2023年に開催され、好評を博した第一弾特集上映に続き、<メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章>が開催される。上映されるのは日本で劇場初公開となる全7作品を新たにレストア/HDデジタルリマスターした珠玉の作品群だ。この度、メーサーロシュ・マールタ監督の“ミューズ”ともいえるツィンコーツィ・ジュジャのインタビューが到着した。

「その苦労や悩みは今を生きる女性たちもきっと共感できるはず」

メーサーロシュ・マールタは1931年、ハンガリーに生まれ、同国を代表する名匠ヤンチョー・ミクローシュの手引きで、長編劇映画デビュー作となる『エルジ』を監督する。その後も、サボー・ラースロー(ラズロ・サボ)やアンナ・カリーナ、イザベル・ユペール、デルフィーヌ・セリッグなどの名優がこぞって出演する作品を手がけ、アニエス・ヴァルダに至っては自身の映画制作の参考にしたことを明かすなど、その影響は計り知れず“東欧の奇跡“との呼び声も高い存在として、今なお語り継がれている。

今回の特集上映のラインナップは、監督自身の初期―中期作品を中心に、日本で劇場初公開となる全7作品。冷戦下の恐怖政治を生き抜いたメーサーロシュ自身の記憶が刻まれたパーソナルな一大叙事詩「日記」三部作、孤児として育った女性が両親を追い求めるデビュー作『エルジ』、中年の危機に瀕した未亡人の息苦しさをシスターフッド的に描破した『月が沈むとき』、階級格差が男女の結び付きを蝕む『リダンス』といった彼女の作家性が際立つ初期6作品と、アンナ・カリーナを共演に迎え、血の繋がらない男と少女の、親子のような親密さにカメラが向けられた中期の傑作『ジャスト・ライク・アット・ホーム』である。メーサーロシュ・マールタの目を通した<家族>の形、有様が問い直される珠玉の作品群となっている。

コィンコーツィ・ジュジャはアンナ・カリーナと共演を果たした『ジャスト・ライク・アット・ホーム』をはじめ、冷戦下の恐怖政治を生き抜いたメーサーロシュ自身の記憶を刻んだパーソナルな一大叙事詩「日記」三部作では、監督の分身ともいえる女性ユリの人生を演じ切り、まさにメーサーロシュ監督の“ミューズ”と呼ぶにふさわしい存在である。

様々な作品に出演する中、特に思い出深い役柄について「やはり「日記」シリーズ」と即答するツィンコーツィ・ジュジャ。「女優としても人間としても、自分の人生を大きく決定づけた作品でした」と振り返りながら、冷戦下のハンガリーにおける監督自身の苦難や父との複雑な関係、そして1956年のハンガリー動乱――激動の時代を背景に生み出された同シリーズを演じるにあたり、「マールタ監督にとって何よりも大切だったのは父親を見つけることでした。お父様には不公平なことがたくさんあったので、それを理解してほしいとたくさんお話をしてくださいました」と、ジュジャは監督から当時の思いを数多く聞き取ったことを振り返る。

女性の生き方や社会的なテーマを深く掘り下げている作品の先駆けとも言える、メーサーロシュ監督の一連の作品。これらのテーマにどう向き合っていったかという質問に対しては「社会問題や女性の立場というものは、私にとってももちろん大切な問題ではありますが、それはどちらかというと現在進行形のお話」「当時、私はまだとても若かったので、まだ自分のしっかりした意見を持てていませんでした。だから、マールタ監督の考えが私の意見になっていました」「こういった問題はマールタ監督にとってもとても大切なものだったので、そういうお話をたくさん伺いましたし、そのお話に納得してマールタ監督の意見に深く影響を受けていました」と明かす。

さらに「マールタ監督は、人間としても、女性としても、母親としても、私にとってのロールモデルそのもの」だと断言。「彼女に出会うまで、理想とする女性に出会ったことはありませんでしたが、マールタ監督と出会ってすべてが変わりました。以来、彼女は私のお手本です」と感謝を口にする。

