今年で31回を迎える東京国際映画祭、TIFF2018。いよいよ10月25日(木)から11月3日(土・祝)に開催されます。昨年のコンペティション作品の中から2作品について、その後の足跡を見届け、この映画祭が映画人たちの才能を育くみ羽ばたかせる場であることを実感。昨年の映画祭会期中にインタビューした、彼らの肉声をご紹介します。今回は第1弾『ナポリ、輝きの陰に』です。

髙野てるみ(たかのてるみ)
映画プロデューサー、エディトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。
著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』『マリリン・モンロー魅せる女の言葉』(共にPHP文庫)ほか多数。
Facebookページ:http://www.facebook.com/terumi.takano.7

画像: 撮影:©️安井進

撮影:©️安井進

映画人を応援するクラウド・ファンディングを導入しているTIFF

9月25日に行われた記者会見では、今年のコンペティション部門に選ばれた作品をはじめとする上映作品も発表されました。

ベルリン、カンヌ、ヴェネチアなど世界的な国際映画祭に並んでのTIFFは、最高賞の「東京グランプリ」を競う、「コンペティション」部門をはじめ、「アジアの未来」「日本映画スプラッシュ」などの部門で、世界中から作品を公募、選ばれた優秀作がプレミア上映され、各賞を競うこととなります。

昨年は、「コンペティション」部門ノミネート作品が、例年以上に優れた作品揃いでした。今年の作品への期待も膨らむばかりです。

ノミネートされ映画祭上映を果たし、みごと受賞。さらにはその後の映画祭ノミネートでも受賞を重ねた作品。また、日本国内で劇場公開となった作品があることは本当に喜ばしいばかり。そこまでの進化・成長を勢いづけるのが、映画祭の力だということも明らかです。

映画祭をデビューの場とし、プロデューサーや監督や俳優たちのバックアップをしていくのが映画祭の役割ですが、TIFFでは昨年から、映画ファンや映画祭ファンのためにも、才能ある世界中の映画人たちを間近に感じながらバックアップ出来る、「クラウド・ファンディング」を導入。映画祭をより良く力強いものに、ひいては未来の映画人を育成する想いを分かち合うことも出来る夢のあるファンドです。
金額により特典も様々ですが、いずれもレッド・カーペットのエリアに入場出来、ゲストのスターたちの華やぎを感じることが出来ます。
また、最高支援額のゴールド・コースになると、セレモニーや、パーティに出席も可能など、ステイタスも味わえるのだそう。

現在、目標達成額の150万円をすでに大幅に上回っており、支援者も、さらに日々増え続けています。参加申し込みの期間も、あとわずかとなりましたが、10月12日午後6時まで、この応募は続きます。

昨年のTIFFで注目した『ナポリ、輝きの陰で』と『負け犬の美学』

さて、どのような才能が、この映画祭から毎年羽ばたいているのか、昨年のコンペティション部門に選ばれ輝いた、筆者注目の二つの優れた作品をご紹介します。

一つは審査員特別賞を獲得した、『ナポリ、輝きの陰に』。もう一つは日本での配給が叶い10月12日に劇場公開される、『負け犬の美学』(映画祭上映時は、『スパーリング・パートナー』)です。どちらも初監督作品で、『ナポリ、輝きの陰に』の出演者は、まったくの素人を起用、一方『負け犬の美学』は、マチュー・カソヴィッツというフランス映画界のスター俳優兼監督を、初挑戦のボクサー役で起用。いわば、真逆の演出の2作品が、TIFFでコンペ作品となって火花を散らしました。
筆者は、それら作品の傍にいて、見届けたい気持ちが溢れ、注目していました。いずれもなんらかの受賞を果たす作品であることを確信して、会期中インタビューしました。

第1弾として、まずは、『ナポリ、輝きの陰に』をご紹介します。
本作はナポリの片隅で街行く人々にぬいぐるみの人形を売る夜店を営む父親と、その娘の日々を定点観測的に追っていく作品。父親は娘をどうしても歌手にしたいと熱望し奔走。一方で、歌うことは好きだけれど、また父の想いを素直に受け止めたい気持ちもあるものの、思春期を迎えた少女独特の不惑の感情が芽生え、次第に二人の間には不協和音が……。その二人のすれ違いを激しくも瑞々しく描いています。

二人の監督で作り上げる素直でピュアな熱病に、観る者は感染

父親の汗や息遣いを極端なクローズアップで見せる、斬新というより、挑戦的な演出。その違和感とリアリズムがギリギリまで迫る演出に惹きつけられてしまうのです。これも映画の力なのでしょうか。
こうも惹きつけられる魅力は何なのか? 時間が経った今思うと、それはやはり、「映画愛」に他ならない。どうしても作りたかったから作った、という熱病! そこに、計算や受け狙いなどないピュアな熱意がたぎっている。熱病がこちらにも感染したのでしょう。
出演した男優、女優たちも、有名になりたくて出演しました、というような野心などは何もない、ピュアで裸のまんまの演技。だから、魅了されるのです。未だ日本で劇場公開されないのは残念というしかないです。

二人の監督、シルヴィア・ルーツィ、ルカ・ベッリーノと、実の父娘であるロザリオ・カロッチャ、シャロン・カロッチャという出演者たちからなる、低予算ながらも新鮮でインパクトのあるイタリア映画。彼らの行動は、インタビューの時も、記者会見でも、授賞式でも、いつもイタリア的‟ファミリー”の団体行動でした。

画像: 左から、ロザリオ・カロッチャ、シャロン・カロッチャ 撮影:©️安井進

左から、ロザリオ・カロッチャ、シャロン・カロッチャ
撮影:©️安井進

──この作品は、素晴らしい。必ず受賞するだろうと予想しています。

「ナポリ的に言うと、迷信や妄信は避けるべき、と。前もってそういうことは言わないほうが良いとされています。だから、皆で考えないようにしています(笑)」(ルカ監督)

「受賞なんて、とても難しいと思いますよ。でも、そう信じて下さる方がいてくれるなんて、ありがとうございます」(シルヴィア監督)

──監督お二人は、今までドキュメンタリー作品を撮っていらしたということですが、今回初めてフィクションを撮ろうと思ったのは、どうしてなんでしょうか?

