映画、舞台、ドラマとあらゆる方面で活躍の場を広げる宮沢氷魚。9月10日公開の映画『ムーンライト・シャドウ』では主人公さつきの恋人・等を感性豊かに演じている。あたたかく、落ち着いたトーンで語られる言葉の一つひとつに、この美しい作品への特別な思いを感じる。自身が「等にすごく近いものを感じる」と話すように、穏やかな笑みをたたるその姿に劇中の等が重なる。また、胸の奥底に葛藤を抱く等に自らを重ねる時、その美しく澄んだ瞳は憂いの色に染まる――。等という役との共通点や、共演者とのエピソードに語ってくれた。
撮影/加藤岳 スタイリスト/秋山貴紀 ヘアメイクTaro Yoshida(W) 文/八杉裕美子
衣裳/シャツ¥39,600 パンツ¥49,500 サンダル¥53,900(すべてトーガ ビリリース)/トーガ 原宿店 03-6419-8136 ※すべて税込み価格

――映画『ムーンライト・シャドウ』に等という役での出演が決まった時の心境を教えてください。

「率直にすごくうれしかったし、実際にお話をいただいて台本をもらった時に、その瞬間から美しい映画になるんだろうなということはすぐにわかりました。もちろん言葉も美しいし、ト書きだけでも景色の描写や、全体の物語の流れについて、本から美しさがにじみ出ていて。その作品の一員になれることは本当にうれしかったです。キャストも4人それぞれに個性があってキャラクターがしっかりしているのですが、この作品はそれぐらいの個性がないと成り立たないと思います。この4人であったからこそ、この作品ができたというのはあります」

画像1: ©2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

©2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

――エドモンド・ヨウ監督から等のキャストとして真っ先にお名前が挙がったとお聞きしています。

「うれしいですね。数多くの役者さんがいる中、僕の名前を挙げてくれたのは役者としても光栄なことです。自分からオーディションを受けて取ってきた役も思い入れがたくさんあるし、大事なのですが、逆に、監督さんはじめ、映画に関わっているスタッフさんから“ぜひ宮沢さんで”とお話をいただくのは、ちょっと自分勝手かもしれないですけど、自分をこの作品に必要な人として見てくださっているという風に僕は捉えるので、それは本当にすごく光栄なことです。そして、そのような形で声をかけていただけるのは、過去の作品や経験があったからでもあると思うので、もちろん今回のスタッフさんにも感謝したいですし、今までの作品に関わってくださった方々にも感謝の気持ちを持っています」

画像1: 宮沢氷魚『ムーンライト・シャドウ』インタビュー「もう少し頑張れるよって後押しする力がこの映画にはあると思う」

――宮沢さんは演じられた等という人物に近しいと感じるところがあったそうですが、等という役にはどのようにアプローチされましたか。

画像2: ©2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

©2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

「等のキャラクターは弟がいて家族のバランスを保つ役割で、僕もそういうところがあります。僕は3人兄弟の長男で、弟たちは結構自由にやっていて(笑)。両親も仕事をしているので、家を空けている時も多かったこともあり、今になって、僕が何かしらの形で家族の「軸」というか、バランスを取る役割を担っていたって思います。その当時は全く思ってなかったのですが。そういう役割を背負っていたのかなと思うと、等にすごく近いものを感じます。軸になることって、すごいプレッシャーとストレスがかかると思うんですよね。自分が崩れてしまうと家族も崩壊してしまうし。でも、自分が軸である責任感っていうのは、実は自分でその役割を与えていて、自分から勝手にストレスを与えてしまっているところもあると思うんですけどね。だからこそ、表では常にハッピーで笑顔を振りまいていても、実はどこか心の底ではつらい経験や思いを秘めている。そんな思いを爆発させたいところもあるけど、家族や周りの人間のために必死でそれを抑えて、自分を押し殺しているところもある。そういう等の葛藤みたいなものは僕も日々感じていることなので、そこをうまくリンクできたかなと思いますね。だから、そういった意味でも自分が等を演じる上で無理したことは意外と何もなくて、自分の持っているものを自分の引き出しからいろいろと選んで出せたので、自由に演じさせてもらいました」

画像2: 宮沢氷魚『ムーンライト・シャドウ』インタビュー「もう少し頑張れるよって後押しする力がこの映画にはあると思う」

――小松菜奈さんとこの作品で共演されていかがでしたか。

画像3: ©2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

©2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

「他にこの役を演じられる人は思いつかないぐらい、小松さんの独特の空気感でさつきになりきっていましたね。さつきというキャラクターは、一見、すごく強くて心が頑丈で壊れないような人のように映るのですが、自分が一番大切にしているものを失った時に、彼女のような強い人でも心と体にガタがくるっていうのをすごくうまく演じてらしたなと思います。さつきですらそういう状態になるということが、観ているたくさんの方々に希望を与えると思うんです。さつき程は強くない人の方が多いと思いますし、僕もたぶんそこまで強くないと思います。だから、人が1回は人生のどん底というか、とてもつらい世界に行ってしまっても、希望を見出してまた歩み出すという課程を見ることで、自分が大変な経験をすることがあったとしても、自分も大丈夫なんじゃないかなって思える。さつきはそんな希望を与えてくれる役だと思うのですが、たぶん小松さん本人にもさつきと近いものがあるから、それを表現できたのではないかと思います」

