スタン・リー
1922年12月28日、ニューヨーク生まれ。俳優志望だったが、叔父の経営していた出版社に就職。「ファンタスティック・フォー」を皮切りに数々のスーパーヒーロー・コミックを手がけ、マーベル・コミックの伝説の編集長となる。彼が生みだしたヒーローは、ハルク、マイティ・ソー、スパイダーマン、ドクター・ストレンジ、ブラックパンサー、X-MENなど錚々たる顔ぶれ。80年代からはそれらマーベル作品のTVアニメ化にも携わる。2018年11月12日死去。享年95歳。
スーパーヒーローものの中に等身大の人間ドラマを描きアメコミ界に革命を起こした
彼との出会いがなかったら、きっと自分の人生は変わっていたでしょう。僕にとってスタン・リーさんはまさにそういう人でした。スパイダーマンやアベンジャーズ、X-MEN等マーベル・コミックのヒーローたちを世に送り出した人であり、アメコミをポップカルチャーの主役に導いた偉大なる人物です。そして僕の心を救ってくれた恩人なのです。
スタン・リーさんがリスペクトされるのは、もちろん多くのヒーローやヴィランたちを生み出したからなのですが、その物語づくりにおいて、アメコミ界に革命を起こしたからだと言われています。それはスーパーヒーロー物の中に、等身大の人間ドラマを取り入れたこと。ヒーローたちを“憧れの存在”から“欠点も葛藤もある共感できる人物”として描くことで、荒唐無稽な超人活劇の世界の中でも映画や小説、演劇、音楽と同じくらいメッセージ性の強い人間ドラマを描ける、ということを証明したからです。コミックがまだ低俗なものと見られていた時代に、その可能性を広げ、社会的地位を向上させたわけですね。
金欠の若僧ヒーローのスパイダーマン。ヒーローというより怪物なハルク。価値観の違う現代社会でとまどう第二次世界大戦の英雄キャプテン・アメリカの物語。しくじり先生のようなドクター・ストレンジ。興味深いのはスタン・リーさんがコミックで革命を起こした年に、映画「ウェスト・サイド物語」が公開されたということ。いままでの“楽しいミュージカル”とは一線を画し、ミュージカルという手法を使って重みのあるドラマを描くことに成功した画期的な作品でした。浮世離れした夢物語の代表格だったアメコミ・ヒーローとミュージカルというジャンルにおいて、共感性の高い、リアルな人間ドラマを描いた作品が相次いで登場した記念すべき年になったのです。
スタン・リーさんはシェークスピアが好きだったそうです。「シェークスピア劇の“大げさ”なところがいい」と。“大げさ”な表現・筋立てだからこそ、逆に優れた寓話として物事の本質を描けるということを言いたかったのかもしれません。
確かにマーベル・コミックの世界は宇宙や異次元、魔界、そして大都会を舞台に色とりどりのヒーローやヴィランたちが暴れまわる“大げさ”な世界であり、ヒーローやヴィランとしての生き方に“大げさ”に悩んでいます。スーパーヒーローたちの超能力というのは、人間が持っている能力を誇張させたものですが、スタン・リーさんは個人が抱える悩みや社会の問題をも誇張させてヒーロー物の中に取り込んだのです。
彼はファンに向けてExcelsior!(向上せよ!)と呼びかけ、様々な想いを語ってくれましたが、その中でコミックを通じて一番伝えたいメッセージは「この世界はいろいろな人間を受け入れるぐらい広く、そして寛容であるべきなんだ」と言っていました。この話を聞いたとき、だからマーベルの世界にはいろいろな価値観(それに伴う能力)を持つヒーローやヴィランがいて、みな共存しているんだなと思いました。いまでいうダイバーシティを先取りしていたのでしょう。
▶︎▶︎マーベルのキャラクターは今もみんなの心の親友になっていると信じている▶︎▶︎