『20世紀号に乗って』は、1932年にチャールズ・ブルース・ミルホランドが書き下ろした戯曲が原作で、1934年には伝説の映画監督ハワード・ホークスの手により映画化。さらに原作と映画をもとに1978年にはベティ・カムデン、アドルフ・グリーンによる脚本、サイ・コールマンによる音楽でブロードウェイでミュージカル化。トニー賞5部門を制覇した。その後、初演以来40年ぶりに2015年にリバイバル上演され、トニー賞のリバイバル作品賞にノミネートされるなど、ブロードウェイ・ミュージカルの金字塔ともいえる名作だ。日本では1990年に初演、2019年には宝塚歌劇団でも上演され、本公演が5年ぶりの日本上演となる。
演出を務めるのは、ダンサーとしてキャリアをスタートさせ、現在は振付家・演出家として舞台・TV・ファッション・映画の各分野で活躍するクリス・ベイリー。2020年、2021年には『ハウ・トゥー・サクシード』の演出・振付を手掛け、コメディミュージカルの決定版といわれる同作を新演出で鮮やかに蘇らせた。
主人公のオスカー・ジャフィを演じるのは、NEWSとしての音楽活動をはじめ、様々なシーンで多才な活躍を見せる増田貴
久。クリス・ベイリーとは『ハウ・トゥー・サクシード』に続くタッグとなる。
共演は、珠城りょう、小野田龍之介、上川一哉、渡辺大輔、戸田恵子など実力派が集結。サイ・コールマン作曲の軽やかな音楽に乗せて個性豊かな登場人物たちが機知に富んだ駆け引きを繰り広げる。
舞台は、世界恐慌を脱出し、人々が再び自信と活力を取り戻し始めた1930年代初頭のアメリカ。ブロードウェイの劇場街に活気が漲り、そのネオンは、道行く人々を魅きつけていた。
舞台演出家兼プロデューサーのオスカー・ジャフィ(増田貴久)。華麗で非情、そして誇大忘想気味の彼は、かつてはブロードウェイの花形だった。しかし現在は多額の借金を抱え、シカゴの荒れた小さな劇場で芝居を打っていた。
オスカーは、マネージャーのオリバー・ウェッブ(小野田龍之介)と宣伝担当のオーエン・オマリー(上川一哉)という腹心と共に、世界一と謳われる豪華客室を備えた高級列車「特急二十世紀号」に乗り込み、オスカーの元恋人であり、現在はハリウッドの大女優リリー・ガーランド(珠城りょう)に偶然を装い会う計画をする。過去にリリーの才能を見抜いたオスカーは、彼女を大女優に育て上げることに成功した。彼らは数年間、恋人として甘い生活を送ったが、オスカーの独占欲と嫉妬に耐え切れなくなったリリーは映画界に転身。その彼女を再び自分が手掛ける舞台に立たせることが、今のオスカーの目論みだった。
数年ぶりに彼の前に姿を現したリリーは新しい恋人、若き映画俳優のブルース・グラニット(渡辺大輔)を伴っていた。しかし、リリーは、そんな彼に満たされていた訳ではなかった。仕事の面でも映画に飽き、舞台に戻ることを考えていて、ブロードウェイからの誘いに乗るためニューヨークに行く途中である。
オスカーはリリーを執拗に口説くも首を縦には振らず、またしても窮地に立たされる。だが、そこへ天から降って湧いた話が持ち上がった。何と彼の芝居のスポンサーになろうという人間が現れたのだ。レティシア・プリムローズ(戸田恵子)。製薬会社の会長である。ようやく、リリーとオスカーの新たな旅立ちが始まるかに見えたのだが……。
「特急二十世紀号」に乗車してからニューヨークに到着するまでの間に繰り広げられる登場人物たちの物語を、ユーモアを交えて軽快に描いたミュージカル。オーケストラの生演奏により、増田をはじめ、キャスト陣が表情豊かに歌い踊る。ラストまで目が離せない展開は、観る者の心もきっと踊らせるはずだ。
取材会
──初日を迎えるにあたっての意気込みをお願いします。
増田「この『20世紀号に乗って』という素晴らしい作品を皆さんにお届けできるのはすごく嬉しいなと思っています。コメディーの作品なので、たくさん笑ってもらって、観てもらっている時間が特別な時間になるように、全力で演じたいなと思っています」
珠城「明日開幕するんだなって、とってもワクワクしています。私個人にとりましても、今回のリリー・ガーランドという役はすごく挑戦で、稽古中からたくさん悩んで、いろんなことを考えながらやってきたんですけど、クリスさんをはじめ、(演出補・共同振付の)ベスさんと、素晴らしいキャストの方々と楽しく、いろんなことを考えながら舞台を創ってくることができたので、それをご来場くださるお客様に目一杯届けてまいりたいなと思っております」
戸田「これはミュージカルの金字塔と呼ばれている、古き良き時代の本当に素晴らしいミュージカルなんです。1930年代のお話です。えー、誰も生まれてませんね(笑)。そんな時代を演じる楽しさもあります。グランドミュージカルなので、オーケストラも入っていますし、豪華な衣裳、セット、本当に盛りだくさんな要素で、かなりスペクタクルな感じで裏のほうは動いているんですけど、きっと皆さんに楽しんでいただけると思います。ご期待ください」
