唯一無二のバンドの底力がスクリーンを通して伝わって来る
2015 年 12 月 28 日、核爆弾が落ちてもゴキブリとともに生き残るといわれ、2,000 人もの女性と夜を共にし、1956 年にはロックンロール誕生の瞬間を目撃、マルボロとジャックダニエルにまみれて血液が猛毒化、ビートルズを愛し、世界一音がデカいバンド、モーターヘッドを 40 年間続けた、1945 年クリスマスイブである 12 月 24日に生まれて以来、不眠不休の大暴走を続けた人類最強の豪傑、レミー・キルミスターが 70 歳でこの世を去った。誕生日を迎えてから 4 日後、癌を宣告されてからわずか 2 日後のことだった。そして翌日、メンバーからモーターヘッドの活動終了が伝えられた。
本作はその暴走ロックンロールの帝王、モーターヘッドの 2015 年 11 月 20 日と 21 日、ドイツ・ミュンヘンでのライヴを収めた、モーターヘッド最期の公式ライヴ映像。2016 年に「クリーン・ユア・クロック」と題してライヴアルバムやブルーレイ、DVD など様々なフォーマットでリリースされた一作だ。
1975 年の結成以来、怒涛のスピードと圧倒的音圧によるシンプルで攻撃的なロックンロールを 40年間続け、メインストリームとは真逆のロックの裏街道を驀進したモーターヘッドは、ヘヴィメタルとパンク/ハードコアという普段相容れない両ジャンルからも熱い支持を集め、その両者が一触即発の状態に陥った場合でもモーターヘッドの曲を流せばすべてがおさまるという、この世に類を見ない存在感を誇ったバンド。レミーの死の約 1 ヵ月前のライヴである本作は、 2015 年フジロック同様、レミーの衰えた姿はショッキングでもあるが、逆にそれを支えるギターのフィル・キャンベルとドラムのミッキー・ディーの奮闘ぶりに胸が熱くなる。
だがしかし、レミーの超人ぶりも健在で、ライヴ途中からのスピードと疾走は 69 歳(当時)とは思えぬ暴走具合で、モーターヘッドという唯一無二なバンドの底力がスクリーンを通して伝わって来る。映画『極悪レミー』では 2048 年までモーターヘッドを続ける予定だと話していたレミー。だが誰にでも訪れる老いを自身でも感じていたはずだ。そのような状態になってもツアーに次ぐツアーで凄まじい数のライヴをこなしていたのは、それを求める世界中のファンや、バンドを支えるロード・クルーたちの生活を考える、レミーの使命感と責任感によるものであろうと想像できる。
あらゆるジャンルやカテゴリーにも属さず、常に孤高の存在でありながらも、世界に多大な影響力をおよぼし、アドレナリンを沸騰させるパワーと独特なユーモア、そしてどこか孤独な空気も感じさせる哀愁が同居するバンド。このライヴは、本当にこのバンドが終了してしまったという喪失感と、人類がこの先何億年存在しても同じようなバンドは出現しないという事実を我々に突き付けると同時に、バンドとしていつでもどこでも同じクオリティを届けようとするモーターヘッドとレミーの誠実さが伝わってくる作品だ。この世に音楽を奏でる人やバンドは無くならないが、モーターヘッドと同じものをもたらしてくるバンドは二度と現れない。それがはっきりとわかる貴重な上映となるはずだ。
モーターヘッド/クリーン・ユア・クロック
12 月 15 日(土)より、シネマート新宿にて〈2 週間限定〉レイトショー
配給:ビーズインターナショナル
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