――1994年の初演から節目・節目で上演してきた『スカパン』ですが、このタイミングで上演しようと思われたきっかけや、思いをお聞かせいただけますか。
串田和美「まつもと市民芸術館での芸術監督の任期が今期で最後になるというのも1つですし、80歳になったというのもあります。何度も何度も再上演できる演劇に巡り会えることはすごく幸せなことです。僕にはいくつか再演を繰り返した作品がありますが、その中でも『スカパン』は自分の中で演れば演るほど特別な作品となっていくので、こうしてまた再上演できることはとても嬉しいと思います。初演は52歳だったんですけど、その時にはこんなに演るとは思っていなかったですし、歳をとったらできないかなとちょっと思っていたんです。でも、スカパンも僕と一緒に歳をとっていき、成長していく、そして変化していく、そう思えた時、又新たな楽しみが浮き上がってきました。」
――今作は、オンシアター自由劇場の元メンバーでもある大森博史さんと、小日向文世さんとの共演ということで、お二人へのオファーの経緯、ご一緒されるきっかけは何かあったのでしょうか。
串田和美「自由劇場を解散してからも何度かは一緒に演ってはいるんですけど、2年前のお正月にうちの家族と小日向さんの家族が偶然、バッタリ会ったんですよ。それで息子たちもまじえてワイワイ話していうるちに、これはもう絶対に何か一緒に演ろうという話しになって。大森さんとは、それ以前にも松本で共演していたこともあり、この組み合わせが生まれました。」
――お二人と久々に共演してみていかがですか?当時の思い出が蘇ってきましたか。
串田和美「これがすごいんですよね。小日向がすぐ昔話をし始めて。例えば、舞台の作り方について、“自由劇場はこうやって作ってたんだぞ”と周りの若い役者に話すのですが、そこから教わることがたくさんあったと思います。役の作り方や、こだわり方にしても。大森と小日向の二人のシーンもあるんですけれど、それが最高に面白いです。お互いがいろんな経験をして、長い年月を経ても、やっぱりあの時(自由劇場)が出発点であり、根底にあるんだということを再確認しています。」
――松本公演を皮切りに、水戸、北九州、横浜と上演が続きますが、開幕の松本公演では、屋内と屋外での2会場で公演が開催されます。この会場の違いによる演出や美術など、どのような違いがあるのでしょうか。(取材時は、松本公演開幕前)
串田和美「初演はシアターコクーンで始めて、水戸、フランスのアヴィニョン演劇祭でも。それから2004年にはまつもと市民芸術館の柿落とし公演、さらに2013年に10周年記念として再演しました。それから2015年にはルーマニアのシビウ国際演劇祭で上演、その凱旋公演として松本の屋外に仮設劇場をつくり上演したんです。“屋外で演ってみるのはどうだろうな“とずっと思っていたので。屋内の劇場で上演する時も舞台上に、もう1つの小さい舞台を作るというセットだったので、劇場以外で上演することは、僕にとっては大きな問題ではなかったんです。その屋外公演がすごく楽しくて、夕暮れになると夕焼けが目に入って、カラスの群れが上空を飛んで行ったり、その日その日で違うことが起きて、事件がいつも起きながら。芝居は芝に居ると書いて芝居ですから、最初は屋外だったんですよね。ロンドンに天井のないグローヴ座というシェイクスピアの時代の劇場がありますが、途中で雨が降ると雨を避けながら観ていたり。映画と違って舞台はナマモノですから、毎公演違うところが魅力でもある。さらに屋外での情景は毎日違います。屋外の楽しさ、そういったことにもこだわって上演しています。」
――親子共演は本作で何作目になるのでしょうか。
串田十二夜「小さい頃の共演を入れずに数えると、昨年の10月に僕が本格的に演技をスタートしてから4作目です。」
串田和美「早いね(笑)。彼は去年の10月が舞台デビューで、その年の春に行ったワークショップで、「やるか?ちょっと参加するか?」と声をかけたら、十二夜が「いいの!?」と。そういうところから始まっているんです。彼の心の中では、それまでいろんな葛藤がきっとあるだろうと思ってたんですが、スッと入って演ったんです。ちょっとビックリしたのは、俳優学校にも行っていないし、養成所の研究生でもまったくないんですけど、這っていて日本語もまだわからない頃から芝居、稽古をじっと観ていたんですよね。だから、理屈でなく何かをのみ込んでいるということにビックリして、“どこで覚えてきたの?”と。緒形拳さんと3〜4年間「ゴドーを待ちながら」という芝居をしながら日本中をまわっていたことがあったのですが、その時に彼をだっこして舞台の袖に連れていったりもしたんですよね。だからきっと記憶しているかしていないかというより、もっと奥のほうで覚えているんだなと思いました。 普通の役者ができることがなかなかできなかったり、これはできないということをヒュイッとできたり。面白いです。」
――ワークショップからこれまでの共演作、本作のお稽古の十二夜さんの様子をご覧になっていかがですか?
