ドイツ映画「トニ・エルトマン」Toni Erdmann(2016)は今年の外国映画賞にノミネートされた喜劇で、2時間40分と長いのですが、ルーマニアに派遣されたワーカホリックな娘に人間的な生活を取り戻して欲しいと、おバカな行動、例えば見るからに変装とわかる格好をして娘のオフィスを訪れるなど、をしてあきれ返る娘のお話。
今までの硬くて深刻なドイツ映画の印象を裏返す、こんな愉快で変な父親もいるのだ、というユニークな作品です。特にオスカーに提出するドイツ映画はほとんどナチスドイツが出てくるような作品ばかりで、今年の選択はたいそうな賭けでもありました。
このとんでも親父の役にジャックはぴったりで、アメリカ版のリメークに飛び乗ったようです。娘役はコメデイー女優として定評があるキャサリン・ウィッグで、この二人がどう演じるか、今から楽しみ!
ジャックがアルツハイマーの傾向を見せて、セリフが覚えられないなどというニュースも出ていましたが、情熱を注げる企画にやる気が出たのでしょう。最近のハリウッド映画に触手が動かなかったのもよく分かります。
1937年4月22日、ニューヨークのマンハッタン生まれ。「カッコーの巣の上で」(75)、「恋愛小説家」(97)でオスカー主演賞、「愛と追憶の日々」(83)ではオスカー助演賞を受賞のダイナミックな演技派です。
ずっと前にジャックにワン・オン・ワン(1対1)のロングインタヴューをしたのですが、このころのジャックはわんぱくプレイボーイとして有名で、エイズが流行っていたにもかかわらずコンドームを使わないと豪語していたので、それは本当かと質問してみました。
ホテルの部屋のソファでほとんど今のトランプ大統領のように踏ん反り返っていたジャックは、あの柳のような眉毛をぐるっと上げての得意な表情を見せ、「ああいうものは大嫌いだ。不自然だからね」といった答えを悠然と返してきました。
今まで10数回インタビューしていますが、この時のいたずら坊主の表情が永遠に私の頭に焼き付いています。
「愛の狩人」(1971)「チャイナタウン」(1974)など初期の頃の作品での都会的な男性も好きですが、「ア・フュー・グッドメン」(1992)の軍人役の威厳も良かったし、「アバウト・シュミット」(2002)あたりの寂しい引退者の雰囲気も心にしみますが、なんといってもショッキングな「シャイニング」(1980)は1度見たら誰でも忘れられない役でしょう。
山のように映画に出ているような印象を受けますが、俳優として出たのは合計76本、最後の出演したのは「幸せの始まりは」(2010)ですが、これはワーキン フェニックスの変な「ドキュメンタリー」でジャック自身として顔を出しているので、例外。「最高の人生の見つけ方」(2007)、モーガン・フリーマンと共演した原題の「バケットリスト」(棺桶=バケツ、に入る前にしたいことのリスト)がジャックの生き生きとした役作りを見せてくれた最後の映画です。
80歳でのカムバックはシニアの私たちにも励みになる嬉しいニュースでした。