全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』(15)で世界中を驚愕させたショーン・ベイカー監督が35mmで撮影した新作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は、フロリダにあるディズニーワールドのすぐ外側のカラフルな安モーテルを舞台に、社会の片隅で生きる人々の日常をリアルに描いた作品。安モーテルでその日暮らしを送る6歳のムーニーを演じるのは天才子役ブルックリン・プリンス、ムーニーの母親ヘイリー役には監督がインスタグラムで発掘し、初演技とは思えない存在感を放つブリア・ヴィネイト、さらに二人を見守るモーテルの管理人のボビーを名優ウィレム・デフォーが好演している。プロモーションで来日したショーン・ベイカー監督に、今作への想いや撮影秘話などを語ってもらった。

【ストーリー】
6歳のムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)と母親のヘイリー(ブリア・ヴィネイト)は定住する家を失い、“世界最大の夢の国”フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテルで、その日暮らしの生活を送っている。シングルマザーで職なしのヘイリーは厳しい現実に苦しむも、ムーニーから見た世界はいつもキラキラと輝いていて、モーテルで暮らす子供たちと冒険に満ちた楽しい毎日を過ごしている。しかし、ある出来事がきっかけとなり、いつまでも続くと思っていたムーニーの夢のような日々に現実が影を落としていく———

画像1: 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
ショーン・ベイカー監督来日インタビュー
画像2: 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
ショーン・ベイカー監督来日インタビュー

実際のモーテルのマネージャーから話を聞いて
ボビーというキャラクター作りに反映させました

ーー演技経験が少ない役者陣の中で、モーテルの管理人のボビーを演じた名優ウィレム・デフォーが圧倒的な存在感を放っているのかと思いきや、冒頭から不思議と物語に溶け込んでいてボビーにしか見えませんでした。現場での彼はどのように撮影に挑んでいましたか?
「彼は最初から“僕は作品に馴染みたいんだ”と言っていて、クランクインの初日はヘイリー親子をボビーが怒るシーンの撮影だったんですけど完全にボビーにしか見えませんでした。それは凄く嬉しかったです。今作を撮るにあたり実際に色んなモーテルのマネージャー数人にリサーチをしたんですけど、ウィレムさんにも彼らに会って頂いたんです。みなさん自分の仕事を誇らしく思っていて、もの凄く苦労もしているといった話を彼らから直接聞いたインパクトは大きかったようで、ボビーの役作りのヒントになったと言っていました。ウィレムは常に熱心に役のことを考えていて、ボビー以外のシーンの撮影の時は現場に来る必要がないのにも関わらず、僕のところへ来て“ボビーが身につける時計やサングラスはこれを使ったらどうかな?”と現物を見せてくれたり“めちゃくちゃ大きな無線機をボビーが持っていたら面白いんじゃないかな?”なんて自らアイデアを提案してくれたんです。もちろんそのアイデアは採用させて頂いて、劇中では大きな無線機を持ったボビーが見れますよ(笑)」

画像1: 実際のモーテルのマネージャーから話を聞いて ボビーというキャラクター作りに反映させました
画像2: 実際のモーテルのマネージャーから話を聞いて ボビーというキャラクター作りに反映させました

ーーボビーというキャラクターはどのように作っていかれたのでしょうか?
「2008年のリーマンショックや世界金融危機、不況、そしてその直後にアメリカで起きた住宅危機など永住の住まいを確保できない人達が今も多く存在しています。ヘイリー親子も同様で、安モーテルでその日暮らしの生活を送っている。ボビーはそんな彼女達を助けたいのにできないんです。色んなモーテルのマネージャーから話を聞くと、多くの方がボビーのように自ら望まずとも困っている家族の親のような存在になってしまっていると言っていました。もちろん愛や思いやりを持って彼らは接しているそうですが、同時にビジネスでもあるので宿代を払ってもらえない場合はストリートに放り出さなければいけません。そのためにある程度の距離を保つことを大事にしているそうで、その話を聞いてとても切ない気持ちになりました。そういった実際のモーテルのマネージャーのリアルな言葉を反映させてボビーというキャラクターを作っていきました」

