『サタンタンゴ』『ダムネーション/天罰』『ヴェルクマイスター・ハーモニー』
クラスナホルカイ・ラースローとタル・ベーラの共同作業はラースローが初長編小説「サタンタンゴ」を発表した直後から、タル・ベーラ監督の最後の映画『ニーチェの馬』(2011年)まで25年以上に渡って続き、『ダムネーション/天罰』(1988年)以降、タル・ベーラのすべての長編映画でラースローは共同脚本としても参加している。
クラスナホルカイ・ラースローの初長編小説「サタンタンゴ」をタル・ベーラ監督が4年の歳月をかけて映画化した伝説の傑作『サタンタンゴ』(1994年)、クラスナホルカイ・ラースローとタル・ベーラの初のコラボレーションとなった『ダムネーション/天罰』(1988年)、タル・ベーラのフィルモグラフィの中でも最もラディカルでパンクな『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000年)という3本のクラスナホルカイ・ラースロー原作+タル・ベーラ監督作品を上映。
「終末的な恐怖のただ中にあって、芸術の力を再確認させる、説得力と先見性のある作品群」とノーベル文学賞の授賞理由と評されたクラスナホルカイ・ラースローの原作を、不世出の鬼才として今なお信奉者を増やし続けるタル・ベーラ監督が見事に映画化した3作品をスクリーンで体験することのできる貴重な特集上映となる。
◉『サタンタンゴ』4Kレストア版
クラスナホルカイ・ラースローの処女長編をタル・ベーラ監督が4年の 歳月をかけて完成させた伝説の傑作。ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントといった映画監督たちに大きな影響を与え、ルーヴル美術館やニュー ヨーク近代美術館(MOMA)でも上映された7時間18分の大作。
経済的に行き詰まり、終末的な様相を纏っている、ハンガリーのある村。降り続く雨と泥に覆われ、村人同士が疑心暗鬼になり、活気のないこの村に死んだはずの男イリミアーシュが帰ってくる。彼の帰還に惑わされる村人たち。イリミアーシュは果たして救世主なのか?それとも?タンゴのステップ<6歩前に、6歩後へ>に呼応した12章で構成され、前半の6章は複数の視点で一日の出来事が描かれ、後半の6章はイリミアーシュが戻ってきてからを描いている。 デビュー以来一貫して人間を、そして世界を凝視し見つめ続けてきたタル・ベーラ。本作でも秩序に縛られ、自由を求め、幻想を抱き、未来を信じ、世界に幻滅し、それでも歩き続ける人間の根源的な姿を詩的かつ鮮烈に描いている。
1994年/ハンガリー=ドイツ=フランス/モノクロ/7時間18分

『ダムネーション/天罰』4Kレストア版
クラスナホルカイ・ラースローとタル・ベーラの初のコラボレーションとなった作品。ラースローが初めて脚本を手掛け、ラースロー(脚本)、ヴィーグ・ミハーイ(音楽)が揃い、“タル・ベーラ スタイル”を確立させた記念碑的作品。ラースローと出会ったタル・ベーラは『サタンタンゴ』をすぐに取りかかろうとしたが、時間も予算もかかるため、先に本作に着手する。
不倫、騙し、裏切りー。荒廃した鉱山の町で罪に絡みとられて破滅していく人々の姿を、『サタンタンゴ』も手掛けた名手メドヴィジ・ガーボルが「映画史上最も素晴らしいモノクロームショット」(Village Voice)で捉えている。
1988年/ハンガリー/モノクロ/121分

『ヴェルクマイスター・ハーモニー』4Kレストア版
ハンガリーの荒涼とした田舎町を舞台に天文学が趣味のヤーノシュを通して描かれる、全編、わずか37カットという驚異的な長回しの漆黒の黙示録。
広場に忽然と現れた見世物の“クジラ”と、“プリンス”と名乗る扇動者の声。その声に煽られるように広場に群がる住人達。彼らの不満は沸点に達し、破壊とヴァイオレンスへと向かい始める。四半世紀前の製作ながら、見事なまでに現在を予兆している。
ファスビンダー作品のミューズとも言えるハンナ・シグラが物語の重要なカギを握る役で出演しているのも見逃せない。
タル・ベーラのフィルモグラフィの中でも最もラディカルでパンクな作品。
2000年/ハンガリー=ドイツ=フランス/モノクロ/146分

*3作品すべて、
監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー