第75回ベルリン国際映画祭にて、ノルウェー映画で初めて最高賞<金熊賞>を受賞したダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督の『DREAMS』が、トリロジーとして制作された『LOVE』『SEX』と共に、特集上映「オスロ、3つの愛の風景」として、3作品を一挙公開。9月5日(金) よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショーする。

夢の中でデヴィッド・ボウイがほほ笑みかけてくる?

「オスロ、3つの愛の風景」より『SEX』は煙突掃除を営む妻子持ちの男性二人が、とある出来事をきっかけに自分自身の「男性らしさ」について悩む異色のコメディ作。今回解禁する本編映像は、煙突掃除人のひとり、金髪の男が「夢にデヴィッド・ボウイが現れた」と同僚に打ち明ける、本作冒頭の特徴的な長回しシーン。

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金髪の男は何やら悩ましげな様子で「夢は大抵忘れるけど、これは鮮明に覚えてる」と、近くに座るもう一人の煙突掃除人に話し始める。「僕がトイレの個室から出ると、手を洗ってるデヴィッド・ボウイがいた。」と心ここにあらずな状態で語る金髪の男に、同僚が「さっき彼は電話中だったと(言ってたよ)」と指摘すると、「そうだっけ?夢は不思議と話しているうちに変わっていく。彼が何をしていたかよく覚えていないんだ」と少し気まずい様子。「ともかく、彼がほほ笑みながら近づいてきて…」と続けようとすると、同僚が「セックスした?」と唐突に話を遮る。これには金髪の男も仰天した様子で否定しながらも、「でも目に惹かれるものがあった。穏やかで力強く、思いやりにあふれていた。主導権は彼にあり、それが心地よかった…」と淡々と目を閉じて思い出すように語る金髪の男。この会話の間、カメラは一切動かず、真ん中に据えた金髪の男を静かに捉え続ける。夢に現れるというデヴィッド・ボウイは物語に今後どのような影響を及ぼしてくるのか、一切読めない展開は観る者の好奇心を刺激してやまない。

『SEX』は第74回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門でエキュメニカル審査員賞など3部門を受賞。陳腐さとは無縁で、どこかシュルレアリスティックな空気をまとった冒頭の会話からも、これまでに培ってきた常識的な価値観を覆すような出来事の予感を感じさせる映像となっている。

ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督インタビュー

画像: ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督インタビュー

――『SEX』はどんな映画ですか?

この映画は、セックスとセクシュアリティについての映画だと思います。私たちがセックスやジェンダーについて人生の中で設けている境界線が、自分たちの内にあるものや、自分がなりうる可能性を本当に包み込めるだけの広さがあるのか、それを問いかけています。
そういった意味で、この映画は「自分自身にもっと自由を許すための方法」についての映画でもあると言えるかもしれません。同時に、マスキュリニティ(男性性)や友情、宗教についての作品でもあります。

――『SEX』では、2人の男性が自らのセクシュアリティについて語り合います。この設定で、どんなことを探求したかったのでしょうか?

私が大事だと思っているのは、ジェンダー・アイデンティティをめぐる議論に、具体的なかたちで貢献することです。「ジェンダー・アイデンティティとは何なのか?」「ジェンダーを持つということはどんな感覚なのか?」そして、「感情の面で、男性であること・女性であること・ノンバイナリーであること、それぞれの体験には何が違うのか?」といった問いを投げかけています。私たちはいつも自分や他者の人生に限界や制限を課しています。でも、自分から遠いと思っていたことが、実は自分の一部かもしれない――そうした可能性はあるのでしょうか?この映画の男性たちは、互いの会話を通じて、まさにこうした問いへの答えを探そうとしているのです。
映画には、観客にとって普段しないような対話を促す力があると思います。この作品も、観る人の人生を少し大きく感じさせることを目的とした試みです。

――この映画では、性的指向について何か伝えたい意図はありましたか?

人の性の経験というのは、思っている以上に幅広くて、多様なものだと思うのです。そして、自分が属すると感じているカテゴリーが、その多様さを必ずしもすべて受け止めてくれるとは限らない。セクシュアリティというのはもっと曖昧で流動的なもので、世の中で一般的に描かれるものよりずっと多面的です。また、「セクシュアル・プラクティス(実践)」と「セクシュアル・アイデンティティ(自己認識)」は別物だという点も、この作品では浮かび上がってきます。それ自体は新しい考え方ではないけれど、その意味を深掘りすることには今も興味があります。

――主人公たちは「煙突掃除人(chimney sweepers)」という職業ですが、なぜこの仕事を選んだのでしょうか?