小野田「主演の増田さんと演出のクリスさんは『ハウ・トゥー・サクシード』でタッグを組まれて、『ハウ・トゥー・サクシード』からここに至るまで、ミュージカル、演劇の新たな一つのコンテンツになったかのような1個出来上がったチームが、このカンパニーってあるんですね。今回は『20世紀号に乗って』という名作に新たに挑むということで、その一員になれるのが本当に嬉しいですし、新たな『20世紀〜』の世界を、ミュージカルファンの皆さんもそうですし、エンターテインメントのファンの皆さん全てに楽しんでいただける公演にしていきたいなと思っております」
上川「個性豊かな人たちしかいないカンパニーに参加できて本当に嬉しいです。このメンバーで創り上げたこの作品が、お客様にどんな風に届くのか、今からすごくワクワクしています」
渡辺「ほとんどのことを言われてしまったんですけど、この年代ならではの素晴らしい音楽と、ここ(取材会)に自分たちが立たせていただいていますけど、本当に素晴らしい役者がもっとたくさん出てきます。なので、そこにも注目していただきたいっていうのと、物語がスピーディーに展開していくので、皆さんそれを観て楽しんでいただければと思います」
──クリスさんにお伺いします。増田さんとのタッグは2年半ぶりですが、前回の時は「一生懸命で真面目だ」と増田さんのことを評してらっしゃいました。今回はどんな印象でしょうか?
クリス「同じです。本当に一生懸命頑張っています。パッション溢れる座長ですし、ちょっといたずら心があって、楽しさもあって、エネルギーをカンパニーの皆さんの中に振りまいてくださっています。そして、これは前回も同じですけど、フロントマンとして中心にいらっしゃるので、一生懸命頑張っていただく必要もあるんだけれども、それ以上に頑張られているという印象です。そんな増田さんを支える、こちらにいらっしゃる素敵な皆さん、さらに支えるアンサンブルの皆さんも、本当にかけがえのないカンパニーだと思っています。8週間一緒に稽古していますので、本当にお互いに心広く、寛容に接していただいていますし、稽古場の雰囲気だったと思います」
──増田さんも(クリスとは)2年半ぶりとなりますが、印象に残っていることはありますか?
増田「クリスに“このセリフ、このシーンって、僕はこういう風に思ってるんだけど、どうしたらいいかな?”みたいな相談をさせてもらうと、1か2を聞いたぐらいのつもりだったのに、20も30もヒントだったり答えをくれる。”僕が生きてきた人生では、こういう経験の時にはこういう風に思った”みたいなことを、例え話も含めて。今回の作品も1930年代の話なので、“今の感覚ではそうかもしれないけど、当時だったらこういう風になってて、例えばね”っていう風に、本当にいろんな僕たちが足りなかった部分、知らなかった時代背景だったり気持ちみたいな部分を、本当に細かく丁寧に教えてくださる。全部の状況でそれが起こるので、ものすごい知識量というか、“物知りだなぁ”と思うし、すごく優しく導いてくれる感じが、前回もそうでしたけど、今回も。クリスが思うドンピシャなところに自然に立たせてもらっているという感じです」
──珠城さんは初のヒロイン役ということになりますが、いかがでしょうか?
珠城「”ヒロイン”と言われることに正直慣れないので、ちょっと違和感があるんですけど、今回はリリー・ガーランドという大女優の役でもあるので、実際に舞台でこの衣裳を着て、メイクをしてってなると、鏡に映っている自分の姿も普段の自分と全然変わるので、リリー・ガーランドというキャラクターからたくさんのエネルギーをもらいながらステージに立てたらいいなと思いますし、作品の中でも、増田さんが演じられるオスカーとは“かなり対等にエネルギーをぶつけ合ってほしい”っていう風にクリスさんからも言われているので、負けないように思いっきりエネルギーをぶつけていきたいなと思っています」
──戸田さんから見て、増田さんはいかがですか?
戸田「増田さんとの出会いは、もう20年ぐらい前でして、お仕事をするのはたぶんそれ以来で、ちょいちょい会ったり、芝居を観に行った帰りにご飯を食べたりはあったんですね。まっすーがテレビで歌っている時には“良かった”とかメールを送ったり。そういう付き合いで来て、20年ぶりにお仕事を一緒にして、前は(手を低くかざして)このぐらいだったんですけど(笑)、“大人になったなぁ”という感じがしています。まして座長としてみんなを引っ張っていく姿勢を見せてくれて、自分がやることはいっぱいあるのに、たくさんの人に声をかけながら進めてきたので、“本当に大人になったんだなぁ”と思って。なんか、母心で見つめておりました」
──皆さん、稽古場で印象的な出来事はありましたか?
