今回開催される「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」では、彼の節目を祝し、日本劇場初公開の貴重な作品を含む7作品が一挙上映される。
日本劇場初公開作品としては、『ブレイカウェイ』(2000)、『フレッシュ・デリ』(2003)、『メン&チキン』(2015)の3作品が登場。いずれも盟友アナス・トマス・イェンセン監督とタッグを組んだ作品で、マッツのインパクト抜群の“怪演”が光るラインナップ。同じくイェンセン監督と組んだ『アダムズ・アップル』(2005)も上映され、二人の相性抜群のコラボレーションを堪能できる。
さらに『アフター・ウェディング』(2006)、『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(2012)、そして『偽りなき者』(2012)と国際的な名声を確固たるものにした時期の代表作も登場。この3作品はすべてがアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされており、マッツの圧倒的な演技力を証明する名作ばかりだ。
本生誕祭は、キャリアを通して培われたマッツの演技力の奥行きを改めて実感できる内容。若き日の初期作から円熟期の代表作まで、その変化と進化をたどることのできる貴重な機会となっている。
2025年11月14日(金)公開
〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭
配給:シンカ
【上映作品】
ブレイカウェイ(2000)※日本劇場初公開
フレッシュ・デリ(2003)※日本劇場初公開
アダムズ・アップル(2005)
アフター・ウェディング(2006)
ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮(2012)
偽りなき者(2012)
メン&チキン(2015)※日本劇場初公開
ブレイカウェイ【日本劇場初公開】
Blinkende Lygter(Flickering Lights)
悪党を演じるマッツ・ミケルセンの演技が光る“北欧映画の隠れた名作”
マッツ・ミケルセンの盟友として知られ、この後も『ライダーズ・オブ・ジャスティス』など数々の作品でタッグを組むことになるアナス・トマス・イェンセンの長編監督デビュー作。犯罪者として生きてきた4人の男たちが、逃亡の果てに辿り着いた田舎町で新しい人生を模索する姿を、ブラックユーモアと哀愁を織り交ぜて描く。
主演に「キングダム」シリーズのセーン・ピルマーク。共演に若き日のマッツのほか、ウルリク・トムセン、ニコライ・リー・コスとのちのデンマーク映画界を牽引する俳優たちが集結している。バイオレンスと人間ドラマが絶妙に融合した本作は、デンマーク国内で大ヒットを記録し、“北欧映画の隠れた名作”として語り継がれる。
あらすじ
コペンハーゲンで暮らす中年のチンピラ、トーキッド(セーン・ピルマーク)と仲間たちはボスの命令で大金を強奪するが、そのまま持ち逃げを企てる。バルセロナを目指して逃走する道中、彼らは田舎の森にひっそりと建つ廃屋に身を潜めることに。やがてトーキッドは逃亡生活ではなく、「新たな生き方を見つける」ことへと心境を変えていく。
マッツ・ミケルセンの役どころは?
マッツが演じるのは、グループの中で最も血の気が多く粗暴な性格のアーニー。短気でトラブルメーカーながら、どこか子どもっぽさや憎めない一面があり、マッツの巧みな表現力が光る。当時はまだ国際的ブレイク前だが、すでに“ただの悪党では終わらない奥行き”をキャラクターに与えており、のちの悪役に通じる魅力の片鱗を見ることができる。
デンマーク、スウェーデン/2000年/1時間49分
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:セーン・ピルマーク、ウルリク・トムセン、ニコライ・リー・コス、マッツ・ミケルセン
© M&M Rights ApS og DR TV-Drama
フレッシュ・デリ【日本劇場初公開】
De grønne slagtere(The Green Butchers)
“禁断の肉”を提供した精肉店の顛末を描くブラックコメディ
『ブレイカウェイ』に続き、アナス・トマス・イェンセン監督とマッツ・ミケルセンが再びタッグを組んだ衝撃のブラックコメディ。精肉店に勤める冴えない二人の男が、ふとした偶然をきっかけに「特別な肉」を売り出し、思いがけず大成功を収めてしまうという皮肉で不穏な物語をブラックユーモアを交えて描く。
主人公二人を演じるのはマッツとニコライ・リー・コス。『ブレイカウェイ』でも共演した二人が再び絶妙な掛け合いを見せる。ショッキングな内容を扱いながらも、登場人物たちの孤独や承認への欲求が浮かび上がってくるストーリーで、マッツの怪演とイェンセン監督の風刺的な語り口が融合した異色作となっている。
あらすじ
精肉店で働くスヴェン(マッツ・ミケルセン)とビャン(ニコライ・リー・コス)は、独立して自分たちの店を開くことを決意する。ところが新店舗はまったく客が入らず、焦ったスヴェンはある出来事をきっかけに禁断の「特別な肉」を売り出してしまう。皮肉にもそれが評判を呼び、店は大繁盛。人気に味をしめたスヴェンの狂気は一線を越えていく。
マッツ・ミケルセンの役どころは?
