ヒロインの寧子をドラマ「ブラックペアン」での好演も記憶に新しい趣里が演じ、寧子と同棲中の恋人・津奈木を菅田将暉が演じている。自分にも他人にも嘘がつけず、真っ直ぐすぎるゆえにエキセントリックな言動に走ってしまう寧子を見事に体現してみせた趣里に、今作の撮影秘話や役への思い、更にオススメの映画などを聞いた。
【ストーリー】
過眠症で引きこもり気味、現在無職の寧子(趣里)は、ゴシップ雑誌の編集者である恋人・津奈木(菅田将暉)の部屋で同棲生活を送っている。自分でうまく感情をコントロールできない自分に嫌気がさしていた寧子は、どうすることもできずに津奈木に当たり散らしていた。
ある日突然、寧子の目の前に津奈木の元恋人・安堂(仲 里依紗)が現れる。津奈木とヨリを戻したい安堂は、寧子を自立させて津奈木の部屋から追い出すため、無理矢理カフェバーのアルバイトを紹介。寧子は半ば強制的にカフェバーのバイトを始めることになるが…。
人に寄り添った作品になっていて欲しい
ーー寧子という役は少しエキセントリックな女の子ですが、どのように捉えて演じられたのでしょうか?
「最初に脚本を読ませて頂いてから、本谷有希子さんの原作を読ませて頂いたのですが、作品から生きるエネルギーをもの凄く感じました。寧子のことを他人事には思えなかったですし、放っておけない気持ちになり、私が演じてみたいと強く思いました」
ーー寧子に共感できるポイントがあったからこそ他人事ではないと感じたのでしょうか?
「もしも私が寧子のような状況に陥ってしまったら同じようになるだろうなと思いました。自分に置き換えて考えると理解できる部分は沢山ありました。ただ、共感できるだけではなく、どうして彼女がああいう態度や行動をとってしまうのかという事を物語の中で明確にしないと、ただの嫌な女の子になってしまうと思ったんです。 “自分のこういうところがダメなんだ”とちゃんとわかってる女の子なので、そういうところを大事に演じるようにしていました」
ーー恋人である津奈木と寧子のやり取りはもちろんですが、仲 里依紗さん演じる津奈木の元カノ安堂さんと寧子の関係性も面白かったです。一癖ある安堂さんを演じた仲さんとは撮影中に打ち合わせのようなものをされましたか?
「クランクインの前に一度だけ菅田さんと仲さんと台本の読み合わせをしただけで、そのあと共演者の方の誰とも打ち合わせはしてないんです。ただただお互いのお芝居に反応し合うことを大事にしていた現場でした」
ーー田中哲司さん演じる村田が営むカフェバーで働き始めた寧子が村田や村田の妻、アルバイト仲間に向かってウォシュレットの話をするシーンは優しそうに見えていた人への絶望感を感じずにはいられませんでした。趣里さんも“この人とは絶対にわかり合えない、理解してもらえない”と感じる瞬間はありますか?
「私は寧子と違ってあまり共感を得られないような疑問や怖いと思ってることを周りに言わないタイプなんです(笑)。なのでそういう話をされた時の自分の反応を思い出しながらお芝居に反映させていきました。私自身も“へ〜そうなんだ〜”と返すタイプですし、あまり共感できない話をされた時の微妙なさじ加減が難しいというか(笑)。そういうのをふまえて、寧子の感情をどの程度まで見せるかというのを考えながらお芝居した部分もありました」
ーー寧子だけじゃなく、登場人物全員がみんなどこか変なところがあって、でもそこが凄くリアルで改めて“人間の面白さ”を感じる作品でもありました。
「寧子だけじゃなく、登場人物全てがやっぱりどこか他人事ではないんですよね。人との関わりにおいて普遍的なことも描かれていると思います。寧子のバイト先や津奈木の職場も出てくるので、社会への関わり方も描かれていますよね。そんな中で寧子は精神的な辛さを抱えながら人に影響されたり、辛い気持ちや楽しい気持ちにもなります。人に寄り添った作品になっていて欲しいですし、観たあとに色々な感想や感情が出てきて欲しいと思います」
ーー今作は趣里さんにとってどういう作品になりましたか?
