32 歳の若さで命を絶った歌人・萩原慎一郎の遺作「歌集 滑走路」をモチーフに、オリジナルストーリーで映画化された『滑走路』。非正規やいじめなど現代の様々な問題をテーマに盛り込みながら、希望を求めて生きる人間の姿を描いている。本作で厚生労働省で働く若手官僚の鷹野を演じた浅香航大に、撮影秘話や役を通して感じたこと、更に最近オススメの作品などを語ってもらった。
画像: 非正規やいじめなど現代の様々な問題を描いた
映画『滑走路』
浅香航大インタビュー

俳優として誰かの活力になるような作品を届けていきたい

ーー鷹野という役をどのように捉えて演じられていたのでしょうか?

「彼は過去に辛いことを経験していて、もの凄く大きな痛みを抱えたまま生きてきたと思うんです。それでも必死に勉強して官僚になることができた。何故そこまで頑張れたかというと、もともとは弱い人間だからエリートになることで強くいられるメンタルを身につけたかったのではないかなと。だけど鷹野は官僚になってからも常に人の顔色を伺って世間に怯えてしまっているんですよね。そういった彼の繊細な部分、例えば名前を呼ばれたときの仕草や上司と一緒にいる時の表情なんかは、かなり意識して演じるようにしていました」

画像: 俳優として誰かの活力になるような作品を届けていきたい

ーー大庭功睦監督の現場はいかがでしたか?

「クランクイン前も撮影期間中も鷹野という役と僕にしっかりと寄り添ってくださって、細かなディスカッションも沢山してくださいました。現場でも役者の負担になるようなことは一切おっしゃらず、丁寧でとても演じやすい演出でした。おかげで僕は余計なことを考えずに役に没頭できましたし、監督に凄く助けられたように思います」

ーー印象に残っている演出があれば教えて頂けますか。

「寝ている鷹野がうなされながら目を覚ますシーンの撮影の時に、監督が“小さい鷹野が体中を這っていて、それを振り払うような感じで”とおっしゃったんです。それはちょっと変わった演出で面白かったですね(笑)。あと、鷹野が最後に泣き崩れるシーンでは“扉の前で泣いてください”という監督からの指示がありました。それには理由があるのですが、鑑賞時に“なるほど”と思って頂きたかったりもするので、その理由は伏せておきますね。そんな感じで明確な意図があって“画を作るための演出”というのが多かったように思いますし、監督の熱量のおかげで最初から最後まで緊張感を保つことができた現場でした」

画像1: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

ーー職場の同僚から“なんのためにこの仕事をやっているのか?”と鷹野が問われるシーンが印象的だったのですが、浅香さんが俳優を続けていくモチベーションになっているものはなんですか?

「このお仕事を始めたきっかけが、日常に刺激を求めている自分にとって一番合っていたのがお芝居だったというのが大きくて、俳優をやっているとメンタルのバランスがうまく保たれて健全に生きられるような気がするんです。だからモチベーションとは少し違うのかもしれませんが、色んな現場で刺激を貰うことで長く続けてこられたのかもしれませんね。でも今年は世界中で大変な状況になってしまって、娯楽というものの存在価値と向き合う時間が増えました。そんな中で、俳優として誰かの活力になるような作品を届けていきたいと以前よりも強く思うようになったというか。辛い状況でもエンタメは必要ですし、大事なんだと改めて気付くことができたので、これからも様々な作品に参加できたらいいなと思っています」

ーーここからはSCREEN ONLINE読者に浅香さんオススメの作品をご紹介頂きたいのですが、今年ご覧になった中で面白かった映画やドラマを教えて頂けますか。

「海外ドラマの「ペーパー・ハウス」にハマって、寝るのも忘れてシーズン1と2を一気見しました(笑)。最初は登場人物たちに全く共感できなかったんですけど、観ているうちにそれぞれ人間味が出てきて魅力的に見えてきて。綺麗ごとだけじゃない感じが妙にリアルですし、アクションシーンもカッコ良くて話も面白いのでオススメです。あと最近『インターステラー』が2週間限定でリバイバル上映していたのでIMAX版を観に行ったのですが最高でした。あとジョン・トラボルタ主演の『ファナティック ハリウッドの狂愛者』も観ました。ハリウッドスターの熱狂的なファンがストーカーになってしまう話なんですけど、“ありえないでしょ!”と思うようなことでも“現実に起きてもおかしくないか……”と納得できてしまうのは、トラボルタのお芝居が説得力があるからなんですよね。なかなか興味深い作品でした」

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ーー浅香さんの好きなハリウッド俳優を教えて頂けますか。

「ベネディクト・カンバーバッチが好きなので彼の出演作はほとんど観ています。中でも「SHERLOCK(シャーロック)」のカンバーバッチが抜群にカッコイイので是非観て欲しいですね。あとマシュー・マコノヒーの出演作も結構観ていて、余計なことはしないシンプルなお芝居のスタイルが素敵だなと思います。2人ともクールな役が多いですが、僕はコミカルもシリアスも両方できるジム・キャリーも大好きです。『エターナル・サンシャイン』はコメディ映画ではありませんが、ジム・キャリーが時々コミカルな動きをするんですよね。ああいうお芝居を見ると、コメディじゃなくても演じるキャラクターによってはコミカルさを取り入れてもいいんだと気付かされます。彼の絶妙なバランスのお芝居は勉強になるので、今後も出演作を追っていきたいと思います」

ーーでは最後に『滑走路』を楽しみにしている方へメッセージをお願いいたします。

「監督もスタッフさんも俳優陣も、本作に関わった全ての人が同じ方向を向いて作った純度の高い映画が完成しました。萩原さんは歌集・滑走路の中で“きみのため用意されたる滑走路 きみは翼を手にすればいい”という詩を綴っていますが、この映画を観たことで滑走路を見いだし、翼を手にすることができたと思ってくださる方がいたらいいなと思います。重いテーマを扱ってはいますが、観終わったあとは凄く清々しい気持ちになれる内容になっているので、是非劇場でご覧下さい」

画像3: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

スタイリスト/根岸豪
ヘアメイク/泉脇崇

(取材・文/奥村百恵)

『滑走路』
原作:萩原慎一郎「歌集 滑走路」(角川文化振興財団/KADOKAWA刊)
監督:大庭功睦
脚本:桑村さや香
出演:水川あさみ、浅香航大、寄川歌太
   木下渓、池田優斗、吉村界人、染谷将太
   水橋研二、坂井真紀
配給:KADOKAWA
11月20日より全国公開
©2020「滑走路」製作委員会

画像: 映画『滑走路』(11月20日公開)ロング版予告 youtu.be

映画『滑走路』(11月20日公開)ロング版予告

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