LA在住の映画ジャーナリストとして活躍中の筆者が、“SCREEN”のインタビューなどで毎月たくさんのスターに会っている時に、彼らの思わぬ素顔を垣間見ることがあります。誰もが知りたい人気者たちの意外な面を毎月一人ずつお教えする興味シンシンのコーナーです。今回のお相手は「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」チャーチル役で話題となったゲイリー・オールドマン!

成田陽子(なりたようこ)
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて37 年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。

一度は断わったチャーチル役だが周囲や家族の熱心な説得で思い直したんだ

『チャーチルの役? もちろん最初は首を横に振ったよ。誰もが知っている英国の英雄だし、アメリカ人にとってのリンカーン大統領以上の存在なのだから。おまけに英国の重鎮の俳優がこれまでに演じてきたし、何を今更。僕のルックスと体を見てくれ。ファットスーツを着てゴムの固まりのメークをしても、もの凄く難しいに決まっている。監督のジョー・ライトから話があった時にまずそう思って断った。

しかし家族や妻がこれ程の大役をこなして、尊敬するチャーチルの勇気を鼓舞するスピーチをし、今の崩壊寸前の世の中で苦しむ人々を叱咤激励する最高の機会じゃないかと、しつこく説得して来て、僕の体の中から沸々と俳優魂がたぎりだし、申し出を受けたんだ。

チャーチルの著書、資料、ビデオを1年余り研究して、その業績の偉大さに改めて仰天したね。50冊の著書はシェークスピアの量を凌ぐし、544点の絵画のうち16枚は皇室アカデミーに陳列されている。50年間の政治家歴で4つの大戦を経験、リベラルで民衆のために膨大な努力を捧げている。

画像: 「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」

「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」

僕の母は99歳になるのだが、チャーチルを見かけた瞬間をはっきりと覚えているし、父は35年にロイヤル・ネイビーに入隊して沖縄戦にも参戦し、48年に帰還した。僕が生まれたのが58年だが、家の周りはまだ爆撃の痕跡が痛々しく残っていた。つまり、僕はチャーチルの時代を母たちに生々しく聞いて生きて来たから、この偉大な人間を僕なりにベストを尽くして演じようと決心したのだ』

「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」の会見に現れたゲイリー・オールドマンは、まだチャーチルの演説モードが残っているかの様に雄弁に話を始める。最近お好みのポケットチーフをスタイリッシュに覗かせ、紺のスーツのラペルにはチャーチルのピンを付けて、これで傘を携えたら典型的な英国紳士。

昨年9月に結婚したばかりの5度目の夫人、ジゼル(シュミット)が後ろの方で恥ずかしそうに手を振って応援しているのが微笑ましく、二人の甘い新婚生活をちらりと覗かせていた。

ご存知でしょうがゲイリーは大モテ男で、まず今年の「ファントム・スレッド」でオスカー助演賞候補になった英国女優レスリー・マンヴィルが第1の妻、2番目の妻はアメリカの美人女優ウーマ・サーマン、それからイングリッド・バーグマンの娘のイザベラ・ロッセリーニと婚約、3番目の奥方はドニヤ、4番目は英国の歌手アレキサンドラ(15年に離婚)と華麗なる女性歴なのである。

画像: 筆者とオールドマン

筆者とオールドマン

僕は役作りにのめり込むタイプなので今もまだチャーチルが心身に残っている

『メークアップの天才のカズ(オスカー受賞の日本人、辻一弘さん)に懇願してチャーチルの顔作りが始まった。試行錯誤を繰り返しカズは顔の皮膚が表情に応じて動く繊細な肌を創り上げてくれてね。朝の4時に始まる毎日4時間のメークと1時間余りのメーク落としは僕にとって貴重な瞑想の時間になった。

メークを取っても僕はチャーチルのままの状態で家に帰り、妻はチャーチルと一緒にベッドに入り、朝になるとゲイリーが戻って来たと言っていたが、僕は役作りにのめり込むタイプで、実は今もまだチャーチルが心身の隅に残っているのだよ。

僕の彼に対する愛、尊敬、好奇心は募るばかりだった。1年間リサーチにかけ、1年間役作りにかけたから、僕は2年間を彼に捧げたことになるが心が豊かになる経験だった。

「裏切りのサーカス」(2011)のジョン・スマイリーの役も英国の重鎮、僕が心から崇拝するアレック・ギネスがテレビシリーズ(1979)で英国人の誰もが感動した入魂の役作りをしていたから、彼を凌ぐことはとても出来ないと尻込みしたが、敢えて挑戦した。やって良かったと思う。そして今回も数々のハードルを越えての苦労のしがいのある大役だった』

そしてめでたくゲイリーは今年のオスカー主演賞に輝いたのである。

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