画像3: 実際のモーテルのマネージャーから話を聞いて ボビーというキャラクター作りに反映させました
画像4: 実際のモーテルのマネージャーから話を聞いて ボビーというキャラクター作りに反映させました

ーークール・アンド・ザ・ギャングの大ヒット曲『Celebration』など劇中に流れる音楽も印象的でした。
「今作の中で一番意味合いが強い楽曲はやはり冒頭の『Celebration』です。何故かというと『Celebration』から始まることによって観客は明るい物語なのかなと思うかもしれない。ところが物語が進んでいくと最初に思い描いたような明るい世界とは全く違う現実を突きつけられるので、そこを狙って『Celebration』を使ったんです。他の楽曲に関してはヘイリーがよく聴いている音楽がヒップホップなので、全編に渡ってヒップホップを沢山使っています。ヘイリーを演じたブリアも実際によく聴いているのがヒップホップだったのも嬉しい偶然でしたね。最後のオーケストラバージョンの『Celebration』は、共同脚本のクリス・バゴーシュのアイデアで編集の最後のほうで決まって急遽作りました。オケバージョンをあてた完成バージョンを観て改めて凄く良いアイデアだと思いました」

画像5: 実際のモーテルのマネージャーから話を聞いて ボビーというキャラクター作りに反映させました
画像6: 実際のモーテルのマネージャーから話を聞いて ボビーというキャラクター作りに反映させました

ーー監督が初めてワクワクした映画体験の思い出を教えて頂けますか。
「子供の頃に図書館で、ユニバーサルのモンスターシリーズ(『魔人ドラキュラ』(31)など)のクリップの中から僕はジェイムズ・ホエール監督の『フランケンシュタイン』(31)を観たんです。それも全編ではなくクリップ(予告編)で(笑)。それまでは大きくなったら大工さんになりたいと思っていた6歳児だったのに、翌日には“映画監督になる!”と言い出して(笑)。それから『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)と出会い、そのすぐあとに更に大きなインパクトを与えてくれたのが『未知との遭遇』(77)でした。この3作は僕にとってワクワクするような映画体験で、人生を変えてくれたと言ってもいいかもしれませんね。実は最近ようやくスティーヴン・スピルバーグ監督とお会いすることができて、“僕はあなたが作った『未知との遭遇』に出会ったから映画監督になったんですよ”と伝えたんです。そしたら監督は“僕も君達のような若い世代の監督から凄くインスピレーションを貰っているよ”と言ってくださって。あれだけのキャリアを持ちながら、なんて謙虚な方なんだろうと感動しました」

ーー監督の新作が発表されるたびに私達もワクワクと期待が止まらないのですが、映画を制作するためのヒントやアイデアはどこから得ているのでしょうか?
「今作の場合はクリスが実際にフロリダで起きていている記事を見せてくれたことがきっかけで映画のヒントを得て、更に現地でロケーションを見ながら物語を作り上げていきました。また『タンジェリン』や『Prince of Broadway(原題)』はそれこそロケーションからヒントを得ていて、“この鮮烈な場所で物語が展開したらきっと面白いものができる”とピンときたんです。あとはあまり人間的に描かれなかったようなキャラクターを人間的に描くとか、全く描かれていなかったキャラクターを描くとか。そういったキャラクターとロケーションとの組み合わせで物語を作ることが多かったように思います。次の作品は普遍的と呼べるようなテーマを新しい形で見せる映画を考えていて、アイデアとしてはいくつか温めている最中なんです。今後の作品も楽しみにしていてください」

画像7: 実際のモーテルのマネージャーから話を聞いて ボビーというキャラクター作りに反映させました


(取材・文:奥村百恵)

■監督・脚本・編集:ショーン・ベイカー
■キャスト:ブルックリン・キンバリー・プリンス、
      ウィレム・デフォー、ブリア・ヴィネイト
■配給:クロックワークス
5月 12 日(土)、 新宿バルト9ほか全国ロードショー
© 2017 Florida Project 2016, LLC.

画像: 【5月12日公開】『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ティーザー予告 youtu.be

【5月12日公開】『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ティーザー予告

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