オダギリジョーがオリジナルの脚本を書き下ろし、初めて長編映画のメガホンをとった『ある船頭の話』。
第76回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門(コンペティション)にも出品された今作のオダギリジョー監督インタビュー第一弾をお届けする。

主人公の船頭トイチを演じるのは日本を代表する名優・柄本明。主演としては2008年公開『石内尋常高等小学校 花は散れども』(新藤兼人監督)以来、11年振りとなる。トイチの前に現れる身寄りのない謎めいた少女役をオーディションで選ばれた川島鈴遥、トイチを慕い多くの時間を共に過ごす村人・源三役を、若手実力派の村上虹郎が演じている。さらに、撮影監督には独特な色彩を映像に落とし込む名匠クリストファー・ドイル、衣装デザインには『乱』で米アカデミー賞®を受賞した日本を代表するデザイナーのワダエミ、そして若くして天才と謳われたアルメニアのジャズ・ピアニストのティグラン・ハマシアンが映画音楽に初挑戦。海外でも精力的に活動してきたオダギリのもとに国際派スタッフが集結した。
独自の作家性を発揮しつつも、資本主義社会に対する疑問を世の中に問いかけた今作についてオダギリジョー監督が語った。

画像: “本当に人間らしい生き方とは何か”を世の中に問いかける
『ある船頭の話』
オダギリジョー監督インタビュー Vol.1

人間の感情を、丁寧に描きながら脚本を書きたかった

ーー資本主義的社会に対する疑問や極端な価値観などに違和感を感じたことがきっかけで今作の脚本を書かれたそうですが、なぜ船頭の物語にしようと思われたのでしょうか?
「“便利さが増えていく一方で、美しい文化が消えていっている”というのは、世界のどこででも起きている普遍的な問題だと思うんです。その中から船頭という職業を選んで脚本を書いてみようと思いました。それで実際に船頭をされている方のところへ取材に行って、2週間ほど生活を共にさせてもらったんです。そのときにお客さんが舟に乗る理由が必ずあるということや、船頭さんと舟に乗るお客さんとの間には多かれ少なかれ必ずドラマが生まれているということを感じて、そこに目を向けていけばエンターテイメントな作品とは違う、人間らしい物語が描けるのではないか、そんな風に思って脚本の執筆を進めていきました」

ーー船頭さんと生活を共にされた経験は今作にどのような影響をもたらしましたか?
「話は前後しますが、お会いする前に、和服の女性を渡し舟で送っている船頭さんの映像をテレビで見たことがあって、“凄く綺麗だな”と強く印象に残ったんです。それで劇中にもそういうシーンを入れました。生活を共にしていた時は、直接見たり聞いたりする中で心にひっかかるような出来事が沢山あったので、そのひとつひとつを脚色しながら台本に盛り込んでいきました。船頭さんは一日中来るか来ないかわからないお客さんをずっと待っているのですが、実際には一人乗せるかどうかという日々を送っていらして。それなのに純粋に、“誰かの役に立っていることが嬉しい”とおっしゃる。その言葉もそのまま台詞として脚本に入れました」

画像1: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

ーー船頭のトイチ役は最初から柄本明さんを想定して書かれていたのでしょうか?
「いえ、もともとは自分で船頭を演じるつもりで書いていました。取材させて頂いた方がご高齢だったので、自分の年齢に下げてキャラクターを膨らませながら書いていたんですけど、柄本明さんが演じてくださることが決まったのでもとに戻すような形で書き換えました」

画像1: 人間の感情を、丁寧に描きながら脚本を書きたかった

ーー今作ではトイチを含め主要な登場人物が色んな面を見せるので、そこがとても人間らしいというか、視点を変えて何度でも観たいと思わされました。キャラクターを書く上で大事にされたことを教えて頂けますか。
「映画の中で、一人の人間がひとつの性格を貫くことのほうが実は嘘だったりするんですよね。人は相手によって態度も変わるし裏と表があるのは当たり前なので、キャラクターを書く時はひとつの性格に絞りたくないと思っています」

