【ストーリー】
驚異の歌声を持つロックスター・シン(阿部サダヲ)。その存在自体がロックであり、カリスマ的人気を誇っているが、実は彼には秘密があった。彼の歌声は「声帯ドーピング」というオキテ破りの方法によって作られたものだったのだ。 長年にわたる声帯ドーピングの副作用で、限界が近づく喉に焦りと恐怖を抱える彼が出会ったのは、異様に声の小さいストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)だった。2つの歌声が出会ったとき、ぶっちぎりのミラクルが起きる!?
オリジナル脚本を自分の感覚でやらせて頂ける作品は演じていても面白い
ーー今作のお話を頂いたときの心境からお聞かせ頂けますか。
「三木監督の作品は好きで色々と拝見していましたし、ずっと出てみたかったので声をかけて頂けて嬉しかったです。ただ、カリスマロックシンガーの役だとは思ってなかったので驚きました(笑)。というのも、内容を一切聞かずに三木作品ならとお受けしたんです。僕が所属している「大人計画」主宰の松尾スズキさんが出演している三木作品も面白かったですし、シティボーイズの舞台の脚本や演出を手掛けていらっしゃったりもして、三木さんならではのカラーやリズムがあるのでそこに自分も入ってみたいという願望が凄くありました」
ーー念願の三木組の現場はいかがでしたか?
「三木組は良い意味で自由に作っているイメージを持っていたので、事前にリハーサルをしっかりやると知って驚きました。撮影当日に衣装に着替えてリハーサルをして本番をやる事が多いんですけど、三木組は撮影が始まる前に会議室のような場所にキャストやスタッフさんが集まって、ほぼ全シーンのリハーサルをするんです。だからこそ、現場でスムーズに撮影が進むということがわかったし、三木さん独特の間はこうやって完成していくんだということも実感しました」
ーーあの独特な間は現場のノリで生まれているのかと思っていましたが、リハーサルでしっかり完成されていたのですね。
「そうなんです。それに会議室のような場所で私服のままリハーサルをするので、“制圧してやるよ!”みたいな台詞を言うのが凄く恥ずかしくて(笑)。これも三木組ならではですよね(笑)」
ーー三木作品にはこだわりの小道具やセットなどもしっかりと世界観が作り込まれていて、じっくり細部まで何度も観直したくなります。
「それすごくわかります。三木さんの世界観を作るという範囲の中でスタッフさんも自由に遊びながら作っているんだなと現場で感じました。あと、岩松了さん演じる社長の会社・無料レコードのオーディションシーンの場所にも驚きました。普通はオーディションといったらスタジオのような所を想像するじゃないですか。それが畳の部屋って(笑)。“なにこれ?”と思いました(笑)。あのシーンは僕もふうかを演じた吉岡里帆さんもほぼ素に近い感じで笑っています。リハーサルをして台本をちゃんと把握してから演じている僕らと違って、オーディションを受けに来た設定のおばあちゃん二人組に関しては全く分かっていない状態だったんです。そのおばあちゃん達が劇中で聖飢魔Ⅱを歌ってるんですけど、監督に“中指を立ててください”と言われて“なんでですか?”と返していて(笑)。その様子を見てたらなんだか力が抜けてきて楽しくなっちゃったのを覚えています(笑)」
ーー話は変わりますが、阿部さんの好きな音楽映画を教えて頂けますか。
「THE WHOのロック・オペラミュージカル映画『トミー』というエルトン・ジョンやエリック・クラプトンといったミュージシャンが出てる映画があるんですけど、劇中でエルトン・ジョンが歌うのを観て“こういう音楽映画って面白いな”と思ったのを覚えています。内容は盲目で聾唖の三重苦になってしまった少年が、ピンボールだけは凄く上手くて、成長していく中で“ピンボールの魔術師”と呼ばれるようになるみたいな映画で(笑)。高校生の時に観たんですけど衝撃でした。他にもセックス・ピストルズやビートルズ、日本だとザ・ドリフターズやザ・タイガースが音楽映画を作っていますよね。僕もこういうのをやってみたいなと思ったのは石井聰亙監督(現在は石井岳龍)の『爆裂都市 BURST CITY』。そのあと大人計画に所属したんですけど、宮藤官九郎さんも『爆裂都市 BURST CITY』や『トミー』みたいなのやりたいねなんて話していて。それでできあがったのがグループ魂なんです。いまはバンドっぽい感じになってますけど、最初はコントミュージカルみたいなのばっかりやってたんです(笑)。ライブではコントだけじゃなくて物語もいちおうあって、最後はただみんなで大合唱して終わるみたいな(笑)」
ーーグループ魂にはそういうルーツがあったんですね。ちなみに阿部さんがカッコいいと思うロックシンガーは誰ですか?
