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ジュリエット・ビノシュやファン・ビンビンらがレッドカーペットに

ジュリエット・ビノシュはアソシエイト・プロデューサーのMEGUMIとレッドカーペットに
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『母なる大地』のファン・ビンビンは15年ぶりのTIFF参加
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10月27日、「第38回東京国際映画祭」のオープニング・セレモニーが日比谷ステップ広場で開催され、各国から集まった多くのセレブがレッドカーペットを歩いた。トップバッターで登場したのはオープニング作品『てっぺんの向こうにあなたがいる』の吉永小百合、のん、阪本順治監督のトリオ。さらに映画祭のフェスティバル・ナビゲーター、瀧内公美がブラックドレスで現われると一層華やかな雰囲気に。またコンペ作品の『恒星の向こう側』から中川龍太郎監督、福地桃子、河瀨直美、寛一郎らが、『金髪』から坂下雄一郎監督、岩田剛典、白鳥玉季らが参加。海外からも『イン・アイ・イン・モーション』のジュリエット・ビノシュはじめ、『母なる大地』のファン・ビンビン、『SHE HAS NO NAME』のピーター・チャン監督、『MISHIMA』のポール・シュレイダー監督らがやってきて、総勢260名以上のゲストが観衆からの喝采を浴びていた。

オープニング作品『てっぺんの向こうにあなたがいる』の阪本監督、吉永小百合、のん
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『SHE HAS NO NAME』のピーター・チャン監督
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レッド・カーペット終了後、東京宝塚劇場で行われたセレモニーでは、コンペ部門の審査員たちが登壇、審査員長のカルロ・シャトリアンの挨拶では「私にとって、映画を愛する誰しもにとって大事な国である日本に来られてうれしいです。まだ作品を見ていませんが、それぞれ異なるバックグラウンドを持つ審査員が集まりました。開催中にお互いや世界を深く知ることができる豊かさを映画祭がもたらしてくれるでしょう」と審査への思いを語ったほか、今回監督として来場したジュリエット・ビノシュは「どんな芸術形態にせよ、自分自身の独立した考えを持って芸術に勤しむことが大切。頑張ってください」と来場した映画関係者に激励の言葉をかけた。

監督作『イン・アイ・イン・モーション』のQ&Aに登壇したビノシュにMEGUMIから花束が
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上映会やイベントにやってきた海外ゲストたち
コンペ部門の『母なる大地』で上映後に舞台挨拶したファン・ビンビンは15年ぶりに東京国際映画祭に帰ってこられてとても嬉しいと言い、「この映画ではいろんな国の言葉を話さなくてはならず大変でしたが、共演者たちとは家族のような間柄になり、大きなチャレンジすることができました」と語った。また新作で共演したリリー・フランキーが見に来てくれたことにも感謝の言葉を述べていた。ガラ・セレクション部門の『SHE HAS NO NAME』上映後に登場したピーター・チャン監督は「私の作品の多くのファンはセンチメンタルな映画を求める人が多いと思うのですが、今回はがらりと雰囲気を変えてみました、自分のことを楽天的な悲観者とよく表現するのですが、今回は悲観的な部分が大きくなっていると思います」と語った。

『トワイライト・ウォーリーズ…』のソイ・チェン監督のマスタークラスは盛会に
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また『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』のソイ・チェン監督がマスタークラスに登場。「1年くらいたっているのにまだこの映画を観に来て下さるなんて、東京国際映画祭には感謝するばかりです」と本作の日本での大反響ぶりに驚きの言葉を。そして「続編は間違いなく撮ります。実は来年の3月にクランクインするんです。その後に前日譚も撮る予定です。脚本はすでにありますが、とにかく早く皆さんにお届けしたいと思います」と嬉しい報告をしてくれた。もう一人、人気監督がオープニングには間に合わなかったが、東京に無事到着。2年ぶり3度目の来日を果たしたのはガラ・セレクション部門で上映の『エディントンへようこそ』でやって来たアリ・アスター監督だ。「これまでこんなに毎回反応が違う映画を作ったことがありません」というアスターは、花束贈呈役で現われた河合優実から「日本でも映画を撮ってほしいです」とリクエストされ、「是非撮りたいです!」と即答。「映画を撮るのは日本に来るためというくらい日本が好きです。もし撮るなら、その価値のあるストーリーを考えなくては」と答えてくれた。