ーーそれはオダギリさんが俳優だからこそ余計に感じることでもありますよね?
「そうですね。俳優は“前後の繋がり”を気にしなければいけなくて、前のシーンの感情をつなげつつ、その後のシーンにつなげるために出口を計算し、どう演じるかを考えます。ただ、実際には人間は一瞬で気分が変わったりするじゃないですか。映画の流れだけで感情を計算するのは“芝居の嘘”でしかない。そういったことと20年向き合ってきたので、なるべくリアルな人間の感情を、丁寧に描きながら脚本を書きたいという想いは強かった。そもそも俳優というのは“人間”そのものを見つめざるをえない仕事なので、一種の職業病だと思いますが(笑)」

Photo by Tsukasa Kubota

ーーそういったことをキャストの皆さんともお話しされながら役を作っていかれたのでしょうか?
「柄本さんに関しては全くそういう話はしていないです。そんなことはとうの昔に気付いてらっしゃいますから、あえてお話しするのは野暮だと思っていました。ただ、源三役の村上虹郎くんと少女役の川島鈴遥さんに関しては、表面的な指示だけではなく、どんな言葉でどういう導き方をすれば、どういう感情に持っていけるかということは同じ俳優としてアドバイスさせて頂きました。そういったコントロールが容易にできるというのは俳優が監督をやるときの大きな利点だと思います」

画像2: 人間の感情を、丁寧に描きながら脚本を書きたかった
画像3: 人間の感情を、丁寧に描きながら脚本を書きたかった

ーー監督はサングラスをかけたまま演出をするのは失礼だということでサングラスをはずしてから俳優さんのもとに行っていたと伺いました。
「自分が俳優として現場にいる時に、監督の大柄な態度を見たらやっぱりがっかりするじゃないですか(笑)。あくまでも俳優、スタッフは監督のために尽力しているのに、それを当たり前のように偉そうな態度を取るのは、やっぱり立場を理解していないと思うんです。サングラスもそうですし、なんならディレクターズチェアもできるだけ座らないようにしていました。演出を伝える時も誰かを通して言うのではなく、できるだけ自分で俳優さんのところまで走っていって、ちゃんと相手の目を見て話すようにしたり。自分が俳優をしていて“こういう監督は嫌だな”というのを排除した結果、そういうことに気をつけるようにしていただけなんです(笑)」

ーーそういうことだったのですね(笑)。監督としての気苦労や大変なことも多かったかと思いますが、撮影を振り返ってみて、いまどんなことを感じてらっしゃいますか?
「なかなか自分が書いた脚本のイメージ通りにいかないことが多く、映画製作の難しさを改めて感じましたが、出来ることは全てやったつもりですし、“悔いはない”という気持ちで終えることができたと思います。ただ、今作は明確な答えのある作品ではないので、公開してみないと何もわからないなといまは正直思っています。ひとつ言えるのは、スタッフの方々や俳優の皆さんが自分の書いた脚本に全力で力を貸してくれて、死にものぐるいになって未熟な監督を支えてくれたことには感謝しかありません。皆さんと共に毎日作業をしている状況を、とても幸せに感じられた現場でした」

画像3: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

インタビュー第二弾は近日中に公開いたします!!

(インタビュアー・文/奥村百恵)

<STORY> 
一艘の舟。全ては、そこから始まる―。
近代産業化とともに橋の建設が進む山あいの村。川岸の小屋に住み船頭を続けるトイチ(柄本明)は、村人たちが橋の完成を心待ちにする中、それでも黙々と渡し舟を漕ぐ日々を送っていた。そんな折、トイチの前に現れた一人の少女(川島鈴遥)。何も語らず身寄りもない少女と一緒に暮らし始めたことで、トイチの人生は大きく狂い始める―。

画像4: 人間の感情を、丁寧に描きながら脚本を書きたかった

『ある船頭の話』
9月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
脚本・監督:オダギリジョー
出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎
   伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優/笹野高史、草笛光子
   細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功
撮影監督:クリストファー・ドイル
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:ティグラン・ハマシアン
配給:キノフィルムズ
©2019「ある船頭の話」製作委員会

画像: 映画『ある船頭の話』予告篇| 9月13日(金)全国公開 youtu.be

映画『ある船頭の話』予告篇| 9月13日(金)全国公開

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