ハンガリーではほぼ初となる女性監督として活躍したメーサーロシュ監督。彼女が「アニエス・ヴァルダと笑いあっていたものだ。どこへ行っても『女性はどうやって映画を作るの?』と聞かれるんだから」と語るように、当時の女性監督の立場は決して容易なものではなかった。しかしジュジャ自身は「私が映画の仕事を始めたころにはすでにマールタ監督の存在があり、とても恵まれていました」と述懐する。「性別の違いを意識することなく他の監督やキャストとも仕事ができましたが、マールタ監督との信頼関係はやはり別格で、一生に一度のものだったと思います」と特別な絆を強調した。

『ジャスト・ライク・アット・ホーム』で共演したアンナ・カリーナの思い出を尋ねると「素敵なネックレスをいただいたこと」が真っ先に浮かぶという。当時子供だったジュジャにとって、相手が世界的スターであることを意識することはなく「だからこそ自然に演技ができた」と笑顔を見せる。

今回の特集上映では、彼女が出演した4作品(『ジャスト・ライク・アット・ホーム』と「日記」三部作)が日本で公開されるが、ジュジャからは日本の観客に向けた特別なメッセージも。「自分が出演した映画がこんなにも長い時を超えて日本で上映されるのはとても光栄で、素晴らしいこと」と喜びを語り、「作品が観客の心に少しでも届き、考えるきっかけや人生の参考になればうれしいです」

そして最後にこう締めくくる。「女性として、母親として、仕事をする女性として――どう生きるのか、どう堂々と生きていけるのか。その苦労や悩みは今を生きる女性たちもきっと共感できるはずです。それこそが、メーサーロシュ監督の作品に宿る、時代を超える魅力だと思います」

<ツィンコーツィ・ジュジャ:プロフィール> 
1967年ハンガリー生まれ。76年に、ラノーディ・ラースロー監督『だれのものでもないチェレ』(日本公開79年、岩波ホール)で主人公の孤児を演じ、デビュー作ながらも注目を集める。その演技がメーサーロシュ・マールタ監督の目に留まり、『マリとユリ』(77)に出演、その後、『ジャスト・ライク・アット・ホーム』(78)、「日記」三部作(80-90)に立て続けに起用される。01年にはエヴァ・ガルドス監督作品『アメリカン・ラプソディー』にも出演。メーサーロシュ監督の最新作”Aurora Borealis: Északi fény”(17)にも出演した。

<メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章> 作品紹介

解禁されている本予告は、今回特集上映される全7作品の見どころを切り取ったもの。メーサーロシュの代表作『日記』三部作では監督自身の分身とも言える女性ユリの“叫び“を、『エルジ』では両親に捨てられた少女エルジが母親と対峙する様子を、『月が沈むとき』では、夫の死後自分の所在なさに苦しんでいた未亡人が“父親そっくり“な息子にまた苦しめられながらも諦めずに向き合おう姿を、『リダンス』では、工場勤務の身分を隠して結婚しようとする女性が恋人の母親から詰め寄られるシーンを、『ジャスト・ライク・アット・ホーム』では、アンナ(アンナ・カリーナ)がおかしな三角関係に巻き込まれる様子など、自身も激動の人生を生き抜いたメーサーロシュ・マールタ監督の揺るぎない作家性が際立つ映像に。

画像: - YouTube youtu.be

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本ポスタービジュアルは、『日記 愛する人たちへ』からモスクワへ旅立つユリの姿と、『ジャスト・ライク・アット・ホーム』からアンナ・カリーナの姿を捉えたもの。“さらなる深みへ――“のコピーが添えられ、家族、恋人、友人―さまざまに絡み合う人生を優しく、そして鋭く捉えたメーサーロシュ・マールタの作品群への期待が高まるものとなっている。

「自由の問題も女性の状況も私が映画を撮った頃からあまり良くはなっていないのですから、これらの作品はきっと、今の時代にも有効でしょう」。2023年に開催された特集上映に寄せて、メーサーロシュから届いたレターの一文である。