『エディントンへようこそ』のアリ・アスター監督に河合優実から花束贈呈
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日本初上映が実現した『MISHIMA』のポール・シュレイダー監督
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日本愛という意味ではこちらも年季が入っているポール・シュレイダー監督は、日本で約40年も前に撮影されながら、これまで正式に国内上映されることのなかった『MISHIMA』の上映が今回ようやく叶って感無量の様子。チケットは発売開始15分で完売となる反響も話題となった本作は、三島由紀夫生誕100年を記念した特集の特別上映で実現した。この映画は第1回東京国際映画祭で上映予定だったが遺族の意向などで、上映が不可能になっていた。日本での上映はシュレイダー監督の夢だった。「必ず実現すると信じていましたが、それまで私が生きていられるかが問題でした」というシュレイダーは「なぜ日本人でない私が三島を撮るのかとよく聞かれました。三島のことは日本にいた兄レナードを通して知っていました。三島の心理は私が脚本を書いた『タクシードライバー』の主人公トラヴィスととても似ています。彼と同じような考え方を持つ人物がこんな離れた東洋にいると知り、ぜひともこの題材を取り上げたいと思ったのです」と詰めかけた観客に向け語った。

黒澤明賞の受賞者、クロエ・ジャオと李相日
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11月3日には恒例の黒澤明賞の授賞式が行われ、今回の受賞者、クロエ・ジャオ監督と李相日監督がそろって登場した。ジャオ監督は「私もアジアの女性監督として黒澤明監督には大きな影響を受けているので、この賞をいただき勇気づけられた思いです」と挨拶。李監督は「(黒澤監督は)とてつもなく大きな存在です。歌舞伎でいう最も大きな名跡にアウトサイダー的な自分が向かっていく、その怖さと重責を感じています」とコメントした。ジャオは今年初めて歌舞伎を見たので『国宝』を観ることも楽しみにしていると語った。
グランプリは現代の問題も照射した『パレスチナ36』に

第38回東京国際映画祭コンペティション部門の受賞者たちの記念写真
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様々な映画の上映、催しが行われた映画祭の10日間が早くも過ぎ去り、いよいよ11月5日のクロージング・セレモニーの日を迎え、今回のコンペ部門などの各賞が発表された。注目の東京グランプリ/東京都知事賞に選出されたのは、1936年英国委任統治時代のパレスチナを舞台に、パレスチナのアラブ人たちがユダヤ人入植者たちと、英国植民地支配への反発から起こした民族主義的な反乱を描くアンマリー・ジャシル監督の『パレスチナ36』(パレスチナ=英=仏=デンマーク)。現代のパレスチナ問題も照射する本作の受賞は審査員満場一致の結果だったという。また監督賞には『裏か表か?』(伊=米)のアレッシオ・リゴ・デ・リーギとマッテオ・ゾッビスのコンビ、そして『春の木』(中国)のチャン・リュルのW受賞となった。『春の木』はワン・チュアンジュンが最優秀男優賞も受賞。最優秀女優賞は『恒星の向こう側』(中川龍太郎監督)で母娘を演じた福地桃子と河瀨直美が2人で受賞した。審査員特別賞にはリティ・パン監督の『私たちは森の果実』(カンボジア=仏)が選ばれている。

クロージング作品『ハムネット』のクロエ・ジャオが舞台挨拶を
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クロージング作品にはクロエ・ジャオ監督の話題作『ハムネット』が上映され、監督は「最初の4つの長編映画はなるべく遠くへ、広く世界の水平線を追いかけましたが、今度は内なる風景に目を向けました。自分の中に深く入り込むことを目指した」と本作製作の意図を語った。本作で閉幕となった今回の上映観客動員数は6万9000人超で昨年度を上回ったそう。この成果を糧に次回もますます飛翔することを期待したい。
主な受賞結果
コンペティション部門
東京グランプリ/東京都知事賞 ▶︎『パレスチナ36』(アンマリー・ジャシル監督)
審査委員特別賞 ▶︎『私たちは森の果実』(リティ・パン監督)
最優秀監督賞 ▶︎アレッシオ・リゴ・デ・リーギ&マッテオ・ゾッピス(『裏か表か?』)/チャン・リュル(『春の木』)
最優秀女優賞 ▶︎福地桃子、河瀨直美(『恒星の向こう側』)
最優秀男優賞 ▶︎ワン・チュアンジュン(『春の木』)
最優秀芸術貢献賞 ▶︎『マザー』(テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督)
観客賞 ▶︎『金髪』(坂下雄一郎監督)
アジアの未来部門
作品賞 ▶︎『光輪』(ノ・ヨンワン監督)
エシカル・フィルム賞
『ガザ・ブランカ』(ルシアーノ・ヴィジガル監督)
アジア学生映画祭コンファレンス
作品賞 ▶︎『フローティング』(イ・ジユン監督)
審査員特別賞 ▶︎『永遠とその1日』(チェン・リーシュエン監督)/『エンジン再始動』(チョン・ヘイン監督)

