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メリル「あまり語られることのなかった事件に関する感動的なストーリーよ」
今回もまたアカデミー賞の候補になったメリル・ストリープが「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」で扮しているのは、ワシントン・ポストの社主キャサリン・グラハム。亡き夫の跡を継いで社主になったが、それ以前は仕事をしたことのない専業主婦で、その経営者としての能力を役員会など周囲から疑問視されている女性だ。
『アラン・J・パクラ監督の映画「大統領の陰謀」を見ていたから、ワシントン・ポストの件とウォーターゲート事件のことは知っていたわ。あの映画にも少しだけキャサリン・グラハムは出ていたけど、彼女のことはあまり知らなかった。でも、リズ(ハナー/脚本家)の脚本は当時の特色を本当によく掴んでいたわ。今まであまり語られることのなかった事件に関する、感動的なストーリーだった。
この役にアプローチするため、最初にキャサリンの回顧録を読んだの。美しい文章で綴られた、心に訴えかける非常に感動的な自叙伝だと思ったわ。彼女の子供たちや友人が語っていた通り、最初からフォーチュン誌が選ぶトップ500企業の初の女性経営者である自信に満ちたキャサリン・グラハムだったわけではないことを知ったの。女性が育児や家事をきちんとこなすこと以外は求められていなかった時代に、彼女も自分に自信が持てない女性だったのよ。実際にあの時代を生きてみないと、今といかに社会が違っていたかを想像することは難しい。キャサリンは先駆者的存在だったから、リーダーシップを執ることにまだためらいがあったでしょうね』
キャサリンは編集のトップ、編集主幹のベン・ブラッドリーと協力してペンタゴン・ペーパーズの公表に踏み切ることになる。
『キャサリンはベンを敬愛していたと思う。そこに恋愛感情はないけれど、彼のことを自分の一部のように感じていたのだと思うわ。
ベンを演じたトム(ハンクス)は、ハリウッドきってのナイスガイとして知られているわ。でもそれだけでなく、ずば抜けて頭のいい人でもある。そこがトムとベンの共通点だと思うわ。二人ともウィットに富んでいて、常に周囲の人たちの数歩先を行っているのよ。周りの人間に「もっと、もっと」と要求するベンの性格は、トムにも共通する部分だと思うわ』
40年以上のキャリアを誇るメリルだが、監督のスティーヴン・スピルバーグとはなんとこれが初のコラボレーションになる。
『スティーヴンはよく働いてよく考える人。でも、それは彼にとって遊びのようなものなのよ。子供のように、自由に映画製作に没頭しているだけ。スティーヴンの映画製作の手法は即興的で、ショックを受けたわ。状況が分からないまま、リハーサルなしに本番が始まるのには本当に驚いた。私たちはただ現場に行って撮影に臨み、後はスティーヴンが手を加えるだけなの。自発的でとてもスリリングな経験だったわ。みんな、常に気を張っていたのよ』