撮影/久保田 司
スタイリスト/稲葉有理奈
ヘアメイク/福間友香(VANITÉS)
インタビュー・文/タナカシノブ
隠れなくても隠さなくてもいい人生をやりたい、生きたいと思っているのかもしれません
──藤石波矢さん、辻堂ゆめさんによる競作長編小説を原作に映画化した本作の物語をどのように感じましたか。
「原作では小説だからこそ想像できるトリックがふんだんに入っていて、コロコロ変わる展開を自分の頭の中で構築しながら楽しく読みました。自分の頭の中で想像したものが映像になることにワクワクする以上に、その面白さを超えられるかどうかのドキドキ感も感じて。でも脚本を読んですぐに“面白い!”と思いましたし、よりコミカルになっていたことに喜びを感じました。コメディ感がありつつ、テンポも良く、オチも何回も何回もやってくる感覚が楽しすぎました。着地はここになるのかな、と想像するといい感じに裏切られる。そしてそれが面白い。こういうタイプの作品は初めてだったので、早く演じたいという気持ちになっていましたし、脚本もものすごいスピードで読み進めてしまいました」
──原作で楽しみ、脚本ではさらにワクワクが増して。いい流れで現場に入れた感じが、お話しされている表情から伝わってきます。
「出ちゃっていましたか(笑)。こういう作品って、どのくらいミスリードをするのかにもかかっているので、やり切ればやり切るほど面白かったりすると思いましたし、松木監督もホラーやサスペンスがすごくお得意な方なので、コメディーパートや可愛らしいパートを撮る際には“難しい!”などと叫んでいましたが、そのバランスなどもみんなで話し合いながら撮っていたのがすごく印象に残っていますし、楽しい作業でもありました」
──物語もそして、撮影現場も楽しい作品だったのですね。
「すごく明るい現場で楽しかったです」
──悪役ポジションも含めて好きになってしまいそうな、魅力的なキャラクターもたくさん登場しています。鈴木さんが演じた咲奈にはどのような印象を持ちましたか?
「撮影は敏腕社長パートを先に撮ってから、夫の光弘さんと合流してという流れでした。吉野くんもヤクザシーンを撮ってからだったので、2人が合流するまでに秘密にしている部分を撮影する形で、行ったり来たりがなくスムーズに撮れたのはすごくありがたかったです。表と裏の顔みたいに二面性はあるけれど根本に持っているものはそこまで変わるわけではないので、思っていたよりも苦労せずに演じ分けができた気がします。メイクの力に助けてもらえたことも大きかったです」
──衣裳もヘアメイクもコロコロ変わって、目でも楽しめる作品だと感じました。
「今回は、衣裳もメイクもかなり自分のアイデアを出させていただいきました。社長になる時には、自分でメイクをして出勤するので、いいスイッチになっていました。メイクさんと話し合いながら咲奈を作り上げていく工程もすごく楽しかったです。社長の時にはまつ毛をつける場所を変えたりするなど、結構細かい調整をしているのですが、そこも含めて本当に楽しい作業でした」
──夫の光弘を演じた吉野北人さんとの共演はいかがでしたか?
「吉野くんがコメディーは初めてという話をしていて。私は直前までコメディー作品を撮っていたこともあって、コメディーまみれのまま現場に入るという感じでした(笑)。特に夫婦シーンに入ってから、あっという間に日々が過ぎていくように感じるくらいに、すごくテンポよく撮影が進んでいきました。撮影していない時間でも、自然に喋っていたし、その2人のいいテンポや雰囲気が画面にも出ている気がします。吉野くんはおじいちゃんみたいなところがあって(笑)。私もおばあちゃんみたいな人と言われているので、お喋りのテーマも合うというか。2人とも田舎が好きで散歩が好きで、公園が好きみたいな。そういう共通点もあって、すごく自然にいることができたことで心地よさも感じていた気がします。2人のシーンは家の中で撮影することが多くて。2人とも閉じ込められていることが好きではないので、息苦しさを感じたのか、ベランダにあるテーブルでご飯を食べたりすることもありました。なかなかのくつろぎ時間でした。撮影期間は物理的にもキュッとしていたのですが、リラックスを感じる時間は多かった気がします」
──印象に残っている撮影シーンはありますか?
