亡くなった父親の遺言により“通夜ぶるまい”として母親が作った目玉焼きをきっかけに、家族が昔の思い出を振り返っていく様子を描いた映画『最初の晩餐』。
今作で主人公の東麟太郎を演じた染谷将太のインタビューをお届けする。

主人公・東麟太郎役を演じるのは『ヒミズ』(11)を始め、幅広い作品で多彩な顔を演じ分ける実力派俳優の染谷将太。
その姉・美也子役には2019年後期NHK連続テレビ小説「スカーレット」でヒロインを務める戸田恵梨香、ある事件をきっかけに家族の元を離れ、15年ぶりに姿を見せる兄シュン役にはマーティン・スコセッシ監督の『Silence-沈黙-』(17)の窪塚洋介、母親のアキコ役に斉藤由貴、父親の日登志役に永瀬正敏と豪華キャスト陣が集結。
今作の主演を務めた染谷に、撮影秘話や役について、更にオススメの映画などを聞いた。

“根は凄く良い人だけど何かが漏れ出てしまっている”
そういう部分を意識して演じていました

ーー常盤司郎監督の実体験をもとに監督ご自身が脚本を書いた今作ですが、現場はどのような感じでしたか?

「まず“脚本を書いたことでひとつの作品を作り上げた”というのが常盤監督から伝わってきたので、脚本家と監督としての常盤監督が解離しているように感じられたのが面白いなと思いました。ご自身が書いた脚本を客観視されていて、“さて、この本をどう映画化しようか”といった感じに見えたというか。現場でも脚本としてのご自身と監督としてのご自身はハッキリと切り替えられていて、カメラマンさんや役者達と細かく話し合いながら撮っていくというスタイルでした」

ーー麟太郎を演じるにあたり監督を参考にした部分もあったのではありませんか?

「そうですね、やはり参考にさせて頂いた部分はあります。現場でも“常盤監督はどういう性格なんだろう”と常に考えていました。ただ、それを常盤さんに直接聞いてしまうとまとまった答えが返ってきそうな気がしましたし、それがお芝居に影響したら乏しくなってしまうような気がしたので絶対に聞かないようにしていたんです。あくまでも自分の目でしっかりと観察しながら、足りない部分は想像で演じるようにしていました」

Photo by Tsukasa Kubota

ーー監督を観察していく中で“こういうところが素敵だな”と感じたことがあれば教えて頂けますか。

「とても正直な方なので、何かを隠そうとしても漏れ出てしまっているところでしょうか(笑)。そこが凄く魅力的だなと思いました」

ーー染谷さんご自身は麟太郎と似ている部分はありますか?

「麟太郎は受け身の人なので、周りからの色んなアクションを受けることで一歩前に踏み出していきますけど、そこは割と僕自身と似ているような気がします」

画像1: “根は凄く良い人だけど何かが漏れ出てしまっている” そういう部分を意識して演じていました

ーー“染谷さんは「編集で困らないように撮って欲しい。それが作品のためになるから」と何度も演じてくれた”と監督がコメントされていたのですが、ご自身が監督として映画を撮ってらっしゃるからこそそういった気遣いをされたのではありませんか?

「そんな発言をしたこと自体すっかり忘れていました(笑)。確かひとつのシーンで常盤監督が撮りたい画が2パターンあって、二つとも撮るのが申し訳ないと思ってらっしゃるように感じたことがあったんです。なので“両方撮って頂いて、編集の時にどちらを使うか考えればいいと思います”とお伝えしたような気がします。

というのも、自分が監督をして撮った映画の編集をした際に、“あ〜あれも撮っときゃよかった”と後で後悔したことがあったからなんです(笑)。そのとき“素材は沢山あったほうがいいな”と痛感したので、きっとそういう思いを常盤監督にして欲しくなくて“両方撮ってくださいね”とお伝えしたんだと思います」

ーーシュン兄が家を出ていってからの15年間は劇中で描かれていませんが、そこはどうやって埋めていかれたのでしょうか。

「少年時代の麟太郎は明るくて子供らしい素直な子ですが、15年後の麟太郎は若干やさぐれています(笑)。その15年の間に何があったのかは意図的に描かれていないので、自分で想像して埋めなければいけませんでした。決して常盤監督がやさぐれているわけではありませんが(笑)、常盤監督を観察することで空白を埋めることもありましたし、15年もあれば色んなことを経験しているはずなので、思い切って変えてしまってもいいのではないかという思いもありました。

麟太郎の変化がある意味この映画のキーになっているというか、物語を動かしていく要素にもなっていますから、“根は凄く良い人なんだけど何かが漏れ出てしまっている”みたいな、そういう部分を意識して演じていました」

画像2: “根は凄く良い人だけど何かが漏れ出てしまっている” そういう部分を意識して演じていました

ーー15年ぶりにシュン兄が帰ってきたシーンに関して、窪塚さんが「言葉を交わさないぶん沢山通じ合うものがあったということを確認できた」とおっしゃっていました。染谷さんはこのシーンの撮影でどんなことを感じましたか?

「今回、窪塚さんとは久々にご一緒させて頂いたのですが、あのシーンは“ガラガラガラ”っと玄関のドアを開けて突然シュン兄が入ってくるので、シュン兄を見た瞬間に“うわ! きた!”と(笑)、麟太郎としての驚きと僕自身の驚きで心が動かされたようなところがあります。“前に会った時から時間が経って容姿も少し変わったけど知っている人”というのが現実とどこかリンクしていたというか。驚きと感動と困惑が一変に湧き出てきたような、そんなシーンでした」

画像3: “根は凄く良い人だけど何かが漏れ出てしまっている” そういう部分を意識して演じていました

ーー今作には沢山の料理が登場しますが、一番印象に残ったものを教えて頂けますか。

「最初のほうに出てくるチーズの上に目玉焼きが乗った料理は絶妙だなと思いました。永瀬さん演じる父親が作るからいいのかもしれませんが(笑)、この目玉焼きはすっごく愛おしかったです。きっと僕がこの目玉焼きを子供の時に食べていたら、ふとした瞬間にその光景がフラッシュバックするような、絶妙な一品だと思います」

ーー染谷さんにとっての思い出の料理と言えば何ですか?

「唐揚げを食べるとたまに母親を思い出します。むかし揚げるのを失敗した瞬間に油が飛んで母が軽い火傷をしたのを見たことがあるんです。親が失敗した姿ってずっと忘れられないんでしょうね(笑)」

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