第68回カンヌ映画祭で主演女優賞を獲得、昨年のフランス映画祭でも上映されるや、久々の本格的フランス恋愛映画と評判になった、ヴァンサン・カセル主演『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』、待望の公開です。
あのリュック・ベッソン監督の元妻で、女優でもあるマイウェン監督第4弾にして、女性必見の傑作!来日した監督にインタビューしました。

髙野てるみ(たかのてるみ)
髙野てるみ 映画プロデューサー、エデイトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー株式会社巴里映画代表取締役。著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』ほか多数。
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フランス男の恋愛体質をリアルに描く

画像: 恋の極みに身を焦がすトニーを演じたのは、女性映画監督としても知られるエマニュエル・ベルコ。 © 2015 / Les Productions Du Trésor - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films – All Rights Reserved PHOTO: ©PRODUCTIONS DU TRÉSOR

恋の極みに身を焦がすトニーを演じたのは、女性映画監督としても知られるエマニュエル・ベルコ。
© 2015 / Les Productions Du Trésor - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films – All Rights Reserved
PHOTO: ©PRODUCTIONS DU TRÉSOR

マイウェン監督は、妹のイジルド・ル・べスコ(今回作品にも出演)と共に、女優として幼い頃から映画界で活躍。リュック・ベッソン監督と結婚し、『レオン』(1994)に出演。同監督の『フィフス・エレメント』(1997)のディーバ役が斬新でした。

皮肉にも、その作品の主演女優となったミラ・ジョヴォヴィッチが監督の新たな妻となったことが話題を集めましたが、第50回カンヌ映画祭で特別上映され、私が初めてカンヌ映画祭に出かけた年であったことでも記憶に強く残っています。そのことをマイウェン監督に伝えると、自分はその頃まだ若く、ベッソン監督に憧れ恋をして結ばれた時代のことを思い出すと言います。

彼女の監督最新作である『モン・ロワ』は、山っ気が強くて、押し出しがあり、女性に手が早く、破滅的な面がある危険な魅力の男、ジョルジオが主人公。マイウェン監督に言わせれば、「ろくでなし野郎」の物語(笑)。一言で言ったら、フランス男の色気やムラっ気の究極エッセンスを注出してみせてくれるフランスならではの作品です。

が、この作品の面白さって、こういう男に、いかに女が弱いか、しかも弁護士で知的なトニーというイイ女が、なんで、そんな男に夢中になるのか、メロメロになっちゃうのかってことを延々と描いていくところなんです。

それを演じる主演女優のエマニュエル・ベルコが、2015年の第68回カンヌ映画祭で主演女優賞を獲得したことには心から納得。名演技です。

ヴァンサン・カセルが、みごとにはまり役

で、もちろん、作品を作るたびに関わる女優を妻としてきた天下の色男!?ベッソン監督との愛の葛藤がベースにあるのだろうとの期待大でインタビューに臨むも、しかし、それはすぐに裏切られ…。

「むしろ根っこになっているのは、その後の恋愛と結婚体験。でもこの映画は、実体験を描き、男を批判したり、女を被害者として啓発しようとしたわけではない。メッセージ性は一切意識せず、普遍的な男と女の切り離せない愛と絆、エロス、そしてエゴイズム。それを描きたかったんです」

フランス人らしい大人の目線で、迫力ある男と女の葛藤シーンが次々描かれ息つく間もありません。名作『男と女』の“爆音版?”と言えそう(笑)。

画像: 愛する夫のエゴも許せる、大人の女の生き方に共感できるか否かの問題作でもある。 © 2015 / Les Productions Du Trésor - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films – All Rights Reserved Photo: MARCEL HARTMAN

愛する夫のエゴも許せる、大人の女の生き方に共感できるか否かの問題作でもある。
© 2015 / Les Productions Du Trésor - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films – All Rights Reserved
Photo: MARCEL HARTMAN

この作品の素晴らしさは、わからず屋のやんちゃな男を見ると、母性本能をくすぐられてしまうということを、女性なら誰もが再認識せざるを得ない点。

そのトニー役にヴァンサン・カセルを起用したことも、監督の凄腕です。

「この役は、男なら誰もが挑戦したいと思うはず。ヴァンサンに話を持ちかけると、躊躇なく受けてくれました。撮影中も迷いのない、ハマった演技はさすが。ちょうど彼も、私生活で大きな変化を強いられていた時だったと思うので、タイミング的にも恵まれていたように思えます」

男のエゴを、愛する妻に受け入れさせよう、受け入れてもらえることが真の自分への愛情であり、自分が愛されている証しなんだと、愛を試すかのような数々の仕打ちをするジョルジオ。我慢を重ねたトニーもついに離婚。

画像: 自己中夫のデリカシーのなさNO1!とは、新婚間もなく生まれた愛児の名づけ親が、元カノ(写真・右)だなんて! © 2015 / Les Productions Du Trésor - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films – All Rights Reserved Photo: MARCEL HARTMAN

自己中夫のデリカシーのなさNO1!とは、新婚間もなく生まれた愛児の名づけ親が、元カノ(写真・右)だなんて!
© 2015 / Les Productions Du Trésor - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films – All Rights Reserved
Photo: MARCEL HARTMAN

ベッソンも嫉妬するほどの監督をめざして

しかし、完全に彼を忘れることが出来ない女の持つ葛藤を、監督は巧みに描きます。女性心理を突く、ビター・スイートな味わいで、観る者の心をかき乱すのです。

「男と女の関係はハードで、タフさが求められる。誰を一番大切にすべきかなんて、すぐ忘れるのが男だとしても(笑)、男との甘い蜜月を最大限描いてこそ、その後の女の葛藤が活きてきます。そこが見せ所だと思うので、たっぷりと描き切ったつもり」

そのあたりは、全男性へのリベンジの想いを一丸にして投げつけるという感もあり、さすがに2度の結婚・離婚を経て、筋金入りの(笑)、タフな女へと成長したマイウェン監督。

映画作りには、元夫、ベッソン監督の影響が大きいかと思われますが…。

「監督をすることの3大重要点を、別れた後でも親切に教えてくれましたね。良いシナリオを書け、良いプロデューサーを見つけろ、そして自分で出資しないこと、ってね。結果的に真逆なことをして1作目を作り上げたのですが(笑)、観て褒めてくれました」

しかし、その後の作品が評判になるや態度は大きく変わったと言います。

「男の嫉妬ってやつね(笑)。映画監督という仕事は男の世界ですから、女でしかも独学の監督が作る作品には風当たりが強くて当然。なんだかんだ悪く言われるようになってこそ、一人前かも知れないですね。彼との間に設けた娘が、『モン・ロワ』を観てすごく褒めてくれたことが嬉しい」

「愛とはエゴイズムである」と、彼女のインタビューから学びましたが、映画愛についても、男たちとの葛藤が続きそうなマイウェン監督、カッコイイ。

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
2017年3月25日(土)YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開予定
出演:ヴァンサン・カセル、エマニュエル・ベルコ、ルイ・ガレル、イジルド・ル・ベスコ
監督:マイウェン
脚本:エティエンヌ・コマール
2015年/フランス/126分/カラー/ フランス語/日本語字幕:横井和子
原題:『MON ROI』
配給・宣伝:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル  
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