先頃行なわれた第91回アカデミー賞で監督賞・外国語映画賞・撮影賞の3部門に輝いた「ROMA/ローマ」のアルフォンソ・キュアロン監督の最新インタビューをお届けします。Netflix配信によるオリジナル映画としてオスカーに輝き話題独占中の本作、その製作の裏側をたっぷり語ってくれました。(インタビュアー:幕田千宏)
画像: アカデミー賞受賞!「ROMA/ローマ」のアルフォンソ・キュアロン監督、最新インタビュー

 Netflixのオリジナル映画「ROMA/ローマ」でアカデミー賞監督賞ほか3冠を獲得したアルフォンソ・キュアロン監督。自伝的要素の濃い作品で、一人の家政婦と雇い主一家の姿を静かに見つめていく本作について、キュアロン監督にインタビューを実施。脚本のプロセスや撮影のこだわり、キャスティング秘話など、一つ一つの質問に丁寧に答えてくれた。

アーティストの仕事とは観客のみなさんにコップを渡すこと。
それを各々の経験と理解で一杯にしてほしいんだ

──「ROMA/ローマ」は自伝的要素のある作品ということで、脚本を書く際は自分の過去に向き合う時間が多かったと思うのですが、監督にとってそれはどんな時間だったのでしょうか?

 興味深い時間ではあって、いろんな事を発見していた時間という感じかな。ただ、その記憶を映画にするにあたってのプロセスというのはまだ出来上がっていなくて、自分と向き合うというよりむしろ好奇心が強かったんだ。もちろん、製作が始まる中でより複雑なものになって、時に痛みを伴う事もあったよ。でも初期段階は過去の小さな物語に自分を没入させていく作業で、サプライズもあったし、自分が忘れかけていたような事を発見し直したりもした。クレオのモデルになったリボからも、彼女側の事実の解釈を聞く事が出来て、いろいろ学ぶことも多かったよ。それに、当時は子供の視点から見ていたものを、今、人生をある程度大人として理解している中で、同じ出来事を大人の視点として見たというのは大きな違いだったね。あの頃は普通だと思っていた行為が、許容してはいけないものだった事もあったから。

──冒頭から本当に美しい映像で、日常の風景なのに思わず見入ってしまうようなシーンが多かったですが、撮影監督としてこだわった部分はどんな点ですか?

 カメラマンとしては映画を全体として捉えるので、このシーンが、という断片的なものではなく、作品の流れ、自分が選んだ作品の言語にリスペクトを捧げられているかを考えながら撮影をしているんだ。そういう意味では、このシーンが重要だとは選べないけど、技術的に複雑だったり撮影が難しかったりしたシーンはある。ただ、それがどんなに技術的に難しくても、見た目はその難しさを感じさせたくない。カメラという存在すら忘れて欲しいといつも意識しているんだ。

画像1: アーティストの仕事とは観客のみなさんにコップを渡すこと。 それを各々の経験と理解で一杯にしてほしいんだ

──水に関わるシーンが随所に挿入されているのが気になったのですが、それは意識的なものだったんでしょうか?

 そうかもね。水というのは流れ続けるものだから。ただ僕が解釈というものを口にしてしまうと、見る人の解釈を決定してしまうから、断定はしたくないんだ。見た人なりの解釈が、もしかしたら僕よりも豊かで真実に近いかもしれないし、それをキャンセルするような事はしたくないんだ。僕はアーティストの仕事というのは、コップを皆さんに渡す事、そして観客の仕事は渡されたコップを自分の経験と理解で一杯にしていく事だと思ってる。そうやって観客とアーティストとの対話が自然に起きるようにする事が、僕らがしなければいけない事なんだ。

──監督の作品は映像美が一つの魅力となっていますが、そのインスピレーションの源とは?

 自分にとってはテーマが大事で、どんな事を伝えようとしているのかが何より大切かな。それから自分が映画を作ってきた経験からすると、次に大事なのはシネマそのものなんだ。僕は映画というものをアートとしてすごく信じているし、芸術として独自の言語を持っていると思っている。だから常にどうやったら映画というものを讃える事が出来るかという事を考えているし、そうやって映画を作っている。映画の言語の真実に迫りたいと感じているし、それが映画作りをしている時の喜びの一つでもある。素晴らしく神秘的な映画というものを学び、発見していく事が僕の喜びなんだ。

画像2: アーティストの仕事とは観客のみなさんにコップを渡すこと。 それを各々の経験と理解で一杯にしてほしいんだ

──クレオ役のヤリッツァはこれが初めての作品ですが彼女を起用した理由は? どんな演技指導をしたのでしょう?

 今回のキャスティングはリボに似ている人、見た目だけでなく自分が会った時に彼女と同じ感じがする人をキャスティングすると最初から決めていたんだ。そしてヤリッツァは会ってすぐに彼女がクレオだと分かった。その瞬間から僕のほうもコミットしたんだ。彼女は初めての現場だったけれど、緊張したのは最初だけで、すぐに映画の現場の力学とか、映画作りのプロセスを理解し、そしてキャラクター作りまで自然にやっていたので本当に驚いたよ。演技指導はほんのちょっとでいいんだ。それだけで彼女は素晴らしいものを見せてくれた。聡明で素晴らしい女性だし、心から信頼できたよ。

──今回「ROMA/ローマ」がNetflix映画として配信されたのも話題になっています。今、映画界というのは過渡期にあると思いますが、監督自身は現在の状況をどう捉えていますか?

 もちろん劇場で映画を見るという体験を守る事ができれば僕は最高だと思っている。でも映画館がないような場所もあるし、いろんな映画にアクセスする機会があるというのも重要な事だよ。観客の映画の視聴の仕方も変わってきているしね。それにどんなに映画館で映画を見るのが好きでも、映画作品というのは運良く何ヶ月か興行できても、究極的にはパッケージになり、デジタルのフォーマットになっていくわけだから、当然避けられない事でもある。だから劇場の映画体験というものを守りながら出来れば一番いいんじゃないかな。それに「ROMA/ローマ」なんて劇場公開が始まってから4ヶ月ロングランしていて、通常の今の映画の興行に比べて長く上映しているわけだから。配信の会社だからといって劇場で長く上映できないわけではない事を忘れないで欲しいな。

画像3: アーティストの仕事とは観客のみなさんにコップを渡すこと。 それを各々の経験と理解で一杯にしてほしいんだ

現在、Netflixで独占配信中の「ROMA/ローマ」ですが、全国60館のイオンシネマ、およびシネスイッチ銀座、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺パルコほかにて劇場公開を開始。珠玉の映像をスクリーンで楽しもう。

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