彗星のように映画界に登場した、新人「女優」ダニエラ・ヴェガこそ、トランス・ジェンダーとしての性差別など乗り越えて、自分の生き方を映画界に賭けた勇気ある人物。
本気で「女優」をめざす、『ナチュラル・ウーマン』主演女優のインタビューです。

髙野てるみ(たかのてるみ)
映画プロデューサー、エディトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。
著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』『マリリン・モンロー魅せる女の言葉』(共にPHP文庫)ほか多数。
Facebookページ:http://www.facebook.com/terumi.takano.7

演じるのは、誰よりもナチュラルに自分らしく生きる女性像

最初、『ナチュラル・ウーマン』という邦題や、「私らしく、私を生きる」というキャッチ・フレーズ、そして、チラシのヴィジュアルに使われている、射るようなまなざしの美しい「女性」を見る限りでは、この作品が性多様性に関わる映画だという印象は、みじんも感じられませんでした。

が、美女はトランス・ジェンダーで、「女性」として懸命に生きる人間が、どのような日々を送り、どう生きるべきかを訴える、美しくも激しい映画だということを観て、知って、この映画自体が「事件」なのだとわかりました。

主演の、自身もトランス・ジェンダーであるダニエラ・ヴェガは、本作が高く評価されたことにより、すでに「女優」として認知され、次回作はジェンダー的な内容の作品ではない映画に出演が決まっているというから、そのサクセスぶりは半端ではありません。

本作は、トランス・ジェンダーのマリーナが、インテリア・デザインの会社を経営する歳の離れた恋人オルランドと愛し合うも、その渦中で死亡。そのため、マリーナは、恋人の元妻はもとより、親族一同から、葬儀同席を拒まれたり、生活をも揺るがすような嫌がらせや暴力を受け、人権を損なわれ追いつめられます。しかも、事故死か過失かなど、警察からも疑惑をもたれ屈辱的な取り調べを受けることに。

愛する人を失った悲しみに浸ることも許されない日々に、マリーナは自分と向き合い、どう生きていくのかが、リアルかつ幻想的に描かれていきます。

監督は、『グロリアの青春』(13)を4作目とする、ベルリン国際映画祭で受賞、アカデミー賞外国映画部門ノミネート、その他多数受賞した、気鋭のチリの監督、セバスティアン・レリオ。5作品目となる本作品は、渾身の異色作です。すでにベルリン国際映画祭で再び受賞、アカデミー賞でも前作同様、同部門にノミネートされるという快挙です。

ヴェガもアカデミー賞のプレゼンターを務めることになったそうで、大したものです。

画像1: (C)2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

(C)2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

トランス・ジェンダーのシンデレラガール誕生

作品からは、女性として懸命に生きようとあがく主人公マリーナと、演じるヴェガの心境が重なり合って混乱させられもしつつ、心揺り動かされ、差別する側、される側のいずれに自分が身を置くかを問われる思いを感じさせられます。

映画はあくまで、マイノリティに対する偏見や差別の有様を、ヒステリックかつ悲惨に声を大にするのではなく、神秘的でシュールな表現も取り入れながら美しくも激しく生きようとする「彼」、否、「彼女」を描いて秀逸です。

──まさに、シンデレラガールですね。監督は非常に高く評価され多くの賞を獲ってきた実力者です。その方からのオファーがあった時は、どのような気持ちでしたか?そして、今のこの成果を予想されましたか?

「監督とは1年半ぐらい友人として交流があったんですが、私のためのシナリオを書いているなんて全然知りませんでした。彼がスゴイ人で、制作陣もスゴイ人たちなんだということも知っていました。だから、これはひとつの大きな挑戦だと思いました。でもビビる間もなく、監督が「君ならやれる」と言ってくれた、その一言で、迷うこともなかったんです。出来るって思いました。そのとおりになりましたね」

──それまで、ヴェガさんは、どのようなキャリアを歩んでいたんでしょう?

