孤独な30代女性と彼女の“恋人”である猫のちょっと不思議な関係を描く
本作は思いどおりの生き方ができず、いつしか心に孤独を抱えてしまった30代女性と、自分を彼女の恋人だと信じて疑わない猫との関係を描いた、ちょっと不思議な物語。ファンタジー・テイストに溢れながらも、私たちが日々暮らすこの世界に新しい光を当て、より自分らしく生きるヒントをくれるハートウォーミングで心揺さぶる1本だ。
メガホンをとったのは『ジョゼと虎と魚たち』(2003)、『メゾン・ド・ヒミコ』(2005)など繊細な恋愛ドラマから、『のぼうの城』(2012)のような歴史大作まで幅広いジャンルで演出の冴えを見せてきた犬童一心監督。少女マンガ史に輝く大島弓子の名作『グーグーだって猫である』の映画版(2008)とドラマ版(2014、16)も手掛け、「猫を撮らせたら日本映画界随一」とも言っても過言ではない“猫映画の名手”でもある。“人の世界”と“猫の世界”を思いもよらぬ手法で混在させた本作は“猫映画”の決定版にして、犬童ワールドの集大成とも言える内容になっている。
「犬童監督の作品にはいつか出演してみたかった」と、今回の出演オファーを即決したという沢尻エリカ。『ヘルタースケルター』や『新宿スワン』(2015)で見せた“強い女性”像からは一転、本作『猫は抱くもの』では自分をうまく表現できず思うように生きられない30代女性のもどかしさを、繊細に表現している。本人によるアイドルグループ「サニーズ」のダンス&歌唱シーンも含め、まさに6年ぶりの主演作に相応しい、表現者としての新境地を見せた作品にもなっている。
沢尻エリカ、クランクアップインタビュー
──今回、犬童監督から主演のオファーを受けられた際、どのように思われましたか?
監督とは、私が『ヘルタースケルター』(2012年)に出演した翌年、日本アカデミー賞の授賞式で初めてお目に掛かったんです。その際にお話しさせていただいた印象が強く残っていて。いつかお仕事でご一緒できたらいいなと、ずっと思っていました。ですから今回オファーをいただいたときは、ほぼ即決でしたね。自分の中に、犬童監督への絶対的な信頼感みたいなものがあったので、自分の直感を信じようと思いました。
──主人公・大石沙織は元アイドルで、今はスーパーのレジ係をしている女性です。演じるにあたって意識されたこと、準備されたことはありましたか?
事前に準備するというよりは、実際に現場に立ってみて、そこで感じたことをもとに、役を作りあげました。沙織を演じて感じたのは、すごく多面的なキャラクターだなということ。彼女は過去にアイドルとして挫折していて、その経験から逆に、自分というものをうまく出せなくなっている。でも芯の部分には「本当はこういう風に生きたかった」という強い想いも抱えている。沙織が心に抱えているもの自体は、実は多くの人たちと共通してるんじゃないかなとも感じました。
──本作が初タッグとなる犬童監督の演出はいかがでしたか?
すごく、やりがいがありました。全編が今まで経験したこともない撮り方ばかりでした。舞台上で撮るシーンと実景シーンが混在していて、「人の世界」と「猫の世界」が入り混じっていたので、演じ分けが大変でしたけれど、全力投球でやりきるしかないなと(笑)。自分の限界を決めず、監督の演出のもとでどこまでいけるか挑戦できたと思います。
──主人公・沙織にとって、愛猫(良男)はどのような存在だと?
たぶん沙織は、いろんなことに対して不器用な女性だと思うんです。周囲に対して自分をうまく出せないし、そういう自分にもどかしさを感じている。彼女にとって良男は、そういう「好きになれない自分」もすべて引っくるめて受け入れてくれる、最大の理解者なんじゃないかな。人間の恋人とはちょっと違うのかもしれないけれど……なくてはならない存在。
これはペットに限った話ではなく、何かと良い関係で日々を過ごすことって、人にとって大事だと思うんですね。仕事で悩んだとき恋愛で悩んだとき、すべてを受け入れてくれる存在がいてくれること。自分を癒やし、ハッピーにしてくれるものを、心から大切にすることって、素敵だなと。この映画に出演して、考えたりしました。
猫は抱くもの
6月23日(土)、新宿ピカデリー全国ロードショー!
配給:キノフィルムズ
©2018 『猫は抱くもの』製作委員会