「実は撮影の序盤にゾンビのシーンがあったんです。横浜近郊で深夜から早朝にかけての撮影だったのですが、THE RAMPAGEというキラキラな感じを纏っていないゾンビ姿の吉野くんと向き合えたことも緊張を感じずにお芝居をできた理由のひとつかもしれません。深夜早朝ハイみたいになっていたこともあったし、なんだか幼馴染の度付き合いみたいな感じで最初からは向き合えたのは、すごくありがたかったです。キラキラの状態が初対面だったら……想像しただけでドキドキします(笑)」
──咲奈は、光弘といる時は全てを隠し専業主婦の体(てい)を貫こうとします。鈴木さんは幼い頃からアイドル/アーティストとして活動されていますが、咲奈の普通の女性でいたいと思う気持ちに共感を覚えることはありましたか?
「私は隠し忘れてしまったタイプで(笑)。全部出しちゃうから“ちょっと隠してください、我慢してください”とよく言われてきたし、今でも言われがちです。解禁ものとかも、全部話したいといつも思っているのですが、ファンのみなさんのためには黙っていなきゃいけないから、意識していないと危ないです。なので、共感を覚えることはなかったのですが、ずっとONでいるタイプなので、OFFがもはやどういうものかも分からなくて。もちろん、今の自分以外の自分もいるにはいるのですが、例えば、グダグダな感じも普通にファンの方の前でも出してしまうので……。隠したい、隠れたいみたいなことも一切ないし、多分どこかで隠れなくても隠さなくてもいい人生をやりたい、生きたいと思っているのかもしれません。お店とかも個室とかあまり好きじゃなくて…。好きじゃないというよりかは、個室じゃなきゃダメってことがないというのかな。普通にオープンに過ごしています。快適です(笑)」

表現をすることが好きだということです
──本作ではアクションにも挑戦されています。とてもカッコよかったです!
「もっとやりたい気持ちもあるのですが、鈍臭いタイプなので、自分がイメージするものができるかどうか……。王林ちゃんとの撮影ではバチバチしていましたが、カメラが回っていないところでは、アイドル時代の話などをしてリラックスさせてもらいましたし、差し入れのリンゴが本当に美味しすぎてビックリでした」
──咲奈と光弘のすれ違いは観ている分には面白いですが、冷静になると「もっと話し合えばいいだけなのでは?」とも感じてしまいます。鈴木さんが相手と誤解を生まないようにするために心がけていること、気をつけていることについてお聞かせいただけますか?
「何でも言うこと。相手にも何でも言って欲しいタイプです。隠しても絶対バレるのだから、先に言って欲しいなと思っています。若い時は“言えない”と思うことも多かったかもしれません。嫌われたくない、大事にしたいという気持ちから言えないという気持ちも理解できなくはありません。でも、やっぱり一生一緒にいる人には、全部言ったほうがいいと思うし、言って欲しいなと思いますね。ただ、すれ違いってラブストーリーの要素としてはドキドキしてすごくいいので、「東京ラブストーリー」のようなすれ違いの恋愛がしてみたかった私にとっては、咲奈と光弘のすれ違いの感じも嫌いじゃないです。トラブルを体験したいみたいなところもあったので、擬似体験ができたように感じて、楽しかったです」
──HOKUTOさんとのデュエットソングで主題歌『ゾンビ・イン・ラブ』の感想もお聞かせください。
「吉野北人ではなくHOKUTOというソロのプロジェクトとしての歌声がとても印象的だし、素敵だと思っていたので、ご一緒できるのはすごく楽しみでした。マリアージュというか、化学反応が起きるかなと期待しながらのレコーディングでしたが、初めてのディレクターさんとのやりとりにドキドキしつつ、いろいろなオーダーにも応えることができたし、いいコミュニケーションができたと満足しています。自分から提案できるメンタルになったこともうれしく思ったりもして」
──ご自身の変化、成長を感じたのですね。
「アイドル時代は今よりずっと心配性で考えすぎで、ライブ前は音がはっきり聞こえるように感じるくらい心拍数が上がってしまうタイプでした。でも、この前フェスに出た時は、そういう緊張が和らいでいることにも気づいたし、変化はあると思います」
──表現の引き出しも増えて、余裕も生まれた感覚もあったりしますか?
