今作の監督を務めた蜷川実花のインタビューをお届けする。
【ストーリー】
日給30万の怪しいアルバイトに手を出したオオバカナコ(玉城ティナ)は、ウェイトレスとして殺し屋専用のダイナーに売られてしまう。そこは命がゴミのように扱われる殺し屋専用のダイナー<食堂>。店主は、元殺し屋で天才シェフのボンベロ(藤原竜也)だ。
次々と店にやってくる殺し屋たち。
オーダーは極上の料理か、殺し合いか…店主、ウェイトレス、殺し屋たち。新たな殺し合いが今、始まる――!
自分が伝えたいことを
いかに盛り込むか考えながら脚本を書いた
写真家であり、『さくらん』(07年)や『ヘルタースケルター』(12年)を手掛けた蜷川実花監督が圧倒的なビジュアルセンスで完成させた今作。
主演に藤原竜也を迎え、ヒロインを玉城ティナ、個性豊かな“殺し屋たち”を窪田正孝、本郷奏多、武田真治、斎藤工、佐藤江梨子、金子ノブアキ、小栗旬、土屋アンナ、真矢ミキ、奥田瑛二ら豪華俳優陣が演じている。
“映像化不可能”と言われた原作とどのように向き合ったのか、そして作品に込めた想いや好きな映画などを蜷川監督に聞いた。
ーー『さくらん』(07年)や『ヘルタースケルター』(12年)とは全く違うタイプの原作の実写映画化にチャレンジしようというお気持ちになったのには何かきっかけがあったのでしょうか?
「プロデューサーから“「ダイナー」を撮りませんか?”と依頼を受けたんです。原作は、今までの2作品に比べて圧倒的に男性らしい話なので、主人公が男性という点も含め難しいなと感じたのですが、だからこそ、そろそろ自分がやったことのないことに挑戦できる時期なのではないかと、そんな風に思いました。あえて自分の得意ではないジャンルや原作をやらせて頂いたことで、面白い発見や化学反応を起こすことができたと感じてます」
ーー「ダイナー」を実写化するにあたり一番難しかった点を教えて頂けますか。
「凄くハードな内容の原作ですが、“年齢制限が一切つかない映画にして欲しい”というオーダーがあったので、そこが一番難しかったです。でも、逆に規制があったからこそ色んなアイデアが沸きましたし、普通に考えていたら辿り着かないところまで行けたような気がします。完成した今は“条件”を上手に飼いならすことができたと、そんな風に感じています(笑)」
ーー撮影はどのような感じで進んでいったのでしょうか?
「まず血の量をどのぐらいにするか考えるところから始まり、火花が飛んだり見たことのないような料理が出てきたり、毎日お祭り騒ぎと言っても良いような現場で一ヶ月半突っ走りました(笑)。撮影中はかけ算式に色んなことが起こるので、それを映画としてどうまとめあげられるかという一抹の不安を抱えながらの撮影でしたが、なんとかキッチリ完成させることができたと思います」
ーー脚本は映像を想像しながら書かれていったのですか?
「映像を考えるのは得意なので、想像しながら書くというよりは絶対に勝てる装置をいくつも用意しました。桜やバラなどお花を使ったり、水を大量に降らすといったことは事前に考えていましたし、美術セットに関しては横尾忠則さんの絵を使わせて頂いたことでこの作品の世界観がしっかりと完成したと言えます。でもそれはある程度脚本ができてからの作業であって、自分が伝えたいことをボンベロとカナコの台詞に反映させていく作業のほうが難しかったように思います。若い子達に響く言葉やメッセージをいかに説教くさくなく原作の物語に盛り込んでいくか。エンタメ作品ではありますが、観終わった後に“面白かった! でも、よく考えたら凄く良い話だったね”と言って頂けるような何かをきちんと残したいという思いで脚本に取り組んでいたので、映像もそうですが台詞を書くことも私にとって重要な作業でした」
ーー劇中に登場するメキシコの死者の祭りに関しても、監督は何かメッセージを込められたのでしょうか?
