ロッキーは楽観主義のヒーロー、ランボーは悲観主義のヒーロー
かつてNHKのEテレで、トム・ハンクスやジュリア・ロバーツらハリウッドのスターが俳優を目指す研究生たちにその映画人生や演技論を語り、質問を受ける番組があったが、それに似たイベントがここカンヌ映画祭でも開かれている。
今回は18日に「ドライヴ」のニコラス・ウィディング・レフィン監督、19日にアラン・ドロン、22日にチャン・ツィイー、そしてトリを飾ったのはシルヴェスター・スタローンだった。最終日の前日24日、しかもいつもの会場であるブニュエルよりもっと広いドビュッシー劇場に急きょ移しての開催である。それはスタローンがどんなに人気があるかを物語るものだった。いくらカンヌでハリウッドスターの人気が高いと言われていても、正直、彼がこんなに愛されている大スターだとは思っていなかったのでびっくり。
チェック柄のシャツをざっくり引っかけてステージに上がったスタローンに、会場は大歓声で一気にヒットアップ。片手を振り、やがて両手を挙げたポーズは、あの出世作「ロッキー」のロッキー・バルボワを彷彿させて、さらに会場は大盛り上がり。
司会者が、まず「ロッキー」の成功話から彼の映画人生を紐解く。これまでのボクサームービーを覆すアメリカンドリームの実現物語がヒットの勝因と話し、よく比較される「レイジング・ブル」のことも。続く「ランボー」では、「ロッキー」は楽観主義のヒーローに対して、「ランボー」は悲観主義のヒーローと分析し、シリーズ化して交互に主演、さらに監督にまで乗り出したことを語った。
新作は韓国映画のハリウッド・リメーク
意外?とは失礼なことだが、スタローンは当時の映画界、特にハリウッドの現状をしっかり把握していて、「ネットワーク」「愛と喝采の日々」など女性映画時代、「タクシー・ドライバー」など後遺症をテーマにしたポスト・ベトナム戦争映画などを滑らかに語り、そこに自らの主演映画を位置づける。実にクレバーな大スターだった。
さらに「バラダイス・アレイ」で監督に乗り出したこと、「クリード」で「ロッキー」に別れを告げたこと、盟友アーノルド・シュワルツェネッガーからアクセントのことで、自分の独特のしゃべり方を突っ込まれたことなどを次々と語り、観客を大いに喜ばせた。
そんなスタローンはこれからも精力的に映画製作に乗り出し、出演するらしいが、その一本にと噂されるのが、韓国映画「ギャングスター、コップ、デビル」のハリウッド・リメーク。奇しくもその映画がカンヌで特別上映された。それが凄く面白い。車をぶつけては相手の運転手を殺害するシリアルキラーに、ギャングのボスが追突されて格闘の末、一命を取り留めたのが始まり。その事件を捜査するはみだし刑事がボスと組み、警察とギャングが前代未聞の犯人追跡を始めるというもの。
腕っぷしが強くて、タフなギャングのボスをきっとスタローンが演じるんじゃないかと思って観てしまった。こんな面白い韓国映画を観ると、日本映画界は何をしてるんだ!と、つい現状を嘆いてしまう。