マッツが演じるのは、強すぎる劣等感と承認欲求に苛まれる男スヴェン。奇抜なヘアスタイルに汗まみれの姿で、誰からも愛されない孤独な男の痛々しさを体現している。後年の洗練された知的な役柄とは対照的に、本作では弱さや狂気を内包するキャラクターを見事に演じ切り、マッツの振り幅の広さを堪能できる、初期の代表的怪演のひとつとなっている。
デンマーク/2003年/1時間40分
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コス、ボディル・ヨルゲンセン
© 2003 M&M De Grønne Slagtere ApS.
アダムズ・アップル
Adams Æbler(Adam's Apples)
旧約聖書「ヨブ記」を下敷きにした予測不能な衝撃作
『ブレイカウェイ』『フレッシュ・デリ』に続き、アナス・トマス・イェンセン監督とマッツ・ミケルセンが3度目のタッグを組んだダークなヒューマンドラマ。旧約聖書の「ヨブ記」や“アダムのリンゴ”の寓話をモチーフに、楽観的で妄信的な牧師と、神を信じないネオナチの男という、水と油のような二人の対立と交流を描く。
キャストにはウルリク・トムセンやマッツといった“イェンセン組”の常連俳優が集結。人里離れた教会を舞台に、過去に傷を負った人々が織りなす人間模様と彼らに降りかかる不条理な出来事、そして試練の果てに訪れる“奇跡”を鮮やかに描き出す。デンマークのアカデミー賞といわれるロバート賞で作品賞を含む主要部門を受賞した。
あらすじ
仮釈放されたネオナチの男アダム(ウルリク・トムセン)は更生プログラムの一環として田舎の小さな教会へ送られる。そこでは牧師のイヴァン(マッツ・ミケルセン)が前科者たちを温かく迎え入れていた。妄信的なまでに信仰心を貫くイヴァンに反発したアダムは、その虚飾を暴こうとするが、やがて彼の信仰の裏に隠された壮絶な過去と対峙する。
マッツ・ミケルセンの役どころは?
マッツが演じる牧師イヴァンは、すべての困難を「試練」と解釈する楽天的な人物。しかしその裏には、想像を絶する痛ましい過去とそこからの現実逃避が潜んでいる。マッツはこのキャラクターを、狂気と神聖さの狭間で揺れる“矛盾を抱えた人物”として繊細に体現。その深みのある演技が、彼の国際的な評価をさらに高めるきっかけとなった。
デンマーク=ドイツ/2005年/1時間34分
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:ウルリク・トムセン、マッツ・ミケルセン、ニコラス・ブロ、パプリカ・スティーン
© 2005 M&M Adams Apples ApS.