私は脚本を書くときに、いろんな職業の世界に触れることを楽しみにしています。煙突掃除人というのはあまり馴染みがないし、ちょっと神秘的なオーラをまとった職業でもあります。多くの人が好意的なイメージを持っていて、強い仲間意識がある職業としても知られています。実際に、ヨーロッパ各国の煙突掃除人が集まるフェスティバルもイタリアで毎年開かれていて、国ごとの制服を着てパレードをするんですよ。女性の参加者はまだ少ないけれど、少しずつ増えてきています。そういう意味では、典型的に男性中心の職業と言えるかもしれませんし、男性のジェンダーロールについて語る出発点としても適しています。また、煙突掃除人を描くことで、屋根の上で撮影できるという特典もありました。空や景色が広がる画作りができるんです。

ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督 特集上映「オスロ、3つの愛の風景」

女性教師に恋をした17歳の少女の赤裸々な初恋手記をめぐる『DREAMS』、2人の医療従事者が様々な愛の形を模索する『LOVE』、妻子がいる男性がとある体験から”らしさ”を再考する『SEX』が特集上映「オスロ、3つの愛の風景」として今秋公開される。

『DREAMS』で今年の第75回ベルリン国際映画祭にてノルウェー映画初となる金熊賞受賞という快挙を成し遂げ、世界的な映画監督の仲間入りを果たしたダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督。このトリロジーは僅か1年の間で制作され、3作ともベルリン、ヴェネチアで高い評価を得て、世界中の映画祭で上映された。そしてようやく“発見”された北欧の新星が紡ぐ、愛や親密さ、セクシュアリティにまつわるスリリングでユニークな会話劇は、映画ファンなら必見だ。

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特集上映「オスロ、3つの愛の風景」より『SEX』について語る

『DREAMS』
女性教師のヨハンナに初めての恋をした17歳のヨハンネは、この恋焦がれる想いや高揚を忘れないようにと自らの体験を手記にする。そしてこの気持ちを誰かに共有するため、詩人の祖母に手記を見せたことから、物語は思いもよらない展開へと進み始める。

2025年第75回ベルリン国際映画祭にてノルウェー映画初となる金熊賞を受賞。
同映画祭審査員長のトッド・ヘインズ(『キャロル』)は本作を「鋭い知性で観る者の心を深くえぐる」とたたえ、「叙情的、そしてほんのり挑発的なユーモア。観る者をやさしく、そしてどこか夢見心地に包み込む作品」(The New Yorker)、「秘密主義と吐露したい気持ちで大きく揺れ動く10代の恋心を見事に表現」(Variety)など有名誌からも絶賛の声が寄せられた。

『LOVE』
泌尿器科に勤める女性医師のマリアンヌと男性看護師のトール。共に独身でありステレオタイプな恋愛を避けている。マリアンヌはある時トールから、マッチングアプリから始まるカジュアルな恋愛の親密性を教えてもらう。興味を持ったマリアンヌは自らの恋愛の方法の可能性を探る。一方トールはフェリーで出会った男性を偶然勤務先の病院で見かけ――。

第81回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品作。
海外レビューでは「軽やかでセクシー、どこか哲学的――そして意外にもラディカル。カジュアルな関係も真実の愛も、同じ温度で見つめる優しく繊細な愛の物語」(Variety)と言われるほど、すべての愛を肯定する優しい1作。

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特集上映「オスロ、3つの愛の風景」より『SEX』について語る
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『SEX』
煙突掃除を営む妻子持ちの2人の男。ひとりは男性との衝動的なセックスを通じて新しい刺激を覚えるが、悪びれることなく妻にこの話をしたことで夫婦間がこじれる。もうひとりはデヴィッド・ボウイに女として意識される夢を見て、自分の人格が他人の視線によってどう形成されていているのか気になり始める。良き父、良き夫として過ごしてきた2人は、この奇妙な出来事がきっかけで自らの“男らしさ”を見つめ直すようになる。

2024年第74回ベルリン国際映画祭にてエキュメニカル賞を含む3部門を受賞。
「“らしさ”にうんざりしたあなたへの解毒剤」(The Hollywood Reporter)、「当たり前の規範の破壊と再構築が繰り返される」(Cineuropa)我々の固定概念や価値観を問いただす異色作。

オスロ、3つの愛の風景
『DREAMS』 『LOVE』 『SEX』
9月5日(金)よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

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特集上映「オスロ、3つの愛の風景」より『SEX』について語る

配給:ビターズ・エンド

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