パルムドールの発表を明日に控えた5月27日は、とにかくあわただしい。朝8時30分から特別招待作品であるロマン・ポランスキー監督の「ベースト・オブ・ア・トゥルー・ストーリー」のプレス試写が行なわれた。これは女性作家に熱烈なファンを装う女性が近づき、破滅に向かわせようとするスリラー・サスペンス。あの「ゴーストライター」を彷彿させる文学界、出版界を背景にした、ポランスキー監督ならではの知的でブラックな世界が展開する。
上映後の記者会見には、パートナーで主役の作家を演じるエマニュエル・セニエと、恐ろしい女を演じるエヴァ・グリーン、それにヒロインの恋人になるヴァンサン・ペレーズらを率いてポランスキーが登場。長くフランスに住んでいるせいか、フランス語でゆっくりと応答し始めた。やがて英語の質問に英語で答えるときもあり、そのしゃべり方と容姿から老いを感じさせられた。だが彼自身の自伝の話からフェイスブックの話まで語るその頭脳はまだまだ衰えていないようだ。
列席者の中では、映画の中同様、素顔のエヴァ・グリーンの目つきが怖かった。また映画の原作者ディルフィーヌ・デ・ヴィギャンは女優かと思わせるほど美しく、脚色者としてオリヴィエ・アサイヤスもいた。
午後4時過ぎにはエキュメニカル審査員賞が発表になり、河瀨直美監督の「光」が受賞する快挙があった。このエキュメニカル賞とは、キリスト教の教派を超えて映画製作者や批評家たちが毎年優れた作品を選んで贈る賞で、青山真治監督の「EUREKA(ユリイカ)」が2000年に受賞しており、河瀬監督は永瀬正敏と共に授賞式に出席した。そして「映画は人と人を繋ぎ、人種や国境を越えていくもの。映画館の暗闇の中で映画が放つ光と出会うとき、人々は一つになれる。そんな一体感をカンヌで感じられてうれしい。しかも70年という記念の年にこの賞をもらえて」と堂々とスピーチ。また永瀬は「歴史ある素晴らしい賞に感謝します」と。いつも思うのだが、河瀬監督はスピーチがとてもうまい。
そして夜、ウーマ・サーマンが審査員長を務める「ある視点」部門の授賞式が執り行なわれた。一昨年は黒沢清監督の「岸辺の旅」が監督賞、昨年は深田晃司監督の「淵に立つ」が審査員賞に輝いたが、今年は黒沢監督の「散歩する侵略者」は惜しくも賞を逃してしまった。
大賞を受賞したのは、モハマド・ラソウロフ監督の「LERD(A Man of Integrity)」で、妻子を北イランの村に残して出稼ぎに出た男の悲劇。審査員賞のミシェル・フランコは12年に「父の秘密」でこの部門でグランプリ、15年には「或る終焉」でコンペティション部門の脚本賞という輝かしい経歴を持つ若手メキシコ系監督。また栄誉が増えた。監督賞のテーラー・シェリダンは初監督での快挙。歌手バルバラの晩年を描いたマチュー・アマルリックは脚本賞に輝き、今回は特別に女優賞を受賞したイタリアのジャスミン・トリンカはステージ上で大いに喜びを表した。
■「ある視点」部門受賞一覧
大賞 「LERD(A Man Of Integrity)」(モハマド・ラソウロフ監督)
審査員賞 「エイプリル・ドーター」(ミシェル・フランコ監督)
最優秀女優賞 ジャスミン・トリンカ(セルジオ・カステリット監督「フォルツナタ」)
監督賞 テーラー・シェリダン(「ウィンド・リバー」)
脚本賞 マチュー・アマルリック(「バルバラ」)
(岡田光由)