アフター・ウェディング
Efter brylluppet(After the Wedding)
結婚式での“運命の再会”がひとりの男の人生を揺るがす
『しあわせな孤独』『ある愛の風景』の北欧の名匠スサンネ・ビア監督と脚本家アナス・トマス・イェンセンが再び手を組み、生きることの意味と家族の絆を描く感動の人間ドラマ。インドで孤児院を運営する男が、ある結婚式に出席したことをきっかけに、過去と家族にまつわる抗いがたい運命に巻き込まれていく。
主演マッツ・ミケルセンの抑制された深みのある演技と、ビア監督ならではの鋭い心理描写が融合し、第79回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど国際的に高い評価を受けた。共演にはロルフ・ラッスゴードやシセ・バベット・クヌッセンら北欧の名優たちが名を連ねる。2019年には主人公を女性に置き換えたハリウッド・リメイク版『秘密への招待状』も製作された。
あらすじ
インドで孤児院を運営するヤコブ(マッツ・ミケルセン)は、実業家ヨルゲン(ロルフ・ラッスゴード)から巨額の寄付を提案され、故郷デンマークへ帰国する。だが、ヨルゲンはすぐに寄付を約束せず、代わりに娘の結婚式への出席を求める。式の場でヤコブは元恋人(シセ・バベット・クヌッセン)と20年ぶりに再会し、思いも寄らぬ衝撃の事実を知る。
デンマーク、スウェーデン/2006年/2時間
監督:スサンネ・ビア
出演:マッツ・ミケルセン、ロルフ・ラッスゴード、シセ・バベット・クヌッセン
© 2006 Zentropa Entertainments16 ApS. & After the Wedding Ltd./Sigma Films III Ltd. All rights reserved 2006
マッツ・ミケルセンの役どころは?
マッツが演じるヤコブは、インドの貧しい子どもたちのために身をささげる理想主義者。彼が突きつけられる“過去の清算”と“家族との再生”の物語の中で、マッツは動揺、怒り、葛藤といった複雑な感情を、セリフに頼らずに眼差しと仕草で雄弁に表現。その繊細かつ力強い演技は、同年の『007/カジノ・ロワイヤル』と並び、彼の国際的評価を決定づけた。
ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮
En kongelig affære(A Royal Affair)
デンマーク王室史上最もドラマティックな悲劇を映画化
18世紀のデンマーク王室で実際に起きたスキャンダラスな事件を題材にした、壮大かつ格調高い歴史ドラマ。孤独な若き王妃と、理想に燃える王の侍医との禁断の愛、そして国を揺るがす社会改革の行方を、丹念な時代考証と重厚な筆致で描き出す。
主人公の侍医をマッツ・ミケルセンが、王妃を『リリーのすべて』のアリシア・ヴィキャンデルが演じる。監督は、のちに『愛を耕すひと』でもマッツとタッグを組むニコライ・アーセル。デンマーク王室史上、最もドラマティックといわれる悲劇を、精緻な脚本と美術で甦らせた。第85回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、ベルリン国際映画祭では脚本賞と男優賞(国王役のミケル・ボー・フォルスゴー)を受賞した。
あらすじ
18世紀後半、王政末期のデンマーク。英国から嫁いできた若き王妃カロリーネ(アリシア・ヴィキャンデル)は、精神的に不安定な王クリスチャン7世(ミケル・ボー・フォルスゴー)に失望し、孤独を深めていた。そんな中、王の侍医として宮廷に招かれたストルーエンセ(マッツ・ミケルセン)は王の唯一の理解者となる一方で、やがて王妃と禁断の恋に落ちていく。
マッツ・ミケルセンの役どころは?
