同一人物とは思えない彼女の演技のふり幅
ストリーミング配信作品から新たなスターが誕生するのは今やめずらしいことではなくなった。というより、最近のトレンドの一つになりつつある。クレア・フォイもその一人。Netflix作品『ザ・クラウン』で若きエリザベス女王に扮した彼女の演技は大きな反響を呼び、ゴールデングローブ賞とエミー賞をそれぞれ受賞するという栄誉に輝いた。
それからの映画界における彼女の活躍は目覚ましいばかりだ。『ブレス しあわせの呼吸』では全身マヒの夫を支える妻の役として存在感を見せ、この新春には主演を務めた『蜘蛛の巣を払う女』(現在公開中)が公開。
続けて『ファースト・マン』にはライアン・ゴスリングの妻役として出演し、惜しくも逃してしまったものの、アカデミー賞有力の一人と目されていた。これらの作品を見れば、同一人物とは思えない彼女の演技のふり幅の大きさに驚かされるだろう。
『蜘蛛の巣を払う女』は世界的ミステリー小説を映画化した『ドラゴン・タトゥーの女』シリーズ最新作。クレア演じる天才ハッカー、リスベットに舞い込んだ核攻撃プログラムに関する新たな仕事と、知られざる彼女の残酷な過去が描かれる。エリザベス女王のイメージを振り払うような新たな役に挑んだクレア。そこには彼女のどんな決意があったのだろうか?
“今度は何か違う役をやらなきゃ”という仕事のやり方はしないわ
ーー『蜘蛛の巣を払う女』の原作はベストセラーになっていますが、原作はいつごろ読まれたのでしょうか?
原作の「ミレニアム」シリーズを初めて読んだのは20代のときだったけれど、こんな作品はそれまで一度も読んだことがなかったわ。リスベットのようなキャラクターも初めてだった。彼女は他人から好かれようとしないし、格別いい人間であろうとしない。常に正しいことをしようなんて思っていないから。
はたから見ると、小柄で弱々しくて痩せていて簡単に騙されそうな被害者という感じのリスベットが、実はその真逆で、タフで知的だというところがすごく気に入っているの。そんな風に、本当の自分と世間から見た自分とが違う、という点に共感できる人はたくさんいると思うわ。
ーー本作ではどんなリスベットを見ることができるのでしょうか?
リスベットはどんな形であれ人間関係を築けなかった。過去の傷のせいで人を信用できなかったの。だから前作では、少し奇妙で、必ずしも健全でなかったけど、成長する姿が見られた。本作の彼女は、ある意味で人格ができあがっている。もう被後見人ではなく独立してる。でも、お金はあるけどボロボロよ。彼女は長い間戦士であり、倒すべき相手がいた。でも本作の彼女には生きる目的がないの。だからそれを探そうとして何度も判断を誤る。でも見た目よりずっと強いのよ。
ーー多くのファンを持つ小説の主人公を演じるのはプレッシャーがありませんでしたか?
フェデ(アルバレス監督)に会うまでは、「この作品には絶対関わらないほうがいい。自分の首を絞めるようなものだわ」と思っていたの。小説からのファンがついている役を演じるのはすごく難しい。本は人それぞれの視点から読むものだから、すべての人の心に訴えることはできないわ。だからある意味、正しく演じられないということになるの。必ず「自分が思っていた彼女はそんなんじゃない」って言う人が出てくるから。
でもフェデに会ったら、こういう映画にするという、すごく明確なアイデアを持っていたの。それで「ああ、それなら私にもできる。あなたが私に求めているのがそういうことならば、私にもできるわ」って答えたの。でも私にはカルチャーの象徴としてのリスベットは演じられない。私はそんなカルチャー・アイコンにはなれないもの!
ーー『ザ・クラウン』で演じるエリザベス女王とはまるで違う役柄になりましたね。
私は「今度は何か違う役をやらなきゃ」とは考えないの。そういう仕事のやり方はしない。エリザベス女王のような役はもうできないとはわかっていたけどね。でも、そもそも女王は独特な人だから、似た役などないと思う。もちろんまるで別の役を演じることで、少し不安になることもあったわ。「役者としての能力ぎりぎりのところまで、こんな風に自分を追い込む代わりに、あきらめれば楽に生きられる」って思ったり。それでも、チャレンジする機会をもらえるのは嬉しいことよ
ーー本作を見て家族の反応はいかがでしたか?
ここ数年の私の出演作を見た人からすると、リスベットは私とは正反対だと思うでしょうね。でも家族は違うと思うわ。悲観し、怒っているリスベットを見て、「ああ、よく知っているクレアだ」と感じると思う。普段のクレアがまた見られた、とね。実際にではなくスクリーン上でよかったと思うだろうけど(笑)