串田和美「作品によって違うんですよね。作品によってどういう演技が必要かは違ってくると思うんですけど、まっすぐに向き合って、エネルギーをぶつけることはできているのではないかなと思います。」
――十二夜さんにお聞きします。ワークショップがきっかけということですが、それ以前にお芝居をしたいというお気持ちはなかったですか?
串田十二夜「僕の感覚では、ワークショップの日が”その時”でした。こんな経験はなかったので、初めて演ってみたいと思いました。小さい頃から観ていましたが、いつか舞台に立つという想定で観ていたことは1度もなかったです。」
――本作はお父様である串田和美さんが演出もされて主演もされる舞台となりますが、和美さんの演出方法はどんな演出スタイルなのでしょうか。
串田十二夜「一から演出してもらうというより、“何を見せてくれるんだい”と言う父に、まず自分のプランを出して、それを見てもらいます。いつも、たくさんアドバイスをもらうというより、父の表情で、いいか悪いかを察知して考えながら演じているということが多いです。自分で掴みにいかないと同じことができないですし。表情もですが、いい時は必ず“いい”と言ってくれるので、そう言われない時はまだまだなんだなと思います。言葉を交わさずともわかるというか、そういう瞬間があります。」
――親子という関係であり、演出家でもあり、先輩俳優でもあるお父様との関係に、オン・オフはあるのでしょうか。
串田十二夜「ほとんどないですね。家でもずっと芝居の話をしているので、あまりないと思います」
――これまで3作をお父様と共演していますが、本作では演出家でもあり、俳優でもありという2つの面をもっていますが、どんな存在ですか。
串田十二夜「僕の中では違いは感じないです。モノづくりをしている人、アーティストです。例えば、父が絵を描いている時も、何か話している時も、演出している時も、芝居している時も、やっている事は違っていても本質に違いはないと思います。先日、松本で知り合った人が、『KING LEAR -キング・リア-』のポスターをものすごく褒めていたんです。“これまでで一番だ”と。シワもあって、本当にありのままの姿が出ているポスターなのですが。“この枯れ方だよ、今の若い人に見せてやれ!”と。本作の『スカパン』のポスターにも同じことを思いました。今しか見られない、生きているものを見るというのは、そういうことだなとすごく思いました。」
串田和美「お店やってる人で(ポスターが)、汚れるのは嫌だと、すぐしまっちゃったんだよね(笑う)」
串田十二夜「串田さんに雨なんてかけられないと言ってました。」
――本作ではレアンドル役を十二夜さんが演じますが、どんなことを意識して取り組んでいますか。
串田十二夜「役への意識ではないかもしれませんが、稽古場での先輩方の姿をこぼさないように見ています。みなさん渡されたおもちゃを絶対に離さずに楽しんでいる子供のような弾け方をしていて、本当に輝いています。この人間をずっと見ていたいと思えるような境地に達しています。自分もいつかそこに辿り着きたいという思いがあります。辿り着くことは簡単ではないし、死ぬまで辿り着けない可能性もありますが、そのリスクを背負ってでもそこに向かって勝負していきたいと思います。」
――再演し続けてきた本作。今回はこれまでの前作とどんなところがブラッシュアップされているのでしょうか。
串田和美「再演の時は妙な緊張感があって毎回緊張しています。大切な友人と再会するような感じで、僕のほうがスカパンに見下されるんじゃないか、俺(スカパン)が僕(串田和美)をもっと成長させてやると言われているような感覚です。久しぶりの同級生に会ってそいつが情けなくなっていたら悲しいじゃないですか。今回は久しぶりに大森が演じるアルガントと小日向が演じるジェロントという座組みがすごく楽しいです。座組みが変わるとアイデアも変わり、演出家一人が考える訳ではなくてみんながいるから思いつくこともたくさんあります。それとは逆で何にも思いつかない座組みもあるんですよ、たまに。今回はこの座組みだからこそどこからともなくアイデアが湧いてくると思っています。稽古中、雑談もものすごくするんです。冗談から生まれるものがまたいいんだということもあります。そこから生まれる化学反応がすごく今回の作品づくりに影響していると思います。」
――本作では串田さん親子と小日向さん親子の2組の親子共演も見どころの1つと言えるかと思いますが、お稽古していてどんなことを感じましたか?
