両親を訴えた理由は「こんな世の中に僕を産んだから」
本作は『自分を産んだ罪』で両親を訴えた12歳の少年の姿を通して、中東の貧困、移民などの社会問題を描き、世界を揺るがした衝撃作。
カンヌ国際映画祭ではコンペティション部門〈審査員賞〉〈エキュメニカル審査員賞〉を受賞。その後も本年度ゴールデン・グローブ賞ならびにアカデミー賞®〈外国語映画賞〉にノミネートされた。
主人公は、わずか12歳で、裁判を起こしたゼイン。訴えた相手は、自分の両親だ。裁判長から、「何の罪で?」と聞かれたゼインは、まっすぐ前を見つめて「僕を産んだ罪」と答えた。
中東の貧民窟に生まれたゼインは、両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らないし、法的には社会に存在すらしていない。学校へ通うこともなく、兄妹たちと路上で物を売るなど、朝から晩まで両親に働かされている。
唯一の支えだった大切な妹が11歳で強制結婚させられ、怒りと悲しみから家を飛び出したゼインを待っていたのは、大人たちが作ったさらに過酷な“現実”だった──。
メガホンをとったのは、『キャラメル』(2007)で監督・脚本・主演の一人三役を果たし、カンヌ国際映画祭の初上映で話題をよび多くの映画賞を受賞したナディーン・ラバキー監督。
リサーチ期間に3年を費やし、主人公ゼインを始め出演者のほとんどは、似た境遇にある素人を集めた。感情を「ありのまま」に出して自分自身を生きてもらい、彼らが体験する出来事を演出するという手法をとった結果、リアリティを突き詰めながらも、ドキュメンタリーとは異なる“物語の強さ”を観る者の心に深く刻み込むことに成功している。
目をそらしたくなる貧困の生々しさの中で、必死に生きようとする彼らの強いまなざしやその歩みに胸を打たれずにはいられない。断ち切ることも抜け出すこともできず巻き込まれるしかなかったちいさな存在が起こすセンセーショナルな展開に感情を揺さぶられ、いまできることは何かと深く自身に問わずにはいられない衝撃作となっている。
存在のない子供たち
2019年7月、シネスイッチ銀座ほか全国公開
配給:キノフィルムズ
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