原作を読んで「自らの感情のわからなさに立ち止まる登場人物に強烈に共感を抱いた」と出演を快諾した太賀に、今作に参加して感じたことや冨永監督について、更に最近刺激を受けた映画などを語ってもらった。
【ストーリー】
ライブハウスで働くツチダ(臼田あさ美)は、同棲中の恋人せいいち(太賀)がプロのミュージシャンになる夢を叶えるため、内緒でキャバクラで働きながら生活を支えていた。一方で、自分が抜けたバンドがレコード会社と契約し、代わりにグラビアアイドルをボーカルに迎えたことに複雑な思いを抱えスランプに陥っていたせいいちは、仕事もせず毎日ダラダラとした日々を過ごす。そんなとき、ツチダはお店に来た客の安原(光石研)からもっと稼げる仕事があると愛人契約をもちかけられる。ある晩、隠していた愛人からのお金が見つかってしまい、ツチダがその男と体の関係をもっていることを知ったせいいちは働きに出るようになる。そして、ツチダが以前のようにライブハウスだけで働きはじめた矢先、今でも忘れられない過去の恋人ハギオ(オダギリジョー)が目の前に現れる。蓋をしていた当時の想いが蘇り、過去にしがみつくようにハギオとの関係にのめり込んでいくーー
冨永昌敬監督の現場で感じたこと
ーーこの作品のどんなところに惹かれてオファーを受けられたのでしょうか?
「お話を頂いた時にちょうどプライベートで臼田さんと知り合っていたのでご縁を感じたのと、以前から冨永監督とプロデューサーの甲斐真樹さんとはいつか一緒にお仕事をしてみたいと思っていたので念願叶って出演させて頂くことになりました。そのあとすぐに魚喃キリコさんの書かれた原作と映画の脚本を読んでみたら、登場人物達が自分の感情のわからなさに立ち止まる姿にとても共感できて。せいいちのような役は今まで演じたことが無かったので、オファーを頂けたのは嬉しかったです」
ーーせいいちはプロのミュージシャンになる夢を持ちつつも少しくすぶっているように見えます。太賀さんはせいいちのどんなところに魅力を感じましたか?
「せいいちはミュージシャンで、安定しない職業であったり表現者という部分に役者との共通点を感じました。彼が抱える葛藤や悩み、迷いみたいなものに共感できたので、そういう部分が演じるうえでの糸口になるんじゃないかと思ったんです。ツチダから見るとせいいちは何考えてるのかわからないようなところも、せいいちからしたら思うことがあって行動している。それが上手い具合に表現できたらいいなと思いました。面白いのが、自分が積み上げてきたせいいち像が、臼田さんと一緒に芝居をすることによって一気に変わったんです。より僕をせいいちらしくしてくださったのは臼田さんなんじゃないかなと思います」
ーーツチダは元恋人と現在の恋人との間で揺れてしまいますが、そんなツチダのことをどう思いますか?
「彼女が望んでいることは一つというか、幸せになりたいと思ってるはずだし、せいいちに曲を書いて欲しいと思ってる、その思いは純粋なんですよね。それに二人の男の間で揺れるといった矛盾は女性に限らず男性もあると思います。“本当はこう思ってるはずなのに、なんでこんなことしちゃったんだろう”とか。そういった矛盾を描いてることが今作のひとつ太い柱のような気がします」
ーー冨永監督の現場はいかがでしたか?
「チームワークがとにかく素晴らしかったので、自然にスッと作品の世界に入り込める現場でした。冨永さんは僕が想像もつかないような演出やアイデアが湧き出てくる方で、とにかく冨永さんを信じて演じていました。完成を見たらそういったアイデアや演出が、よりせいいちをハッキリ輪郭づけていたというか。自分が現場でやっていた感じと少し違った印象で、完成を観て“こんな風に映ってたんだな”と嬉しい誤算がありました。臼田さんや監督、スタッフさんみんなで役を作っていくような現場だったんですけど、色んな人の影響を受けて演じたほうが自分の中でガチガチに決めてやるより自由なんだと実感しました」
ーー冨永監督の言葉で印象に残ったことはあります?