(c) National Film Institute Hungary - Film Archive

『エルジ』 

英題:The Girl 
原題:Eltávozott nap 
監督:メーサーロシュ・マールタ 
脚本:メーサーロシュ・マールタ 
撮影:ソムロー・タマーシュ 
出演:コヴァーチュ・カティ 
1968年/ハンガリー/スタンダード/モノクロ/84分/HDデジタルリマスター/G/字幕翻訳:森彩子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

<story>児童養護施設で育ったエルジは、24年ぶりに小村で暮らす実の母を訪ねる。再婚していた母は、娘の来訪に戸惑い、彼女を姪と偽って新しい家族に引き合わせた。家族関係の修復も曖昧なまま街へ戻ったエルジは、行きずりの男と交際しながら、鬱々と日々を過ごす。ある日、素性の知れぬ中年男性がエルジの前に現れ、「君の両親は死んだ」と告げる。長編デビュー作であり、のちに繰り返し描かれる“養子”をテーマとした自伝的作品。

画像2: (c) National Film Institute Hungary - Film Archive

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『月が沈むとき』

英題:Binding Sentiments 
原題:Holdudvar 
監督:メーサーロシュ・マールタ 
脚本:メーサーロシュ・マールタ 
撮影:ケンデ・ヤーノシュ 
出演:トゥルーチク・マリ、コヴァーチュ・カティ、バラージョヴィチ・ラヨシュ 
1968年/ハンガリー/シネマスコープ/モノクロ/86分/2Kレストア/G/字幕翻訳:森彩子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

<story>政治家の夫に先立たれたエディトは、保険金や邸宅の相続を頑なに拒む。父の名声が汚されることを恐れた息子は、母エディトを別荘に軟禁した。息子の婚約者も「看守」として手を貸すが、壊れていくエディトを見るうち、結婚という結び付きに違和感を募らせていく。「家」に囚われた女性の苦しみと、彼女に寄り添う女性の交流が描かれたシスターフッド映画。

画像3: (c) National Film Institute Hungary - Film Archive

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『リダンス』 

英題:Riddance 
原題:Szabad lélegzet 
監督:メーサーロシュ・マールタ 
脚本:メーサーロシュ・マールタ 
撮影:コルタイ・ラヨシュ 
出演:クートヴェルジ・エルジェーベトゥ 1973年/ハンガリー/スタンダード/モノクロ/81分/4Kレストア/PG-12/字幕翻訳:高橋文子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

アニエス・ヴァルダがそのシャワーシーンに強く魅了されたという、労働者階級とインテリの格差を背景に女性の選択を描く静かな力作。撮影はジュゼッペ・トルナトーレ作品で知られるコルタイ・ラヨシュ。

<story>
工場勤務のユトゥカは、ダンスパーティーで出会った大学生アンドラーシュと恋に落ちる。彼に拒絶されることを恐れたユトゥカは、自分も学生であることを装い、名前も偽る。やがてアンドラーシュはユトゥカの素性を知るが、両親には真実を告げられずにいる。両家合同の食事会。アンドラーシュ家の階級意識が剥き出しになっていく。

画像4: (c) National Film Institute Hungary - Film Archive

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『ジャスト・ライク・アット・ホーム』 

英題:Just Like at Home 
原題:Olyan, mint otthon 
監督:メーサーロシュ・マールタ 
脚本:コーローディ・イルディコー 
撮影:コルタイ・ラヨシュ 
出演:ヤン・ノヴィツキ、ツィンコーツィ・ジュジャ、アンナ・カリーナ、サボー・ラースロー(ラズロ・サボ) 
1978年/ハンガリー/ビスタ/カラー/109分/4Kレストア/PG-12/字幕翻訳:高橋文子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

