、あくなき執念と手段を択ばないやり方で犯人を追い詰め、上司たちからは煙たがられる存在だった。そんなハリーは罪のない人々を殺し、市長に身代金を要求するような卑劣な殺人鬼スコルピオを追跡し、その凶行を阻止する任務を受け、相棒チコ刑事と共に、ルール無用で逮捕するが、警察上層部は危険なスコルピオを放免してしまう。ハリーの怒りは頂点に!
チェックポイント
はみだし系刑事の原型がここに!

同時期に公開された『フレンチ・コネクション』と共に、今なお“はみ出し系刑事アクションの金字塔”と呼ばれる本作。正義のためにルールも無視するそれまでなかった刑事像の原型がハリー・キャラハンという人物に集約されている。
観客の心も射抜いたハリーの愛銃

ハリーが愛用する銃はスミス&ウェッソン・モデル29で、使用銃弾は44マグナム弾。従来の刑事映画でこうしたハンドガンが登場するのは初めてだったはず。この映画を見てマグナムの威力に驚かされた観客は少なくなかった。
映画に刻まれたサンフランシスコの表情

68年の大ヒット作『ブリット』でも舞台となったサンフランシスコだが、本作も同市の名所が次々登場。ハリーがスコルピオを拷問するケザー・スタジアム、市庁舎やバンク・オブ・アメリカ・ビルなど印象的な風景が残されている。