「タリーと私の秘密の時間」
2018年8月17日公開
監督/ジェイソン・ライトマン
出演/シャーリーズ・セロン、マッケンジー・デイヴィス、マーク・デュプラス
「マイレージ、マイライフ」などでアカデミー賞に2度ノミネートされた名匠ジェイソン・ライトマン監督が、「JUNO/ジュノ」「ヤング≒アダルト」でも組んだ才女ディアブロ・コディーの脚本を映画化。3人の子の母として家事や育児に奮闘し心が折れてしまったマーロと、そんな彼女の救世主として現われたイマドキ女子のベビーシッターの交流を描く。オスカー女優シャーリーズ・セロンが18キロの増量に挑んで主人公を熱演。
それでは編集部レビューをどうぞ!
シャーリーズの“たるみ”っぷりに感動
何を隠そうシャーリーズ・セロンの映画で一番好きなのが「ヤング≒アダルト」なのである。シャーリーズのリミッターの外れっぷりに拍手喝采。驚異のババ下着シーンは感動的ですらあったものだ。
この映画の3人、脚本ディアブロ・コディ、監督ジェイソン・ライトマン、主演シャーリーズ・セロンが再び組んだのが本作。「ヤング≒アダルト」は、結婚して赤ちゃん産めば勝ちなわけ?という話だったが、今回はじゃあ赤ちゃん産んだらどうなのよ?という話。とにかく前作にもまして、シャーリーズの肉体改造がマジすごすぎ。18キロ増らしいが、すべてを“たるみ”に回しちゃう潔さ!食卓で汚れたTシャツを脱ぎ捨てるシーンは感動的ですらある。
女の本音、なんて生易しいものでなく、見てはいけないものを覗き見るようなドキドキ感。これはコメディーなのかスリラーなのか。
レビュワー:近藤邦彦
編集長。若いタリーに対抗して、私も若い頃はブイブイ言わせてたのよ!というテーストは前作同様。あわせて見るとより面白いかも。
大事なことは完璧じゃない自分を許すこと
主人公マーロはとても自分に厳しい人間だ。家事も育児もすべて一人で完璧にこなそうとする。自分の限界さえ気づかずに。そんなマーロの前に救世主のように現われるのがベビーシッターのタリーだ。彼女は言う。あなたの人生をケアしてあげないとね、と。
映画の大半はこのタリーの正体をめぐるドラマとなる。自分の素性を明かさない彼女は一体何者なのか。その驚きの正体は実際に見て確かめてもらうとして、その後でマーロは気づく。大事なのは完璧な自分でいることじゃない。完璧じゃない自分を許すことだと。
ディアブロ・コディの脚本にはいつも、完璧じゃない人、どこか欠けた人への優しいまなざしが満ちている。日常を頑張りながら、ちょっと疲れてしまった人に、ぜひこの映画を見てほしい。タリーがきっとあなたの心もケアしてくれるはずだから。
レビュワー:疋田周平
副編集長。優しいけれどちょっと無責任な旦那役ロン・リヴィングストンのリアルな演技が良かったです。最後のセリフに泣かされました。
“ほっと”すると同時に“ぞっと”するラストに注目
昨今、ママさんタレントたちがSNSに何かをアップするたびに、子育て方法について叩かれる世の中ですが…。母親たるものこうでなくてはいけないという世間の目が、多様性が叫ばれている中で、実際は昔より厳しくなっているのではないかと恐ろしくなります。
シャーリーズ扮する3人目を出産したばかりのマーロも、完璧な母親でなくてはと自分を追い込んでしまいます。それは夫に対してや、子供の学校に対して、お金持ちの兄夫婦に対して、決して恥ずかしい母親になってはいけないと気を張って生きているから。
私自身、心身ともに疲弊しているときにこの映画を見たのですが、子育て中の苦労とはレベルが違えども、自分の足りない部分を否定しすぎて何かを見失ってしまう怖さに共感する部分がありました。ラスト、ほっとすると同時に、ぞっともした展開に驚きでした。
レビュワー阿部知佐子
劇中、シャーリーズが「Call Me Maybe」を歌うところがキュート。カラオケのシーンって実は演技力を問われるのでは…という持論あり。
うまくやれずにモヤモヤしている不器用な方に
マーロは家事、育児が完璧な3児の母。育児にまつわるお話ではありますが、経験のない身でも共感できる点が多々ありました。
人にうまく頼れないマーロ。思いがけずイライラを振り撒いてしまって人間関係が微妙になり、自己嫌悪。反省したのち、また一人でがんばる。抱え込むからうまくいかず、そしてまたイライラ。そんな時シッターのタリーが登場し、彼女の支えとなっていきます。家事・育児に限らずお仕事などでも、そんな悪循環の中でがんばっている人、たくさんいるんだよな、と思いました。本作はそんな方にも是非オススメしたい作品です。
監督&脚本は「ヤング≒アダルト」で大人になりきれない女性を描いたコンビ。ちょっぴり切なさも残るラストに、一人で奮闘する不器用な女性たちを見つめる優しい目線を感じて、爽快な気持ちになりました。
レビュワー:中久喜涼子
シャーリーズの増量にはビックリでしたが、私のベスト・贅肉演技は「ブルーバレンタイン」のミシェル。生活に疲れた感が半端ないんです!
あなたはいまの自分を肯定できますか?
大人になった“自分”は、だいたいが若かった頃に夢見ていた、なりたいと思っていた“自分”とは違っている。そのいまの自分と、どうやって折り合いをつけるのか。それがこの映画のテーマだと思う。
脚本がディアブロ・コディなので、一筋縄ではいかないのは当たり前。夜間だけのベビーシッターというのも実際にあるようだが、我々にはなじみが薄い。子どもの多動症らしい性癖も、あるだろうけれど一般的ではない。そんなありそうでなさそうな設定が、どんどん物語を引っ張っていく。
シャーリーズ・セロンとライトマン監督というこのコンビの前作が「ヤング≒アダルト」だと思い出せば、最終的に落としどころは想像がつくが、それを意外性でひっくり返してくれるのがこのコンビでもある。
“いまの自分”を肯定したいと思う人なら必見の作品だ。
レビュワー:松坂克己
タリー役のマッケンジー・デイヴィス、シャーリーズと堂々と渡り合っての演技ぶりで存在感あり。こんないい女優だったっけ?
なりたかった自分になれてなくてもいい
ベビーシッターが来たのになんで旦那は挨拶しないんだろう?とか見ている間中、疑問符がいっぱいだったけど、オチで納得。ただ試写の後、どういうことだったのかわからずに、宣伝担当者に解説してもらっていた人もいたので、もしかすると舌足らずだったのかもしれない。でもあまり説明しすぎるのは興を削ぐものね。
本作の主テーマの一つは、『なりたかった自分になれていますか?(なれてなくてもいいんだよ)』ということかもしれないが、たまたま翌日に見た「インクレディブル・ファミリー」でも“正しい”親であろうと必死に頑張りすぎるママ(またはパパ)が疲れ切っている──という米国家庭の生々しい裏問題が描かれていて、関連性のない二作なのに、どちらもこのまま突き進んでいては、いつか社会全体が疲弊するという危機感を訴えている気がして興味深かった。
レビュワー:米崎明宏
「007は二度死ぬ」のテーマ曲(カバー)が途中で流れた時、やや裏が読めてしまったが、確信犯?