「私はサンティアゴに生まれ、8歳からオペラの歌を歌っていて、高校卒業後、地元で劇団に入り舞台にも立っていて、著名なソングライターのビデオクリップに出たり、本作の前にも一本ですが、映画の主役を務めてもいました。自分の思う芸術活動ができていました」

──主人公は、ヴェガさんの等身大であるように思えてなりませんが……。

「私はマリーナとは違います。また、私の生き方をなぞったものでもありません。これは、『自分の世界をどう見るか』ということを軸に書かれた脚本で成り立っており、ひとつひとつのエピソードは、作られたものです。でも、共通するところと言えば、絶対に女性であること、歌を歌うということ、ハンサムな男が大好きというところでしょうか(笑)」

女優を真似るのではなく、あくまで自己ベストに挑戦

──その、ご自身とは違う生き方のトランス・ジェンダーの「女性」を演じることには、ご苦労があったのではと思いますが?

「映画作り自体が難しいことですし、難しいことだからこそ、挑戦する意味があると自分は思って頑張りましたから、苦労と感じることはなかったです」

──では、難しいところ、頑張ったところは、どんなところでしょう?

「暴力のシーンです。肉体的、精神的両方の。例えば、恋人オルランドの前の奥さんに車を返しに行き、その女性から言葉の暴力を受け、それを受け止める時。医者に体を調べられるときは裸にさせられますね。恋人の家族から苛められ、テープでぐるぐる巻きにされるというシーンも大変でした。ですが、スタッフのおかげで、難しくても頑張れ、やり遂げることが出来たのです」

──次回作は女優として出演されるそうですが、目標にしている女優はいますか?

「あの人みたいになりたい、という目標はありません。私の目標は、自分がまず自分として生き続けることであり、人物像を作り続けることなんです。目標を決めるとするならば、これまで自分がしてきた仕事を超える仕事をすることだと思っているんです。自分のこれまでの仕事を常に見続けて、それよりも自分がどれだけ上に行けるか、という自分との戦いの方が、私にとっては自然のことのように思えるから」

まさに、ナチュラルに、女性として、女優として生きたい。目標は自己ベストを越える自分でありたい。オリンピックをめざすアスリートにも似て、挑戦する意欲に満ち溢れた精神が、女の中の女、女優の中の女優を創りあげていきそうです。

画像4: (C)2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

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偏見や差別を乗り越えて輝く、新時代の女優の登場

今、大スターと言われる女優も、誰もが初めは偏見と差別に喘ぎながらも頂点をめざしたと言われます。

これからの険しい道をものともせず、登り始めて行くであろうダニエラ・ヴェガ。彼女が語った映画に描かれる暴力シーンの中でも、際立ったのは言葉によるものでした。

傷つきながらも、しかし、それを乗り越えてこそ輝くのだという重要なシーン。それを演じる彼女のピュアな、物言わぬ無言の戦う表情が観る者を魅了する。それこそが、ダニエラ・ヴェガという女優。新時代に見いだされた才能です。

ヴェガ演じるマリーナが、映画の最後のシーンでヘンデルの『オンブラ・マイ・フ』を、美しい「ソプラノ」で歌うところは圧巻で、涙をこらえることは出来ません。

性差を越えて、マリーナになってしまった自分を見出す、そんな気持ちにさせられ、セバスチアン・ㇾレリオ監督が、ダニエラ・ヴェガを起用し自らの想いを託した「映画愛」が伝わり、観る者を満たしてくれます。

インタビューでも今の心境を、「愛について、あなたはどう思いますか?愛されたいと、どのように思っていますか?と、皆にたずねてみたい」と語ったヴェガ。愛の天使のようでした。


2018年3月5日(火)追記:
第90回アカデミー賞外国語映画賞受賞、おめでとうございます!

画像: 映画『ナチュラルウーマン』予告編 2月公開 youtu.be

映画『ナチュラルウーマン』予告編 2月公開

youtu.be

2月24日より、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINRNA 他、全国公開中
監督/セバスティアン・レリオ
出演/ダニエラ・ヴェガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ、アリン・クーペンヘイム、ニコラス・サベドラほか
配給/アルバトロス・フィルム
2017年/チリ・アメリカ・ドイツ・スペイン合作/104分/カラー
(C)2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

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