串田和美「始まる前はセールスポイントと言われてましたが、始まってみれば作品を作っていく同志、一員です。息子だからどうというのは全然ないです。小日向は今回初めて共演だそうなので、初めのうちはソワソワしていましたね(笑)」
――最後に楽しみにしている方にメッセージをお願いいたします。
串田和美「見どころは、屋外で演るところです。演劇らしい演劇というのが、いい意味で小さな事件で、関わっている人たち、演じる人たち、作る人たち、観にくる人たちが一緒になって事件を起こしてそれが記憶に残っていくものでありたい。そういうものが、特にこの『スカパン』では作れるなと思っていますね。“懐かしいな、芝居ってこういうもんだよな”というものが作れてワクワクしています。」
串田十二夜「僕の周りには演劇を観ない友達もいます。若い世代でも演劇を身近に感じてる方もいらっしゃると思いますが、お芝居にパワーがあるということを感じてもらいたいです。そのパワーがないとモノを作れないですし、そのパワーは人には必要なものであると信じていますので、ぜひご覧いただけましたら嬉しいです。」
PROFILE
串田和美(くしだ・かずよし)
1942年8月6日生まれ、東京都出身
映画、舞台、ドラマに多数出演の俳優であり、舞台の演出も数多く手がける。
串田十二夜(くしだ・じゅうにや)
1999年2月19日生まれ、東京都出身
2021年10月に「西の人気者」で本格的に舞台デビューし、俳優活動を始動。
STORY
舞台は港町ナポリ、 スカパンは、 口がうまくて世渡り上手。 仲間のシルヴェストルは器用な彼がちょっとうらやましい。 彼らはそれぞれオクターヴとレアンドルの従僕。 年頃の二人は揃って恋に夢中だ。 イアサントと勝手に籍まで入れたオクターヴ。 何も知らない父親が、 突然、 結婚話を持ってきた。 資産家の父親に逆らったら、 何の取り柄もないオクターヴは間違いなく一文無し。 ......どうしよう?同じ頃、 レアンドルは大好きなゼルビネットをジプシーから取り返すため膨大な金が必要に。 しかも残された時間はあと2時間。 ......どうしよう?たすけて!スカパン!「それじゃあその金はね、 あんたらの親父さんからいただくことにしましょう」どうやら秘策があるらしい。 スカパンは、 いったいどんな手を使うのか?そして愛し合う恋人たちの恋の行方はいかに?
舞台『スカパン』
【出 演】
串田和美 大森博史 武居卓 小日向星一 串田十二夜 皆本麻帆 湯川ひな 細川貴司 下地尚子 /小日向文世
【スタッフ】
原作:モリエール『スカパンの悪巧み』
潤色・演出・美術:串田和美
照明:齋藤茂男
音響:市來邦比古
衣裳進行:中野かおる
演出助手:長町多寿子
舞台監督:足立充章
【公演日程】
北九州公演
10月23日 北九州芸術劇場 中劇場
お問い合わせ:北九州芸術劇場 TEL 093-562-2655(10:00~18:00)
主催:(公財)北九州市芸術文化振興財団
共催:北九州市
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
神奈川公演
※予定枚数を終了しておりましたが、チケットかながわにて追加席販売中!
10月26日~30日 KAAT 神奈川芸術劇場<大スタジオ>
お問い合わせ:チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00)
主催:KAAT神奈川芸術劇場 まつもと市民芸術館
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松本、水戸公演は終了
松本公演
9月30日~10月2日 まつもと市民芸術館 小ホール
10月6日、8~10日 松本城大手門枡形跡広場(四柱神社西隣)
主催:一般財団法人松本市芸術文化振興財団
後援:松本市 松本市教育委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)独立行政法人日本芸術文化振興
水戸公演
10月15日~10月16日 水戸芸術館
お問い合わせ:水戸芸術館ACM劇場(10:00~18:00月曜休館)029-227-8123
主催:公益財団法人水戸市芸術振興財団
企画制作:まつもと市民芸術館
【お問い合わせ】
まつもと市民芸術館 TEL:0263-33-3800