【ストーリー】
大好きな子が好きな「尾崎豊」「ブラピ」「坂本龍馬」になりきり、自分の名前を捨てて10年間ただひたすら好きな子を見守ってきた3人の男たち。彼女のあとをつけてこっそり写真を撮る。彼女と同じ時間に同じ食べものを食べる。向かい合うアパートの一室に身を潜め、決して彼女にその存在をバレることもなく暮らしてきた。ところがそんなある日、彼女の借金の取り立て屋が突如彼らの前に現れたことで3人の歯車が狂い出し、物語は大いなる騒動へと発展していく――
概念やイメージをとっぱらってみる勇気が大事。
ーー松居監督が書かれた今作の脚本を最初に読んだときはどんな印象を受けましたか?
「もの凄く客観的な目で最初から最後まで読みました。というのも、実際に尾崎やブラピ、龍馬のような行動をしようとは思わないので全く共感できなかったんです(笑)。だけど、これほどまでに好きな人を見守り続けることができるなんてある意味凄いなと、そういう愛情の形があってもいいよねとは思いました。いまは“ずっと誰かを見る=ストーカー”と簡単に言われてしまうような時代。ストーカーと呼ぶのは簡単ですし、犯罪に繋がるような行為はいけないと思いますけど、それでも今作の3人においては“この人達の愛し方なんだからいいじゃないのか”と、それにその想いは姫だけに向いてるかというとそうではなくて、実は仲間に対しても愛情や想いを向けているんです。そう考えると“この愛はとっても深いものなんじゃないか”と思えてきたので脚本を最初から読み直しました。そのうち一人では消化できなくなり、監督に“ちょっと話しませんか?”と伝え、池松くんと大倉さんと監督の4人で集まって沢山ディスカッションさせて頂きました」
ーーどんなお話をされたんですか?
「例えば誰かの行動に疑問を持った場合は“松居さん、ちょっとこの行動はおかしくないですか?”と問いかける。すると監督から“え? 僕は普通だと思ったんだけど”なんて返ってきたりして(笑)、4人で色々と細かいことまで話し合ったんです。意見を認め合えるぐらいの信頼関係を築けなければ絶対にこの映画を作ることはできないと思ったので、話し合った時間はとても大事なものでした。意見を出し合うことで“そういうことも起こるのか”とか“そういうこともあるね”なんて脚本が少しずつ変わっていくのも面白かったです」
ーーディスカッションしてしっかりと脚本を練った結果だと思うのですが、3人はストーカーには見えませんでした。
「そうなんですよ。劇中では向井理さんとYOUさんが演じている借金取りに“あんた達はストーカーだ”と言われますけど、それは現代の人から見た彼らの印象がそうだからというのもあると思います。ただ、彼らほど人を愛したことがあるのかというと大半の人が無いと思うので、“ストーカー”という言葉で言い表せるほど簡単なものではない行動なんじゃないかなと僕は思います」
ーー劇中で3人が歌う尾崎豊さんの『僕が僕であるために』もとても印象に残りましたが、この曲にはどんな意味が込められているのでしょうか?
「“自分が自分であることをちゃんと認めているか”“周りに何を言われても自分は自分だと言い続けられるのか”というのが今作のテーマでもあると思っていて、さっきの“ストーカー”もそうですけど言葉が一人歩きしているこの時代で、知らず知らずのうちに概念とかイメージを植え付けられているんじゃないかと。それを一度とっぱらってみる勇気を持つ事が大事だと思ったんです。もしかしたらこの映画を観てくださった方がそういうことに気付いてくれるかもしれないですし、そのために劇中で彼らは『僕が僕であるために』を自身の魂に向けて歌い続けているんです」
ーー改めて考えてみると自分のことをハッキリと説明するのは難しいような気がします。
「だからこそ自分を知ることが大事で、例えばどういう体つきをしていて、どういう動きをするのか、そういったことから知っていってもいいと思うんです。右腕より左腕の力のほうが強いなとか、右の肘あたりがちょっと使いづらいとか簡単なところからでいいんです。そういう気づきから自分を知っていくことが大事で、そうすると相手のことも知ることができるんです。“あなたは右手より左手のほうが使えるね。いや、むしろ肘のほうが自由がきくよね”なんて気付いて伝えてあげることもできますから(笑)。こういうことが人と人との関わりだと思うんです。体のことじゃなくても単純に自分の好きなものや嫌いなもの、相手の好きなものや嫌いなものを知るだけでもいいですよね。大林宣彦監督が“お互いの違いを知り、その違いを認め合い、許し合うことで愛が生まれるんだよ”と話してくださったことがあるんですけど、まさにそれこそが生きる全てだと思います」
ーー自分を知ってから他人にも興味を持って関わり合うと、どんどん人生が面白くなっていきそうですよね。今作を観終わったあとにもそう感じましたし、満島さんのいまのお言葉を聞いて更にそう思えました。
「そうじゃないと人生に拡がりがないですよね。いまおっしゃったように今作を観て自分の本当の何かを気づくきっかけになると嬉しいです。映画は観た方のまだ見ぬヒミツの扉を開けるための鍵があるんじゃないかという風に思うんです。それがあるからこそ、僕も俳優を続けられているんだと思います。だからといって映画で何か押し付けがましいものを提示するのではなく、凝り固まってしまった考えを柔らかく揉み解すことができればいいな」
ーーでは最後に、満島さんが演じているブラピにちなんでブラッド・ピット出演作の中から1本お気に入りを教えて頂けますか?
「それはもちろん『ファイトクラブ』です! 何故かというとこの映画のブラピのビジュアルに今回は寄せているからです(笑)。僕はブラピに全く似てないんですけど(笑)、『ファイトクラブ』でブラピが着ている服と近いものを衣装さんが古着屋で探してくれたり、力を貸してもらいました。撮影前に『ファイトクラブ』を久々に見返したんですけど、オチご存知ですよね? あの二人が同一人物だったというやつ(笑)。それこそが“君はいま本当の君ですか?”と。不思議なことに『君は君で君だ』に繋がっているんです! 『君は君で君だ』の撮影、そして『ファイトクラブ』を見返したことで自分を知ることの大切さに気づき、向き合い、“僕は僕です”と、ようやく言えるようになりました。劇場で『君は君で君だ』をご覧頂いたあとは『ファイトクラブ』を観て頂くと、また色んなことが見えてくるかもしれません。是非両方ご覧頂いて、本当の自分を知るきっかけになれば幸いです」
(インタビュー・文/奥村百恵)
監督・原作・脚本:松居大悟
キャスト:池松壮亮 キム・コッピ 満島真之介 大倉孝二他
配給:ティ・ジョイ
7月7日(土)全国ロード―ショー
©2018「君が君で君だ」製作委員会