成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて37 年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。
父ブレンダンを世界一の父親だと誇りに思っていると正直に話す姿が可愛らしい
アイルランド出身の名優、ブレンダン・グリーソンの4人の息子の一人が、いま「ピーターラビット」で注目のドーナル・グリーソンである。赤毛っぽい金髪にのっぽの細い体が「ハリー・ポッター」シリーズのロン・ウィーズリー(ルパート・グリント)に似ていたためもあって、ロンの兄貴のビルを演じて注目されたが、ドーナルはそのずっと前からテレビや映画に出たり、自分で脚本を書いたり、ショート映画を監督したりと、父上からの遺伝以上に才能を備えた35歳の気持ちの良い、爽やかな俳優なのである。
「グッバイ・クリストファー・ロビン」(17、日本未公開)という「くまのプーさん」の原作者アラン・ミルンを演じた映画でインタビューしたのだが、控え目で、謙虚で、お行儀もよく、いかにも育ちの良さを感じさせる『お母さんが娘のお婿さんにしたい』タイプの若者だった。声もソフトで、インタビューのときはアイルランド訛りを極力抑えて、はっきりとした格調のあるアクセントで話してくれるのも彼のプロ意識と優しさの現れであろう。
俳優によってはお国自慢、または愛郷心のあまり英語から全くかけ離れたアイルランド語、ウェールズ語、スコットランド語を駆使してこちらの不自由さなど気にしないタイプもたまに居るのである。
『僕の父は素晴らしい父で世界一だと胸を張って言える。家族と一緒の夕食などで父は仕事にからんだ冒険談を面白おかしく話してくれた。僕が演劇の道に進む時にも静かに支持してくれて、今もアドバイスを求めれば何でも助けてくれるし、たまにはポジティブな批評もしてくれる。兄弟の中ではブライアンだけが演劇の道に進んで今、ロンドンのウェストエンドの舞台に出ている。あとの二人は違う職業についているが兄弟が全員すごく仲が良いのも両親の愛情の深さの賜物だと信じている。
レストランなどに父と行くとサインを求めるファンがよって来るけれど僕ら兄弟はそういう時、巧みに察知して、父を煩わせない様に戦術を練ったものだった。母は頭が良くて、家族のバランスをしっかり保ち、ビジネス感覚にも優れた素晴らしい女性でね。友達の両親が離婚したりするのを聞くと僕の両親は天使の様に思えてなんてラッキーなんだといつも感謝している』
正直に素直に照れたりせず両親賛歌を言うときのドーナルの愛情に溢れた顔がまたとびきり可愛いのである。
最初は俳優ではなくライターや監督を目指していたが……
『最初は俳優になりたくなかった。生活費を稼ぐ保証がない、次から次へと仕事が入るわけではない仕事だと分かっていたから。ライターとか監督を志していた。19歳の時にBBCのテレビ映画に初めて俳優として出て、22歳頃になってようやく俳優としてフルタイムで頑張ろうと決心したんだ。芸名を決める時にファーストネームが難しいから変えた方が良いと言われたけれど僕は自分の名前に誇りがあるし、アイルランドの歴史を示したいから変えなかった。僕らのラストネームはアイルランドの原語ではGUASIANというんだよ』
「マザー!」(日本はDVD発売)のジェニファー・ローレンス、「グッバイ…」のマーゴット・ロビー、「エクス・マキナ」のアリシア・ヴィカンダーと華麗な女優達との共演については、『ジェニファーはもの凄く忙しくてほとんど一緒の時間がなかった。マーゴットとはまずダンスの練習から始まってお互いに足を踏みにじったりで大いに気が合って一緒に飲みに行ったり、非常に愉快な仲良し友達になったから、また共演というチャンスがあったらすぐにオーケーするね。アリシアもていねいに役作りする完璧主義のところがあって、すごく感心したのを覚えている。
役を決めるときは、この役を演じるのは恐い!とか、誰か他の役者が演じた方が良い、と思った時の役に挑戦することにしている。安全圏外に出て色々学び、挑戦して成長したいもの』この日のジャケットはバーバリーからの借り物で『返したくないなー』と残念そうな表情を浮かべていたのが可愛らしかったと付け加えておこう。