「あります! ただ、アイドル時代のクセみたいなものはなかなか抜けなくて。フェスの時に横を向いて風に髪をなびかされながらのスタンバイからのロングトーンというところで、風の気持ちよさと風が来たら綺麗になびかせるみたいな意識になってしまって、必要以上に髪を風になびかせた結果、歌いづらさと風に溺れてしまっている自分に気づきました(笑)」
──可愛らしい失敗ですけれど(笑)。
「いや、そんな失敗しちゃダメだなと思いましたが、染みついたものはなかなか抜けないものだなと。ネタとしては面白いかもですが(笑)」
──今年1月公開の『ただいまって言える場所』で映画単独初主演、そして本作で吉野北人さんとW主演、また『ミニオンズ&モンスターズ』では日本語吹き替え版に声の出演をするなど俳優としての活躍も盛んな印象です。表現者としての“アーティスト・鈴木愛理”と“俳優・鈴木愛理”としての向き合い方の違い、意識の違いのようなものはりますか?
「お芝居と歌という2つに分けて考えると、歌は鈴木愛理として自分の生き様や自分自身を削って出す表現方法ですが、お芝居はその人の人生を生きるので、また少し違うなという気がしています。グループの時は、グループで受け持つ曲という感じだったので、ある意味人の人生ではあるなとは思っていました。でもソロになると、自分の言葉として届くので、人が作った歌詞だろうが、自分の言葉として昇華されていくから、その辺に違いを感じています。ただ、どちらをやっていても思うのは、表現をすることが好きだということです」
──なるほどです。では最後に。映画のタイトルにちなみ、「殺したいほど愛してる」ものを教えてください。
「つい3日くらい前から、掃除に突然目覚めてしまって……」
──めちゃくちゃフレッシュな情報をありがとうございます(笑)。
「ガラスの水、鏡の水垢をすごく気持ちよく擦り落とせる100均のスポンジに出会ってしまいました。ジャリジャリ落とせるそのアイテムを、絶賛こよなく愛しています。何かを磨くことで気持ちもスッキリするし、運気も上がる気がしています。この記事が出る頃までに飽きないよう、しっかり継続していこうと思っています(笑)」

PROFILE

鈴木愛理 AIRI SUZUKI
1994年4月12日生まれ、千葉県出身。
8歳の時に「ハロー!プロジェクト・キッズ」に選ばれ、2005年6月にアイドルグループ「℃-ute(キュート)」のメンバーとしてデビュー。2017年にグループが解散。以降は、ソロアーティストとしても活動し、2023年に放送のドラマ「推しが上司になりまして」に出演。2025年には続編の「推しが上司になりまして フルスロットル」でも主演を務める。ミュージカルSIX日本キャスト版にも出演するなど活動の幅を広げている。2026年映画『ただいまって言える場所』にて映画単独初主演を務める主演。本作は吉野北人とW主演を務めている。
作品紹介



『昨夜は殺れたかも』
運命的な出会いを経て結婚をした光弘(吉野北人)と咲奈(鈴木愛理)。見ているほうが恥ずかしくなるほどラブラブな様子を見せる夫妻だが、実は2人とも相手に大きな秘密を隠している。
かつてヤクザだった過去を持つサラリーマンの光弘。夫が出勤すると専業主婦からエステサロンの敏腕社長に変身する咲奈。
本心を出せない反動から相手への疑念も強くなっていき、それはやがて“殺意”に変わっていく……!
出演:吉野北⼈ 鈴⽊愛理
⼯藤阿須加 王林 / 佐津川愛美 ISSEI ⽥中美久 オラキオ / 河本準⼀(次⻑課⻑) 菅⽥ 俊 / 本宮泰⾵
原作:藤⽯波⽮・辻堂ゆめ『昨夜は殺れたかも』(講談社タイガ)
監督:松⽊ 創
脚本:ブラジリィー・アン・⼭⽥
配給:ポニーキャニオン
2026年10月23日(金)全国公開
©2026 映画『昨夜は殺れたかも』製作委員会
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