「メキシコの死者の祭りは色鮮やかで華やかではありますけど、明るいだけではないんですよね。私はいつも、明るいことや楽しいこと、暗くて辛いことなど色んなことが混ざり合ってるから世の中は美しいと思っていて。今作には“何か大変なことが起きても大丈夫でいられる強さをいかに持つか”をテーマのひとつとして盛り込みたいと思いました。死者の祭りがその象徴のひとつとして映ったらいいなという気持ちはあります」
ーーちなみに、監督にとって特別な存在の方がとある重要な人物のモデルになっていますね。
「あの配役は実は私ではなくプロデューサーからの提案なんです。あの役のモデルが決まったことによって全てが奇跡的にハマったというか(笑)。ボンベロの台詞もそうですし、他のキャスティングに関しても全ての輪が綺麗に閉じられたような気がしていますし、最後にキュっとリボン結んでもらえたようにも思うので、必然だったのかもしれませんね。誰をモデルにしていて、その役を誰が演じてくださったのかはそのうち発表されると思うので、これからご覧になる方には楽しみにして頂きたいです(笑)」
ーーカナコは一枚のハガキを観てメキシコに行ってみたいという衝動に駆られますが、監督が強い衝動に駆られて行動した経験があれば教えて頂けますか。
「私は思いついたらすぐに行動に移すので、常に強い衝動に駆られながら生きているのかもしれません(笑)。人生において一番辛いのが、“あの時こうすれば良かった”“あの時なんでやらなかったんだろう”と後悔することなので、とにかくやれるだけやると決めているんです。例え失敗したとしても後悔だけは絶対にしたくない。それは若いときからそうで、例えば“今だったらこうしたのに”という後悔があったとしても、当時やりきったのなら仕方ないと自分の中で納得できるんです。今もあまり後先考えずに行動してしまうところがありますが、やりたいと思ったら絶対に行動に移すようにしています」
ーーここからはSCREEN ONLINE読者のために監督のオススメの映画を教えて頂きたいのですが、どういったタイプの映画をよくご覧になりますか?
「アート映画なんかも観ますけど、やっぱり『オーシャンズ8』(18年)や『チャーリーズ・エンジェル』(00年)といった女の子がバリバリ戦う映画が好きです。『オーシャンズ8』のメットガラのシーンを観ると気持ちがアガりますし楽しいですよね。基本的に女の人が観て元気になれる映画が好きです」
ーー監督にもいつか女性が主人公のギャング映画やスパイ映画を撮って頂きたいです!
「撮ってみたいです! “女の子が観たいと思う女の子”が沢山登場する映画をいつか撮りたいです」
ーー好きな映画監督も教えて頂けますか。
「昔からウォン・カーウァイ監督が好きで、影響も受けていると思います。最初は大学生の時に観たのですが、そのあとどうしても香港に行ってみたくなって翌週には飛行機に乗っていました(笑)」
ーーまさに衝動的な行動ですね!
「そうなんです(笑)。とりあえず動かないと何も始まらないなと思って、香港に行って沢山写真を撮りました。当時は一泊千円ぐらいの安宿に泊まったのですが、いま思えばよくあんな危ないところに泊まったなと(笑)。若い時はそういう冒険ができるのがいいですよね。とは言えそのまま大人になっているので、昔ほどではありませんが今も軽やかに衝動的に動いてるほうだと思います(笑)」
蜷川実花監督:Photo by Tsukasa Kubota
(インタビュアー・文/奥村百恵)
『Diner ダイナー』
7月5日(金)より全国公開
監督:蜷川実花
脚本:後藤ひろひと 杉山嘉一 蜷川実花
原作:平山夢明『ダイナー』(ポプラ社「ポプラ文庫」)
音楽:大沢伸一
主題歌:DAOKO✕MIYAVI「千客万来」(ユニバーサル ミュージック)
出演:藤原竜也
窪田正孝 本郷奏多 玉城ティナ
武田真治 斎藤 工 佐藤江梨子 金子ノブアキ
小栗旬/土屋アンナ/真矢ミキ/奥田瑛二
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2019 「Diner ダイナー」製作委員会
©2019 蜷川実花/映画「Diner ダイナー」製作委員会