マッツが演じるのは、啓蒙思想に傾倒する医師ストルーエンセ。冷静で思慮深い人物でありながら、王妃との恋に身を焦がす情熱的な一面も併せ持つ。マッツはその内面の葛藤を抑制のきいた演技で体現し、激情があふれ出す瞬間には圧倒的な存在感を放つ。ポニーテールにクラシカルな装いという佇まいが、彼の知的な色気をいっそう際立たせる。
デンマーク、スウェーデン、ドイツ、チェコ/2012年/2時間17分
監督:ニコライ・アーセル
出演:マッツ・ミケルセン、アリシア・ヴィキャンデル、ミケル・ボー・フォルスゴー
© 2012 Zentropa Entertainments28 ApS, Zentropa Entertainments Berlin, Zentropa International Sweden and Sirena Film Prague
偽りなき者
Jagten(The Hunt)
集団心理の恐怖と人間の尊厳を描く社会派ドラマ
デンマークの小さな町を舞台に、冤罪と集団心理の暴走が一人の男の人生を崩壊させていく過程を描いた衝撃の社会派ドラマ。幼稚園教諭として穏やかに暮らしていた男が、園児の何気ない作り話をきっかけに“児童虐待の容疑者”として糾弾されてしまう。主演のマッツ・ミケルセンがカンヌ国際映画祭男優賞を受賞し、作品も第86回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど、世界中で高い評価を受けた。
監督は後年の『アナザーラウンド』でもマッツとタッグを組むトマス・ヴィンターベア。たった一つの噂が善良な男の人生と人間関係を破壊し、平和な町が現代の「魔女狩り」の場へと変貌していく過程は、息苦しいほどの緊迫感と日常に潜む恐怖を観客に突きつける。
あらすじ
心優しい幼稚園教師ルーカス(マッツ・ミケルセン)は、離婚後も息子との関係を大切にしながら、地元の人々との穏やかな日常を送っていた。だがある日、園児の何気ない発言が「ルーカスによる性的虐待の告発」として広まり、瞬く間に町中が彼に“変質者”の烙印を押す。ルーカスは絶望的な孤立の中で人間の尊厳を守ろうと必死に抗い続ける。
マッツ・ミケルセンの役どころは?
マッツが演じるルーカスは優しく誠実な男でありながら、社会からの疑念によって破滅へと追い込まれる存在。マッツは、その役をただの被害者としてではなく、尊厳を奪われながらも誇りを貫こうとする人物として静かな強さをにじませて演じている。中でも、クリスマスイブの教会で耐え忍んでいた感情を露わにするシーンは本作最大の見どころ。
デンマーク/2012年/1時間55分
監督:トマス・ヴィンターベア
出演:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、アニカ・ヴィタコプ
© 2012 Zentropa Entertainments 19 ApS and Zentropa International Sweden.
メン&チキン【日本劇場初公開】
Mænd og Høns(Men & Chicken)
マッツ・ミケルセンの“怪演”が際立つ異色の家族劇
『ブレイカウェイ』『フレッシュ・デリ』『アダムズ・アップル』に続き、監督アナス・トマス・イェンセンとマッツ・ミケルセンが四度目のタッグを組んだ異色ブラックコメディ。父の死をきっかけに“本当の家族”を探す旅に出た兄弟が、孤島の屋敷で出会った異母兄弟たちと奇妙な共同生活を送ることになる。
共演には『裏切りのサーカス』のデヴィッド・デンシック、『フレッシュ・デリ』のニコライ・リー・コス、『ライダーズ・オブ・ジャスティス』のニコラス・ブロら北欧の個性派俳優が集結。イェンセン監督特有の濃すぎるキャラクター造形、過激なバイオレンス描写、そして皮肉とユーモアが同居する世界観が全開の、マッツ出演作の中でもひときわ異彩を放つカルト的な一作。
あらすじ
神経質な大学教授ガブリエル(デヴィッド・デンシック)と問題児の弟エリアス(マッツ・ミケルセン)は、父の遺品のビデオレターを発見し、自分たちが養子であり異母兄弟であることを知る。実の父親を求めて孤島の屋敷を訪れた二人を待っていたのは、常軌を逸した行動を繰り返す“家族”たちと、あまりにもショッキングな出生の秘密だった。
マッツ・ミケルセンの役どころは?
マッツが演じるエリアスは、粗野で短気、性的衝動を抑えきれない問題児。落ち着きのない挙動と奇抜なルックスが強烈な印象を残す一方で、兄弟への愛情や孤独が垣間見える繊細な内面も併せ持つ。下品さと暴力性の裏に人間味をにじませるマッツの演技は圧巻。俳優としての柔軟さと大胆さを存分に発揮した、まさに“怪演”と呼ぶにふさわしい役どころだ。
デンマーク=ドイツ/2015年/1時間44分
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン、デヴィッド・デンシック、ニコライ・リー・コス、ニコラス・ブロ
©2015 M&M Productions A/S, Studio Babelsberg, DCM Productions & M&M Mænd & Høns ApS








