映画祭2日目。コンペ部門に1日遅れて「ある視点」部門のオープニングセレモニーが、会場であるドビュッシー劇場で開かれた。

今回の審査委員長はベニチオ・デル・トロー。「チェ」のサンドイッチつきカンヌ上映が思い出されるが、あれから10年も経ったのか。

映画祭実行役員のティエリー・フレモーの紹介でステージに上がったテル・トローをはじめとする5人の審査員たち。フランス女優のヴィルジニー・ルドワイヨン、映画祭ディレクターのジュリー・ハントシンガー、パレスチナの監督&脚本家アンヌマリー・ジャシール、それにロシアの若手監督カンテミール・バラゴフと、ここでも女性が過半数。デル・トローは堂々と審査意欲を述べていたが、どこかのお兄ちゃん風のバラゴフはだいぶ控えめな様子だった。

ウクライナの現状を表わすセルゲイ・ロズニッツア監督作

この「ある視点」部門は個性も作風も強烈な、かなりエッジの効いた作品がエントリーされて、いつも期待されるのだか、今年もそれを裏切らないようだ。まずオープニングに上映されたのが、セルゲイ・ロズニッツア監督の「ドンバス」。すでに3度もコンペ部門に選ばれているのに、今回は「ある視点」部門かと本人は少々失望したかもしれないが、大勢の出演者たちと一緒にステージに上がり、「みんなとの協力態勢、チームワークがとてもよく、感謝している」と述べた。

この作品は、戦火が続くウクライナ東部ドンバスが舞台。そこの人たちが軍隊の不正やリンチに悩まされたり、戦闘に駆り出されたり、はたまた結婚式を楽しんだりと異常な状況下の狂乱の日々を綴った群像スケッチドラマ。何が何だか分からないほどの騒々しさが画面いっぱいを覆う。あのエミール・クストリッツア監督の賑やかな人間讃歌とはまではいかないが、とにかく人々が右往左往の2時間ドラマ。疲れ果てたすえに悲劇が訪れる。ウクライナの現状を風刺しているように思えた。

画像: 「ある視点」部門の審査員たち

「ある視点」部門の審査員たち

画像: ウクライナの現状を表わすセルゲイ・ロズニッツア監督作

ポール・デーノの監督作が大注目を浴びる

それより面白かったのが、デンマーク・ホラーともいえるアリ・アッバシ監督の「ボーダー」で、醜い顔の女性入国管理官が強力な野性的嗅覚で違反者たちを次々と取り締まっていくのが始まり。野生の動物たちと親しみ、大型犬たちは必死に吠えるという彼女の日常に、同じような醜い顔をした男が現れたことで、自らの出生の秘密を探り始めていく。やがて…。それはまるで「ぼくのエリ 200歳の少女」のよう。それもそのはず、脚本にその原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが参加しているからのようだ。タイトルの“ボーター”とは国境線と共に、人間性と野性の境界を意味している。

もう1本、期待して観たのがフランスのアントワーヌ・デロジエール監督による「セックステープ」だ。英語タイトルに惹かれたのだが、単なる初体験に興味津々な少女たちの苦い思春期ドラマ。とにかく彼女たちはよくしゃべる。ま、フランスの女の子たちはセックスに対して軽く陽気なんだと思っていたら、よく見ると彼女たちは移民イスラム教一家に育っていたのだ。相手の男の子たちも同様で、それらがオドロキの注目だ。

一方、批評家週間では、ポール・デーノが監督した「ワイルドライフ」が大注目で、ジャーナリスト仲間が一時間前に並んだが入れなかったという大混雑ぶり。ジェイク・ギレンホールは欠席だったが、ケアリー・マリガンが顔を見せたから尚更か。話は60年代の家族の崩壊を見つめたもので、なかなかの出来栄えだとか。またチャンスがあったら観たい。このように映画祭出足は好調のようだ。(岡田光由)

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