「ロックシンガーというよりも、凄い格好をしていても見ていて恥ずかしくなく、カッコいいと思える日本人はジュリー(沢田研二)かなと。『TOKIO』とかもの凄い派手な衣装で歌ってましたよね。それに化粧をしていてもカッコいいしグラムロックみたいな格好も似合うし。実はグループ魂の曲をジュリーのイメージで歌っているときもあるんです。歌うイメージで迷ったときはだいたいジュリー(笑)。他にも語りのときは宇崎竜童さん、ちょっと舌を巻いて歌うときは安岡力也さんをイメージしていたりします(笑)」
ーー人生に影響を与えた洋画も教えて頂けますか。
「『フットルース』が一番思い出深い映画です。この映画を観てカクテルパーティーやってみたいなと思ったり(笑)。あと、当時はヘッドフォンをして街を歩く人もいなかったと思いますけど、この映画が公開されてからはカセットのウォークマンを持ってヘッドフォンして歩く若者が増えたんじゃないかなと記憶しています。この頃から『トップガン』や『フラッシュダンス』とか音楽含めて良い映画が沢山公開されて、サントラも流行りましたよね」
ーー役者になろうと思うきっかけになるような映画はありましたか?
「何かを観てというよりも、役者になろうと思ってから“こういうのがオシャレ”と言われていたジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のようなアート映画を観るようになりました。正直、当時は退屈だなと思いながら観てましたけどね(笑)。大人計画の人達は自分の知らないオシャレな映画を観ている人が多くて、デヴィッド・リンチを観てるのが当たり前という環境だったんです。それで、ある日誰かが“ここはツインピークスでいこう”と言った瞬間に“どういうこと?”と。ツインピークスを演劇用語だと思っていたんです(笑)。それ以来、色んな映画を観て勉強するようになりました。大人計画に入る前は海外の役者さんの名前もあまり知らなかったので色々覚えたりして。さすがにニコラス・ケイジぐらいは知ってましたけど(笑)」
ーーそんな阿部さんの最近オススメの海外の役者さんがいたら教えて頂けますか。
「最近…誰だろう……あ! プールに男の子と青年が飛び込んでるシーンがあって……えっと……『君の名前で僕を呼んで』かな…」
ーーティモシー・シャラメですか?
「そうそう! 実はまだ『君の名前で僕を呼んで』は観れてなくて予告編で観ました(笑)。シャラメくんね! まだ観てないけど彼はオススメです(笑)。僕も絶対に観ます!」
(インタビュアー・文/奥村百恵)
『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
10月12日(金)全国ロードショー
◆監督・脚本:三木 聡(『俺俺』、「時効警察」シリーズ)
◆出演:阿部サダヲ、吉岡里帆
千葉雄大、麻生久美子、小峠英二(バイきんぐ)
ふせえり、田中哲司
松尾スズキ、他
◆主題歌:SIN+EX MACHiNA『人類滅亡の歓び』
(作詞:いしわたり淳治、作曲:HYDE)(Ki/oon Music)
ふうか『体の芯からまだ燃えているんだ』
(作詞・作曲:あいみょん)(Ki/oon Music)
◆配給:アスミック・エース
©2018「音量を上げろタコ!」製作委員会