現実を映し出し、現実をも圧倒する恐怖──あなたの知らないチェコ映画の世界
日本では『ひなぎく』やヤン・シュヴァンクマイエル監督のアニメーションなど、自由な想像力によって生み出された個性溢れる作品がカルト的人気を誇るチェコ映画。
この度、「黄金の60年代」と呼ばれたチェコ・ヌーヴェルヴァーグの作品群の中から、その強烈な魅力にも関わらずこれまでほとんど観ることができなかった傑作4本を【チェコ映画傑作選】と題して公開する。
注目は一部上映会を除き、日本初公開となる長編2作品。プラハに暮らす普通の男が親ナチスの友人や社会情勢に影響され、やがて破滅的な「最終解決策」へと駆り立てられていくさまを描いた『火葬人』は本国チェコでもすぐに公開禁止となり、共産主義政権が倒れる1990年まで上映できなかった問題作。戦時下における密告社会の恐怖を描く『第五の騎士は恐怖』は、「最高峰の映像美を誇る作品」と評され、ポーランドの鬼才イエジー・スコリモフスキ監督もフェイバリットにあげる傑作。さらに強制収容所に向かう貨物列車から飛び降りた二人の青年の逃避行を、心象風景とともに描く衝撃作『夜のダイヤモンド』はATG配給による1968年の日本公開以来、初のリバイバル(日本初公開の短編『一口のパン』と同時上映)。
解禁となったメインビジュアルでは各作品の個性的な登場人物の顔のコラージュとともに、「さあ、絶望に元気を出そう。」というキャッチコピーも添えられている。今回上映される4作品は、いずれもが大戦前夜から戦中を背景として、製作当時の共産主義体制への反発も垣間見えるものの、決してそれだけに終わらない映画的豊かさに貫かれている。すでに自由を奪われた人間たち、自由の欠如を自分たちで背負い込んだ者たち、全てが少しずつおかしくなっていく街と生活、狂気に蝕まれ、それを行動に移していく人間たちを描いた作品だ。半世紀以上前につくられた映画が今もなお、現実をも超えるほどの恐怖と鋭さ、想像力で我々を圧倒する。
【上映作品】
『一口のパン』 Sousto ※日本初公開
1960年 / 11分 / モノクロ
監督:ヤン・ニェメツ 脚本:ヤン・ニェメツ、アルノシュト・ルスティク 撮影:イジー・シャーマル 編集:ヨゼフ・ドブジホフスキー
出演:ヤン・バルトゥーシェク、オルドリッヒ・ブラーハ、イヴァン・レンチ

Source: Národní filmový archiv, Praha
チェコ・ヌーヴェルヴァーグの主要人物の一人、ヤン・ニェメツ監督の卒業制作映画。ホロコーストを生き延びたチェコの小説家、アルノシュト・ルスティクの短編小説を基とする。強制収容所へ向かう途中、脱走を企てる囚人3人が、まず一斤のパンを盗むことを決意するが…。史上もっとも最小規模かつ、痛切な強盗映画であり、世界最高の学生映画の一本。
『夜のダイヤモンド』 Démanty noci
1964年 / 67分 / モノクロ
監督・脚本:ヤン・ニェメツ 原作・脚本:アルノシュト・ルスティク 撮影:ヤロスラフ・クチェラ 編集:ミロスラフ・ハーイェク
出演:ラジスラフ・ヤンスキー、アントニーン・クンベラ

Source: Národní filmový archiv, Praha
強制収容所へと向かう貨物列車から脱走した少年二人。疲れきった体でプラハへと向かう二人だが、途中で自警団とおぼしき老人集団に捕まってしまい…。原作は『一口のパン』と同じルスティクの小説、「闇に影はない」。ルイス・ブニュエルやアラン・レネに影響を受けたと監督が語るとおり、フラッシュバックや現実と内面とがモザイク状に交錯する刺激的な映像、全編にあふれる緊迫感をもって、人間や世界そのものの残酷さを問いかける。
『第五の騎士は恐怖』 A pátý jezdec je Starch ※日本初公開
1965年 / 98分 / モノクロ
監督:ズビニェク・ブリニフ 原作:ハナ・ベロハドスカ 脚本:ハナ・ベロハドスカ、ズビネク・ブリニッチ 撮影:ヤン・カリシュ 編集:ミロスロフ・ハジェク 音楽:イジー・シュテルンヴァルト
出演:ミロスラフ・マカセック、オルガ・シャインプフルゴヴァー、イジー・アダムィラ

© Czech Audiovisual Fund, Source: Národní filmový archiv, Praha
ナチス占領下、負傷したレジスタンスたちを非合法に治療するため、モルヒネを求めてプラハ中をさまようブラウン医師。個性的な登場人物たちとの邂逅や街の様子をとおして、戦争に蝕まれ崩壊しつつある社会を幻覚的な映像で描き出す。公開当時タイム誌は「最高峰の映像美を誇る作品」、批評家ロジャー・エバートは「完璧な映画。フェリーニとごく少数の監督だけが達成できるもの、リズム感を備えている」と絶賛。ポーランドの鬼才イエジー・スコリモフスキ監督もフェイバリットに挙げている。
『火葬人』 Spalovač mrtvol ※日本初公開
1968年 / 100分 / モノクロ
監督:ユライ・ヘルツ 原作・脚本:ラジスラフ・フクス 音楽:ズデニェク・リシュカ 撮影:スタニスラフ・ミロタ 編集:ヤロミール・ヤナーチェク
出演:ルドルフ・フルシーンスキー、ヴラスタ・フラモストヴァー、ヤナ・ステフノヴァー、ミロシュ・ヴォグニチュ、イジー・メンツェル

© Czech Audiovisual Fund, Source: Národní filmový archiv, Praha
第5回シッチェス・カタロニア国際映画祭グランプリ受賞
第二次大戦前夜のチェコ、プラハ。葬儀社で火葬人を務めるカレル・コップフルキングルは家族を愛する平凡な男性だが、親ナチスの友人や社会情勢に影響され、やがて衝撃的な「最終解決策」へと駆り立てられていく。全体主義イデオロギーの恐怖を暴き出す傑作暗黒コメディであり、ユライ・ヘルツ監督の最高傑作と評される。いたって普通の人間が加害者となっていく姿を美しくもおどろおどろしい表現主義的な映像で描きだす、「悪の凡庸さ」を切り取った映画史上に残る傑作といえるだろう。


