今回はオスカー・ナイトがますます楽しめる、本番前にこれだけは知っておきたいチェックポイントを特別教えます!
『作品賞』ハリウッドへの夢と挫折を描いた「ラ・ラ・ランド」?
それともマイノリティーの人々が直面する自己発見の過程を描いた『ムーンライト』??
なんといっても史上最多タイの13部門14個のノミネートを獲得した「ラ・ラ・ランド」に本命視が集まる。もし受賞すればミュージカル映画としては2002年の「シカゴ」以来。しかしここに待ったをかけるのが、今年のブラックパワーの先頭に立つ『ムーンライト』。全米各州の批評家賞ではこの2作はほぼ55分の受賞状況で、ゴールデングローブ賞でもミュージカル/コメディー映画部門とドラマ映画部門の作品賞を分け合った。内容的にもメジャーなハリウッドへの夢と挫折を塩梅よく描いた「ラ・ラ・ランド」、マイノリティーの人々が直面する自己発見の過程を綿密に描いた『ムーンライト』という、相対するものを題材にしているところが興味深く、どちらが選ばれるのか注目されるところ。
他にSFの枠にとどまらない『メッセージ』、実話感動編『LION/ライオン 25年目のただいま』&『ハクソー・リッジ』、ブラックパワーの好調を後押しする『ヒドゥン・フィギュア』&『フェンシズ』、Netflix作品「最後の追跡」& Amazon製作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』とバラエティーに富んだ秀作たちが集結。しかしいずれも二強の争いに絡むのは難しいといえそう。
作品賞と監督賞はほとんど同じ作品が取るものというジンクスが、崩れつつあるこの数年。2012年の作品賞「アルゴ」に対して監督賞はアン・リー(「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」)に。
2013年は作品賞「それでも夜は明ける」に対して監督賞は「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソー・クアロンに。昨年の作品賞「スポットライト 世紀のスクープ」に対して監督賞はアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(「レヴェナント:蘇えりし者」)にという具合に、作品と監督が分かれるケースが続出。すると今年もその例が繰り返される可能性も。作品賞が「ラ・ラ・ランド」に渡っても、監督賞は同作のデーミアン・チャゼルではなく、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンズに流れるという予想が囁かれている。この2作が熾烈な争いを繰り広げているからこその噂だが、もちろん同じ映画で作品と監督賞を受賞する場合の方が多いのはまだ確か。監督組合賞を受賞したチャゼルの方がやはり優勢か。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケネス・ロナーガンは脚本賞の方が有力。他に『メッセージ』のドニ・ヴィルヌーヴはめでたい初候補、『ハクソー・リッジ』のメル・ギブソンは数々の問題行為をハリウッドが許したことで21年ぶりのノミネートとなった。
作品賞候補
『主演男優賞』
各州の批評家賞などの受賞結果を見ても『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で幸福になることを避け続ける男を演じたケーシー・アフレックの優勢は間違いないところ。「ジェシー・ジェームズの暗殺」で助演賞候補になって以来、9年ぶり2度目のノミネートで初受賞になりそう。そんな彼にとって唯一の気がかりは、女性スタッフにセクハラで訴えられた過去が掘り返されたこと。業界はそんな彼の過去(本人は否定しているとか)を無視するかどうかに若干の不安が残るのみ。
対抗としては肝心要の俳優組合賞を受賞した『フェンシズ』のデンゼル・ワシントンが挙げられるが、すでに主演賞助演賞を一度ずつ受賞済み。ここまで圧勝してきたアフレックを止めるのは難しいかも。またゴールデングローブの主演賞をアフレックと分け合った「ラ・ラ・ランド」のライアン・ゴスリングにもまだ勝機があるか?
「沈黙 サイレンス」の熱演も含めて『ハクソー・リッジ』のアンドルー・ガーフィールドが初候補に。『はじまりへの旅』のヴィゴー・モーテンセンは世の中の常識から外れたゴーイング・マイ・ウェーのお父さん役を好演。
『主演女優賞』ナタリー・ポートマン?イザベル・ユペール?それとも「ラ・ラ・ランド」の勢いがあるエマ・ストーン???
「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」のナタリー・ポートマン、『エル』のイザベル・ユペールの2人が熾烈な争いを見せた各州批評家協会賞の主演女優賞部門。ここに「ラ・ラ・ランド」の勢いがあるエマ・ストーンが重要な俳優組合賞受賞で加わり、3人で女王の座の争奪戦が起こりそう。
優勢なのは、ベテラン実力派ながら初候補のイザベル。ただフランス女優の受賞はいくつか例があるものの、フランス語映画での受賞は前例(「エディット・ピアフ/愛の讃歌」のマリオン・コティヤールとか)が少ないのも事実。ナタリーは「ブラック・スワン」で一度受賞しているという枷があるが、今回もケネディー大統領暗殺の現場にいたジャクリーン夫人の意外な姿?をそれは見事に演じて2度目の可能性も充分。ただ「ラ・ラ・ランド」人気は、若手演技派の代表格になったエマを俳優組合賞にまで押し上げているので、エマが逆転受賞の芽が出てきたようにも思える。
黒人女優としてこの部門で一人気を吐いた「ラビング 愛という名前のふたり」で抑制ある演技を見せたルース・ネッガも気になるが、ノミネート記録を20に更新した「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」のメリル・ストリープはもう別格と見るべきだろう。
『助演男優賞』候補は、全米各州の批評家協会賞もほぼ独占状態のこのお方。
この部門では、『ムーンライト』で面倒見のいい街の顔役を演じたマハーシャラ・アリーにスポットが当たりそう。
全米各州の批評家協会賞もほぼ独占状態で、当確といえそうだ。唯一ライバル視されたゴールデングローブ賞助演賞のアーロン・テーラー・ジョンソン(『ノクターナル・アニマルズ』)は候補から外れた。他に対抗がいるとすれば「最後の追跡」で老レンジャー役を演じたジェフ・ブリッジズがいぶし銀の存在感を見せるが、彼は「クレイジー・ハート」で主演賞を受賞済み。
他の3名、『LION/ライオン 25年目のただいま』のデーヴ・パテル、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のルーカス・ヘッジズ、『ノクターナル・アニマルズ』のマイケル・シャノンたちは候補自体がサプライズという見方もあるので、もし受賞したらそれこそ大番狂わせといえるだろう。
『助演女優賞』助演は男女優とも黒人俳優の受賞が濃厚?
史上初めてこの部門に黒人女優が3名もノミネートされたことが話題を呼んでいる。その3名とは『フェンシズ』のヴィオラ・デーヴィス、『ムーンライト』のナオミ・ハリス、『ヒドゥン・フィギュア』のオクタヴィア・スペンサー。このうち、オクタヴィアは一度受賞済み。本命はこれが3度目のノミネートとなるヴィオラで、1人の黒人女優が3回オスカー候補になるのも初という。ここらでぜひ受賞したいところだ。ということで助演は男女優とも黒人俳優の受賞が濃厚。
『LION/ライオン 25年目のただいま』のニコール・キッドマンは「めぐりあう時間たち」で主演賞を受賞済み。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のミシェール・ウィリアムズはこれで4度目のオスカー候補だが、今回も涙を呑むことに?