「冨永さんは現場でああしようこうしようという話はあまりせず、ふとした時に釣りの話をよくされていました。“こないだ○○が釣れたよ〜”と(笑)。僕は釣りの経験がほとんど無かったんですけど、頻繁に釣りの話を聞くとやってみたくなるじゃないですか(笑)、それでクランクアップした後にバンドのメンバーを演じた役者達と一緒に冨永さんに釣りに連れて行って頂いたんです。凄く楽しかったので良い思い出です」
ーーせいいちと一緒にバンドを組んでいる田中を演じた浅香航大さんとは『桐島、部活やめるってよ』で共演されていますが、寺尾役の若葉竜也さん、川内役の大友律さんとは以前から交流はあったのでしょうか?
「今でも桐島のメンバーとはたまに会いますし、浅香くんと同じ作品でバンドのメンバーとして共演できて凄く嬉しかったです。若葉くんは僕がデビューして初めての連続ドラマで共演してるんですけど、当時から可愛がってもらっていて凄くお世話になっている先輩です。今回は10年ぶりの共演で感慨深かったですね。大友くんは若葉くんと昔から仲が良くて信頼し合っていたので、こういう4人がバンドのメンバーを演じるからこそ良い空気感が出せたんじゃないかなと思います。クランクイン前は4人で楽器を練習したり食事したり、そういう時間を過ごせたのも良かったです」
ーーもっとガッツリ4人のライブパフォーマンスが見たかったです。
「劇中でバンドの演奏シーンが流れますけど、あれ、実は相対性理論の曲を実際に演奏しているんです。劇中では音が流れないので何を演奏しても良かったんですけど、ちゃんと課題曲を決めて僕以外の3人は完璧に演奏できるように練習していました。劇中にも登場する下北沢のGARAGEというライブハウスを借りて、営業時間外に4人で集まって一週間ぐらい毎日練習していました。これは完全にプライベートでやっていたことなので、スタッフさんで知らない方もいると思います。それにみんなでお酒を呑んでいるシーンは実際にコソコソお酒を呑んでましたし(笑)。そういうリアルなアプローチがあったからこそ、僕らバンドの関係性がしっかりと画に現れているんじゃないかなと思います」
ーーちなみに太賀さんはミュージシャンに憧れたりしますか?
「自分で曲を作って歌って演奏して、ゼロからイチを生み出すところがミュージシャンと俳優の違いなのかなと思っていて。俳優は既に存在しているものを膨らませたり具現化していく作業ですけど、ミュージシャンは何も無いところから生み出す苦労をしている。それってカッコいいなと素直に思います」
ーーSCREEN ONLINEの読者に向けて、太賀さんのお気に入りの作品を1つ教えて頂けますか。
「『ぐるりのこと。』は高校生の時に渋谷のシネマライズに観に行ったんですけど、この作品が邦画を好きになる決定打になったというか。当時は10代だったので、あの作品の本質を理解できたわけではなかったかもしれませんね。今でも見直すたびに凄く優しい映画だなと感じます」
ーー最近刺激を受けた作品は何かありますか?
「先日『「散歩する侵略者」公開記念 黒沢清 驚愕の3年間1997〜1999』という特集上映があって、『CURE』『カリスマ』『蛇の道』『蜘蛛の瞳』の4本立てを観たんです。観る前は少し疲れてたんですけど、4本ともめちゃくちゃ面白くて目がバッキバキに冴えました(笑)。全ての上映が終了したのが朝の5時半で、疲れるどころかテンションが上がっちゃって“おっもしれえ!!!!!”と心の中で叫んだりして(笑)。『蛇の道』『蜘蛛の瞳』は哀川翔さん主演のVシネマなんですけど、トラウマ級に面白かったですし35ミリ上映を映画館で観れたのは貴重な体験でした。特集上映のタイトル通り僕は“驚愕”したので、是非皆さんもこの4本を観て驚愕してください(笑)」
(文:奥村百恵)
監督・脚本:冨永昌敬
原作:魚喃キリコ『南瓜とマヨネーズ』(祥伝社フィールコミックス)
キャスト:臼田あさ美 太賀
浅香航大、若葉竜也、大友律、清水くるみ、岡田サリオ
光石研/オダギリジョー
配給:S・D・P
11月11日(土)新宿武蔵野館ほか、全国ロードショー
©魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会