「私たちの作品は、いつも階級闘争についてのドキュメンタリーなど、社会的・政治的なメッセージを持ったものばかりです。どれも厳しく反抗的で、エンターテインメントではありません。だからと言って、今回アーティスティックなものに取り組もうというわけでもない。初めて告発を目的とした作品ではないものを作ってみようと。世界中のどこの国でも見られる普遍的な物語で、ナイーブな心を持った人々、父と娘の物語を描いてみたかった。
それでも、父親の、娘を通してのある意味、世界や自分の人生に対しての『復讐』の物語でもありますね。世間の片隅に置かれていることへの反撃なんです。その方法は、スポーツやピアノで世間を見返すのではなく、『娘の歌』で、です。告発の映画でなくても、父と娘、二人の‟反逆者”を描いているのだから、やはり政治的な意味合いはあるかもしれないです」(シルヴィア監督)

「深く生々しく現実を描くのに、ドキュメンタリーだけではなく、フィクションである必要もあると思っての取り組みです。物語に力を与えるためには、生の人間を役柄に作りこんでいくことにもトライした。脚本をおおまかに書き、その中に実際の人間の生活の要素を盛り込んでいきながら、完璧なフィクションにしていこうと。父親役のロザリオの実体験も聞いたりして、肉づけをしていきました」(ルカ監督)

画像: 『ナポリ、輝きの陰で』

『ナポリ、輝きの陰で』

納得のキャステイングは、ナポリの夜店で

──父娘を演じる俳優を、素人から選んだのはどうしてですか?

「今回は、娘を歌手にして世間から評価されたい、という父親を演じるのにふさわしい俳優でなくてはならない。どうしても納得いかず、ずいぶんと探し回ったあげく、夜店で人形を売る父娘に出会った! もう、彼らしかいない、と直感しました」(ルカ監督)

──どんな映画作品でも、必ずお二人で作るのでしょうか?

「はい、必須です。二人で一人前というわけではありませんが(笑)。補い合っている、というより、それぞれの違った面を活かしています。ある部分は片方が気づき、別の部分はもう片方が目を配るという感じで」(ルカ監督)

──その後の父と娘が、どうなったか知りたいと思わせる演出でしたので、続編を観てみたいですが。

「残念ながら、それはあり得ないと思っています。ロザリオとシャロンもこの作品を機にスターになりたいとは今のところ思っていないみたいですね。我々が今後作る作品に二人はまた、登場しているかもしれませんが。彼らには、この映画に出たことで、自分たちの人生を見つめ直すきっかけになったら嬉しいと思っているんです」(シルヴィア監督)

と、語る監督たちに、割って入って来たのが、父親役のロザリオ・カロッチャ。脚本作りにも加わっただけあって、黙ってはいられないという面持で、

「ちょっと言わせてもらうけどね、受賞するとかしないとかはどっちだっていいんだよ。もう、この映画祭に選んでもらっただけでも素晴らしくて、幸せだよ。満足しているんだ」

と、初めての映画出演と、TIFFに主演男優として来日出来たことの感激を「全身」で熱弁。迫力でした。

『ナポリ、輝きの陰に』

TIFF受賞後も、オーストリアの映画祭で審査員特別賞受賞を果たす

シャロンさんにもうかがってみました。

──受賞したくないですか? また、これを機に実際の歌手をめざすという気はないですか?

「……」

はっきりとした答えはないものの、思春期独特の恥じらった微笑とそのまなざしには、(賞も獲れたら嬉しいし、歌手になれたら嬉しい)と言いたげな、小さな野心が感じられてなりませんでした。

かくして、予想に応えるかのように受賞獲得。
筆者も、我がことのように嬉しかったものです。
TIFFの後、今年に入って2018年オーストリアの『クロッシング・ヨーロッパ・フィルム・フェスティヴァル』で審査員特別賞に輝いています。

今年のTIFFを前にして、その後の彼らに会ってみたい気持ちでいっぱいです。近いうちに、新作を掲げて、きっとTIFFに戻って来てくれそうな予感もします。

『ナポリ、輝きの陰に』

『ナポリ、輝きの陰に』
監督・脚本・プロデューサー・編集 / シルヴィア・ルーツィ、ルカ・ベッリーノ
脚本 / ロザリオ・カロッチャ
出演/シャロン・カロッチャ、ロザリオ・カロッチャ、エロス・カロッチァ、ティナ・アマリュテイほか
2017年/イタリア/93 分/カラー/Super35 4K 
原題/『Il Cratere (Crater)』
Produced by Tfilm & Rai Cinema with the support of Mibact Development Fund & Pulse Britdoc Genesis Fund

第2弾『負け犬の美学』(映画祭上映時タイトル『スパーリング・パートナー』)のインタビューは次回でご紹介します。

昨年度映画祭をふりかえり注目のコンペティション作品インタビュー特集第2弾『負け犬の美学』はこちらから!

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