父への献辞で始まる本作は、メーサーロシュにとって非常に個人的な父との物語だといえる。アンナ・カリーナがふたりの関係に揺らぎを与える人物を好演。

<story>アメリカからハンガリーへ帰国したアンドラーシュ。根無し草状態の彼は、放し飼いにされていた犬に惚れ込み、飼い主の少女から強引に買い取った。わだかまりを残したふたりは、やがて親子とも言い切れぬ親密な関係を育んでいく。アンドラーシュのかつての恋人アンナも、そんなふたりを気に掛けている。彼女はアンドラーシュに、愛を告白するが……。

画像5: (c) National Film Institute Hungary - Film Archive

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『日記 子供たちへ』 

英題:Diary for My Children 
原題:Napló gyermekeimnek 
監督:メーサーロシュ・マールタ 
脚本:メーサーロシュ・マールタ 
撮影:ヤンチョー・ニカ 
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ 
1980-83年/ハンガリー/スタンダード/モノクロ/108分/4Kレストア/G/字幕翻訳:森彩子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ、秋山晋吾

「日記」三部作の第一部。冷戦下の自身の苦難を描き、1984年のカンヌで審査員グランプリを受賞。撮影は義理の息子ヤンチョー・ニカが担当した。

<story>1947年、ソ連からハンガリーへ帰国したユリは、共産党員の養母マグダの保護下で育つ。父は秘密警察に捕らわれ、母はこの世を去っていた。恐怖政治が布かれるこの国で、ユリは不安定な生活を強いられる。ある日、ユリはヤーノシュと名乗る男と出会う。彼は父と瓜二つの人物だった。

画像6: (c) National Film Institute Hungary - Film Archive

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『日記 愛する人たちへ』 

英題:Diary for My Loves 
原題:Napló szerelmeimnek 
監督:メーサーロシュ・マールタ 
脚本:メーサーロシュ・マールタ、パタキ・エーヴァ 
撮影:ヤンチョー・ニカ 
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ 
1987年/ハンガリー/スタンダード/カラー・モノクロ/132分/2Kレストア/G/字幕翻訳:森彩子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ、秋山晋吾

「日記」三部作の第二部で1987年のベルリンで銀熊賞を受賞。モスクワ留学から1956年のハンガリー事件前夜までを描く。ユリが父と瓜二つの男に抱く愛情は複雑になり、ふたりの関係は次第にメロドラマ性を帯び始めていく。

<story>マグダの元を離れたユリは、織物工場で働いている。映画監督を志すユリは、モスクワの大学で映画制作を学ぶことになった。スターリンの死後、ユリは卒業制作として、労働者の実情を捉えたドキュメンタリー映画を完成させたものの、反-社会主義リアリズム的な内容から、再編集を命じられた。そしてユリは父がすでに死去したことを知らされる。

画像7: (c) National Film Institute Hungary - Film Archive

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『日記 父と母へ』 

英題:Diary for My Father and Mother 
原題:Naplóapámnak, anyámnak 
監督:メーサーロシュ・マールタ 
脚本:メーサーロシュ・マールタ、パタキ・エーヴァ 
撮影:ヤンチョー・ニカ 
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ、トゥルーチク・マリ 
1990年/ハンガリー/スタンダード/カラー・モノクロ/117分/2Kレストア/G/字幕翻訳:森彩子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ、秋山晋吾

「日記」三部作の最終作。1956年のハンガリー事件から民主化運動の挫折までを描き、戦争の余波と闘いの行方を問う。

<story>1956年10月23日、ブダペシュトで民衆が蜂起する。モスクワで足止めを食っていたユリは、12月に入りようやくハンガリーへの帰国を許された。ユリはカメラを手に、荒廃した街並みや犠牲者を見つめていく。その年の大晦日、ユリたちは一堂に会する。政治的立場を異にする者たちも、仮装や音楽、ダンスに耽る。しかし反動分子の弾圧はとどまるとこ

画像8: (c) National Film Institute Hungary - Film Archive

(c) National Film Institute Hungary - Film Archive

<メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章>
11月14日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

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