増田「僕は直々に、戸田さんお手製のお弁当をいただきました。“戸田さんにもらったお弁当”ってインスタにアップしたり、戸田さんが差し入れしてくれたパンをインスタにアップしてたら、うちの母親が“戸田さんに可愛がってもらって、お母さん嬉しい”みたいなことを言ってるんだけど、母親がだんだん戸田さんにやきもちを焼いて(笑)。だから母親に気を遣って、戸田さんからもらったお弁当を1個まだインスタにあげてない(笑)」
戸田「“愛情は1ミリもない”って言ってるんですよ。“お母さんにそう言って”って(笑)」
増田「あれで愛情が入ってなかったらちょっと怖いですよね(笑)」
──お弁当の味はいかがでしたか?
増田「最高です。稽古期間中は戸田さんのご飯で育ちました」
──珠城さんは何かありましたか?
珠城「稽古中に増田さんがよくボケられたりされるんですけど、恵子さんとか龍ちゃんはすごく反射神経が良くて、素晴らしいツッコミをなさって、増田さんのボケを回収したり刈っていかれてるんですけど、私は増田さんがボケたことに気づかずスルーする(笑)っていうのを何回もやってしまったので。その後にボケを説明させるっていう一番良くない空気を何度か作ってしまったので、大阪が終わるまでにはボケが回収できるように頑張りたいなと思います」
渡辺「遅いよ!(笑)」
──小野田さんは何かありましたか?
小野田「本当にないんですけど……(“ないの!?”と全員からツッコミ・笑)いや、覚えてないぐらい、本当にあっという間の稽古期間で。『20世紀号に乗って』は昔からある作品で、日本でも何度も上演されたことがあるんですが、クリス版は今回初演ですので、本当に音楽と脚本があるというだけで、一から創っていったので、クリスもよく“いろんなアイデアをみんな出してくれ”。その中で面白いものをキャッチしたり、逆に減らしたりっていうのを毎日やっていたので、本当に無我夢中の稽古期間だったなっていう思い出がすごく強くて。あとは、とにかく印象に残っていることは、ずっとふざけてます。うちのオスカーは。なので、僕はマネージャー役ですから、いろいろコントロールしていきたいと思っています」
増田「この男が本当にひどいのはですね、僕はスウェットのセットアップをよく着ながらお稽古をさせてもらってて、龍ちゃんに”まっすー、セットアップ好きだよね。俺も好きなんだ。いらないのがあったら1個ちょうだい”って言われたので、家で整理しながら“あ、これ、喜んでくれるかもしれない”と思って、龍ちゃんに次の日持っていったんです。そうしたら“ありがとう!”とか言って、着て……第一声、なんて言ってましたっけ?」
小野田「きったねぇ……(笑)。穴すごい開いてるし、袖なんか黒いし。“きったねぇ”って言ったら、“いや、オシャレ”って(笑)」
増田「1、2回しか着てないし、洗ってからあげたんだよ(笑)」
──穴が開いているのがオシャレ?
増田「らしいですよ、今!(笑)」
小野田「超かわいいのをいただきました。でも、汚かったです」
増田「それが一番印象的ですね」
──増田さん、NEWSの加藤(シゲアキ)さんがご結婚されましたけど、3人でお祝いとかはされたんですか?
増田「3人でお祝いはできてないんで、これから何かのタイミングでしたいなと思っています」
──お祝いは何か?
小野田「これ(舞台)の招待券」
増田「おお~。でもそれはね、自分でチケットをとってきてほしい(笑)。結婚した時のお祝いって、何をあげるものなのか、メンバーが近すぎて。だから本当に“おはよう〜”ぐらいのテンションで、“おめでとう〜”って言っただけ。欲しいものをあげたいですよね。僕の顔の写真が刷り出されているお皿とか(笑)」
──最後に増田さんから観に来てくださる皆さんへメッセージをお願いします。
増田「約2カ月間、みんなでクリス・バージョンの、クリスとベスが演出してくれる『20世紀号に乗って』という作品を一緒に創ってきて、本当に音楽も素晴らしいですし、お話も面白いですし、素敵な作品を皆さんに届けられるのを楽しみに頑張ってきました。ぜひ劇場でたくさん笑いに来てください!」
撮影/久保田 司
ミュージカル『20世紀号に乗って』
出演:増田貴久 珠城りょう 小野田龍之介 上川一哉 渡辺大輔 戸田恵子
脚本・作詞:アドルフ・グリーン/ベティ・カムデン
作曲:サイ・コールマン
原作:ベン・へクト/チャールズ・マッカーサー/ブルース・ミルホランド
演出・振付:クリス・ベイリー
演出補・共同振付:ベス・クランドール
東京公演:3月12日(火)~31日(日)東急シアターオーブ
大阪公演:4月5日(金)~10日(火)オリックス劇場
▲雑誌情報
「SCREEN+(スクリーンプラス) vol.89」(発行:近代映画社)発売中
※表紙:増田貴久
『20世紀号に乗って』増田貴久グラビア&インタビューを12ページにわたり掲載