画像3: 宮沢氷魚『ムーンライト・シャドウ』インタビュー「もう少し頑張れるよって後押しする力がこの映画にはあると思う」

――撮影現場での共演者のみなさんとの思い出深いエピソードはありますか。

「とにかくカメラが回っている時も回っていない時もみんな仲が良くて、ずっと話したり、お菓子を食べたり、遊んでいる時間が多かったです。一般的な現場ではカメラが止まると、それぞれが自分の時間を必要とする感じで個別行動になりがちなのですが、僕たちはそうはならなかったです。お昼ご飯も4人で食べることが多かったです。小松さんがお弁当を差し入れしてくれた時も4人で輪になって食べて、“これ、さっきのシーンと変わんないね(笑)”、“(劇中で)ロールキャベツ食べているのとあんまり変わんないな”って話しました(笑)。短期間での撮影だったのですが、初日からとても仲良くなったし、(佐藤)緋美くん(柊役)は本当の弟みたいな感じで接してくれたりして、役だけではなく、キャスト同士もそのレベルまで仲良くなれました。たぶん、みんなが役と本人のキャラクターがすごく近いから、演じていない瞬間も密度を高めることができたのではないかと思います」

画像4: 宮沢氷魚『ムーンライト・シャドウ』インタビュー「もう少し頑張れるよって後押しする力がこの映画にはあると思う」

――4人でドミノをするシーンはスムーズに撮影できたのでしょうか。

「めちゃめちゃ失敗しましたね(笑)。全然うまくいかなくて(笑)。複雑な装置だったのでなかなかうまくいかないんです。ドミノが途中で止まったりした時は、みんな総出で復旧活動を始めて。もちろんスタッフさんもやるんですけど、キャストもみんなで手伝いました(笑)。本当に劇中のあのシーンのままで、みんなで、直しましたね(笑)」

――最後に、『ムーンライト・シャドウ』の公開を心待ちにされているみなさんへメッセージをお願いします。

「全世界的に新型コロナが流行ってしまって、中には友達や家族を失った方もいらっしゃると思います。それだけでなく、仕事を失った方もいらっしゃるでしょうし、普段の日常のルーティーンを失ったり、基本的にみんなが何かを失っていると思うんですよね。そんな時に人間は何かを失うと、どんどん悪い方向に考えてしまう。『希望なんてあるのかな』なんて考えてしまうこともあると思うのですが、背中を押すような、もう少し頑張れるよって後押しする力がこの映画にはあると思います。たぶん、そのひとつの後押しがあれば人間は立ち直ることができると思うので、この作品がそのきっかけというか、その手助けになれたらいいかなと思います」

PROFILE

画像5: 宮沢氷魚『ムーンライト・シャドウ』インタビュー「もう少し頑張れるよって後押しする力がこの映画にはあると思う」

宮沢氷魚 HIO MIYAZAWA
1994年4月24日生まれ、米国・カリフォルニア州サンフランシスコ出身

MEN’S NON-NO専属モデル
第12回TAMA映画賞最優秀新進男優賞
第45回報知映画賞 新人賞 受賞
第42回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞 受賞
第30回日本映画批評家大賞新人男優賞

〈近年の主な出演作〉
ドラマ「コウノドリ」(2017年)
ドラマ「偽装不倫」(2019年)
NHK連続テレビ小説「エール」(2020年)
舞台「ピサロ」(2021年)
映画『his』(2020年)
映画『騙し絵の牙』(2021年)

〈待機作〉
ドラマ「ソロモンの偽証」(2021年10月3日)
NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(2022年)

映画『ムーンライト・シャドウ』

原作は、吉本ばなな著の「キッチン」に収録されている短編小説「ムーンライト・シャドウ」。ある日突然、愛する人を亡くした主人公のさつきが、哀しみをどう乗り越えるのかを描いた「さよなら」と「はじまり」のラブストーリーとなる本作のメガホンをとったのは、以前から原作のファンだったというマレーシア出身のエドモンド・ヨウ監督だ。主演を務めるのは、初の長編映画単独主演を果たす小松菜奈。そして小松演じるさつきの恋人・等を宮沢氷魚が演じる。そのほか等の弟・柊役の佐藤緋美、柊の恋人・ゆみこ役の中原ナナ、そして、等を亡くしたさつきの前に現れる不思議な女性・麗役の臼田あさ美らが出演。

STORY

さつき(小松菜奈)と等(宮沢氷魚)は、鈴の音に導かれるように、長い橋の下に広がる河原で出会い、付き合うまでに時間はかからなかった。等には3つ下の弟・柊(佐藤緋美)がいて、柊にはゆみこという恋人(中原ナナ)がいた。4人は意気投合し、自然と一緒に過ごす時間が増え、食事をしたり、ゲームをしたり、ゆみこが気になっているという〈月影現象〉について「もしも現実に月影現象が起きたら、誰に一番会いたいか?」を語りあったり。しかし、別れは前触れもなくやってきた。等とゆみこが死んだ──。愛する人を亡くした現実を受け止めきれず、ひたすら走るさつき。そんなさつきを心配しながら、ゆみこの制服を着て何かを感じようとする柊。ある日、2人は不思議な女性・麗(臼田あさ美)と出会い、少しずつ“生きていく”という日常を取りもどし、以前みんなで語り合った〈月影現象〉に導かれていく。もう一度、会いたい、会いに来てほしい──。その現象とは、満月の夜の終わりに死者ともう一度会えるかもしれない、という不思議な現象だった......

映画『ムーンライト・シャドウ』

2021年9月10日(金)より全国公開中

出演:小松菜奈 
   宮沢氷魚
   佐藤緋美 中原ナナ 吉倉あおい 中野誠也
   臼田あさ美

原作:「ムーンライト・シャドウ」吉本ばなな(新潮社刊「キッチン」収録作品)
監督:エドモンド・ヨウ
脚本:高橋知由
宣伝:S・D・P
配給:エレファントハウス

©2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会

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