そして何故、人気絶頂の中で表舞台から姿を消したのか?
生誕100周年を迎える今、その生前は本人の意思によって語ることが一切許されなかった作家の謎に満ちた半生と名作誕生前夜の真実がついに明かされる。
サリンジャーを演じるのは、『マッドマックス 怒りのデスロード』や『X-MEN』シリーズといった大作から『シングルマン』『ロスト・エモーション』といったアート性の高い作品まで幅広く出演しているニコラス・ホルト。サリンジャーの才能を見出す編集者ウィット・バーネット役をケヴィン・スペイシー、作家のキャリアを支えたエージェント役を『キャロル』やドラマ「アメリカン・ホラー・ストーリー」シリーズのサラ・ポールソンが演じている。
メガホンを取ったのは『大統領の執事の涙』『ハンガー・ゲーム FINAL』二部作の脚本などで知られるダニー・ストロング。評伝「サリンジャー 生涯91年の真実」の映画化権を自ら取得し、『ラ・ラ・ランド』他アカデミー賞作品賞の製作陣とともに心揺さぶる実話ドラマを作り上げた。
伝説を生んだ作家サリンジャーの謎に満ちた半生と、名作誕生にまつわる真実を描いた今作。「ライ麦畑でつかまえて」を読んだことはあるが、作者であるサリンジャーのことはほとんど知らないという人も多いのではないだろうか。実は筆者も今作を観るまではそうだった。
とは言え今作のストーリーを書いてしまうと映画を観る楽しみが半減してしまうだろうし、そもそも公式ホームページに丁寧な長文のストーリーが載っているので気になる方はそちらをご覧頂きたい。
まず始めにストーリーとは全く関係ないが、本来はブルーアイズが美しいニコラス・ホルトが茶色いカラコンを入れてサリンジャーに寄せているのかな?と思うところにグッときてしまう。だが憂いのある優しげな瞳でミステリアスなサリンジャーを彼は体現できているのだろうか?…答えはイエスである。というか今作の中のサリンジャーはミステリアスではなくむしろ人間らしさ満載なのだ。だからこそニコラスのような幅広い作品で様々な役を演じることのできる俳優が起用されたのだろう。
自分の小説がなかなか出版してもらえず苦しみ、ようやく掲載が決まったかと思えば延期、そののち陸軍に入隊し、終戦して帰国後も彼の苦難は続く。そのひとつひとつが丁寧に描かれており、“あの名作が誕生するまでにこんなことがあったのか!”と驚きつつも観客はしっかりと彼の物語に寄り添うことができるのだ。
作品をゼロから生み出す人は何かを犠牲にすることも多いと聞くが、逆に堪え難い状況の中で自身を支えるのもまた創作意欲なのではないだろうか。サリンジャーは入隊後も時間を見つけては執筆を続けていたという。だからこそ大勢の心を動かすような小説を書くことができたのかもしれない。
今作では作家としてだけではなく、一人の男性としてのサリンジャーも描いており、最初に恋に落ちたウーナ(後に彼女はチャーリー・チャップリンと結婚)やドイツで結婚した女性シルヴィア、そして離婚を経たのちに再婚した女性クレアと、クレアとの間にもうけた2人の子供も登場する。
日本を含め全世界で大ヒットしている『ボヘミアン・ラプソディ』でメアリー役を演じたルーシー・ボイントンがクレアを魅力的に演じているのも今作の見どころと言える。
何故サリンジャーは人気絶頂の中で姿を消したのか?
今作で彼の真実の物語を知ったあと、「ライ麦畑でつかまえて」を改めて読み直してみるのもいいかもしれない。
(文/奥村百恵)
『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』
監督:ダニー・ストロング
出演:ニコラス・ホルト、ケビン・スペイシー
ゾーイ・ドゥイッチ、サラ・ポールソン 他
2019年1月18日(金)TOHOシネマズ シャンテ 他 全国ロードショー!
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム、/カルチュア・パブリッシャーズ
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