「何故自分はお芝居を続けているのかを考えさせられましたし、映画の持つエネルギーって素晴らしいなと改めて感じた作品でした。私は以前バレエをやっていて足の怪我が原因でやめることになってしまいました。この時期に舞台を観に行った時、嫌なことや辛いことを忘れられる瞬間があって。お芝居に救われたと言ってもいいかもしれません。これがきっかけで大学に通いながらお芝居の勉強をはじめました。寧子を演じながら“こんな風に人が成長する姿をお客さんに伝えたくてお芝居をやってるんだな”と改めて感じられたので凄く良い経験をさせて頂けたなと思います」
ーー近年はドラマ「トットちゃん!」や「ブラックペアン」、映画『過ちスクランブル』や『勝手にふるえてろ』、舞台「黒塚家の娘」や「ペール・ギュント」、「マクガワン・トリロジー」などに出演されましたが、色々な出会いの中で特に印象に残った言葉やエピソードがあれば教えて頂けますか。
「演出家の小川絵梨子さんと「マクガワン・トリロジー」で初めてご一緒させて頂いたんですけど、私が台本にメモを書き込んでいるのを見て“そこまで書き込んでるし、もうこれ以上考えなくていいから台本置いてきて。演技してるときに台本のことは考えないでしょ”とおっしゃったんです。そんな風に言ってくださったのは絵梨子さんだけですし、そのあと“私を信じてくれてありがとう。どんどん良くなってるよ”とも言ってくださって凄く嬉しかったんです。絵梨子さんを喜ばせたい一心で頑張れましたし、本当に素敵な方と出会えて良かったです」
ーーここからは趣里さんがご覧になった映画などをお伺いしたいのですが、最近刺激を受けた作品があれば教えていただけますか。
「最近は新作映画を観に行く時間がなくて、Netflixでドラマばかり観ています。「ストレンジャー・シングス」や「リバーデイル」などを観ているんですけど、一話見ると止まらなくなるんです(笑)。カメラワークも面白いですし、子役達がメインキャストでも大人っぽい内容になっていて、こういうドラマを作れるのって凄いなと単純に思いますし、観ていて勉強になります」
ーーSCREEN ONLINE読者のためにオススメの1本をご紹介頂けますか。
「10代の頃に『ミスティック・リバー』を観たんですけど、凄く面白くて衝撃を受けたのを覚えています。この作品がきっかけでショーン・ペンのファンになりましたし、ミステリーやシリアスなものを観るようになりました。以前『ミスティック・リバー』について語っているショーン・ペンのインタビューを読んだんですけど、最初はショーンが演じた役とティム・ロビンスの役が逆だったらしいんです。でも、ティムが演じる予定だったジミーという役をショーンがやらせて欲しいと言って配役が入れ替わったらしくて、そういう裏話を知ると彼の役への思い入れがより伝わってくるんですよね。こういう話をしているとまた観たくなっちゃいます(笑)」
ーー俳優さんのインタビューも読まれたりするんですね。
「インタビュー記事を読むと、凄い名言を残していたりするんですよ。だから読むのが好きで(笑)。女優のダイアン・キートンさんも好きで、彼女のインタビューを読むと勇気が出ます」
ーーでは最後に今後女優として挑戦してみたいことはありますか?
「ガッチガチに悪い役をやってみたいです。最初は良い人に見えてたのに徐々に“あれ? この人ヤバいじゃん!”みたいな(笑)」
(インタビュアー・文/奥村百恵)
『生きてるだけで、愛。』
2018年11月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本:関根光才
原作:本谷有希子
出演:趣里、菅田将暉、
仲 里依紗、田中哲司、西田尚美、松重豊
配給:クロックワークス
©2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会