〈ストーリー〉
成績優秀でスポーツ万能、将来を期待されていた学生ニック(ティモシー・シャラメ)は、ふとしたきっかけで手を出したドラッグに次第にのめり込んでいく。
更生施設を抜け出したり再発を繰り返すニックを、大きな愛と献身で見守り包み込む父親デヴィッド(スティーヴ・カレル)。
息子に何度裏切られても、デヴィッドは彼を信じ続ける。何故なら父親にとって息子はすべてをこえて愛している存在だから。
諦めない父親とニックの再生への旅が始まる…。
一緒に住んでいても息子や娘のことがわからないという親も多いのではないだろうか。年頃になった子供達は親の知らないところで色んな経験をして成長していく。今作の主人公であるニックは頭が良くて血の繋がらない弟や妹の面倒をみる好青年だが、意外にもドラッグにハマってしまうのだ。きっと最初はちょっとした好奇心で手を出しただけなのだろうが、知らず知らずのうちに抜けられなくなるのが薬物の怖さである。
『君の名前で僕を呼んで』で世界中から注目される存在となったティモシー・シャラメ。今作でドラッグ中毒に陥るニックを演じるにあたり、9キロ減量し、ニック本人と会って話し、原作を読み、実際にドラッグをやっている状態を知るためにYouTubeを見て研究したとインタビューで語っている。うつろな目つきややせ細った体、普通に話していたかと思えば突然苛立ち始めるといった薬物依存者の異常性をしっかりと体現していた。ただ、どれだけ堕ちてしまっても美しいことには変わりないので、彼のファンには安心して観て頂きたい。
ニックの父親デヴィッドを演じたのはスティーヴ・カレル。更正しては再び薬物に手を出してしまうことを繰り返す息子を、強い愛情で救おうとする父親を見事に演じていた。ティモシーとスティーヴはまるで本物の親子のようにスクリーンに映り、だからこそニックとデヴィッドが向き合って対峙するシーンに観客は心を大きく揺さぶられるのだ。
タイトルになっている『ビューティフル・ボーイ』はジョン・レノンが息子のショーン・レノンに捧げた名曲。デヴィッド(当時はインタビュアーやライターとして、現在は作家として活躍している)はジョンの生前最期のインタビューを行っている。その背景を知ると、劇中でデヴィッドが歌う優しさに満ちた「ビューティフル・ボーイ」が余計に胸に響く。
もしも大切な家族や友達が薬物依存に陥ってしまったら自分は何ができるだろうか。完全に更正させるには長い道のりになるかもしれないが、諦めずにその人の側にそっと寄り添うことならできるかもしれない。そんなことを思わせてくれる『ビューティフル・ボーイ』が、あなたにとって大事な1本になることを願う。
(文/奥村百恵)
『ビューティフル・ボーイ』
TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開中
監督:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン (『オーバー・ザ・ブルースカイ』アカデミー賞外国語映画賞ノミネート)
脚本:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン/ルーク・デイヴィス(『LION/ライオン ~25年目のただいま~』)
出演:スティーヴ・カレル、ティモシー・シャラメ
製作:PLAN B (『ムーンライト』『それでも夜は明ける』)
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム、カルチュア・パブリッシャーズ、朝日新聞社
François Duhamel
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