美術史上最も重要かつ人気の高い画家の一人、フィンセント・ファン・ゴッホを演じたウィレム・デフォーとジュリアン・シュナーベル監督の来日インタビューをお届けする。
シュナーベル監督に「この役は、彼しか考えられなかった」と言わしめた主人公フィンセント・ファン・ゴッホを演じたウィレム・デフォーは、本作で第 75 回ヴェネチア国際映画祭で男優賞に輝き、さらにアカデミー賞主演男優賞に初ノミネートを果たして大変な注目を集めた。
アルルでのひと時をゴッホと共に暮らしたゴーギャン役を『スター・ウォーズ』新シリーズのオスカー・アイザック、さらに『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のマッツ・ミケルセンや、『潜水服は蝶の夢を見る』でもシュナーベルとタッグを組んだマチュー・アマルリックなど豪華キャストが集結した今作。
ウィレム・デフォーとジュリアン・シュナーベル監督に撮影秘話などを語ってもらった。
ウィレム「芝居中に自分自身を消失することができたらそれは喜びです」
ーーウィレムさんはゴッホを演じるにあたり資料や文献などを読み、画家でもあるシュナーベル監督から絵画のレッスンも受けたそうですね。それらはどのように役作りに生かされましたか?
ウィレム・デフォー(以下、ウィレム)「脚本の台詞にはゴッホの資料など色んなソースから得た言葉と、僕や監督が紡ぎ出した言葉の両方が反映されています。そういった台詞のひとつひとつには自分自身が考えさせられてしまうような興味深いものが沢山ありましたし、ゴッホを演じる上でも役立ったように思います。それと同時に自分自身で絵を描くということもとても重要でした。本物の画家に見えなければいけませんから。幸運なことに師匠には恵まれていたので(笑)、ありがたかったですね(監督をチラっと見ながら)」
ジュリアン・シュナーベル監督(以下、シュナーベル監督)「逆に彼ほどの人生経験と演技力がなければゴッホを演じることは不可能と言えます。何故なら、この役は台詞を覚えて芝居をするだけでなく、本物の画家のように絵筆を持ち、実際に絵を描かなければいけませんよね。それから他の役者がウィレムに向かって台詞を言う時に、彼は自分でカメラを持って芝居をするといった場面もあります。それを全て自然に見せることができる役者は彼しかいません」
ウィレム「冒頭の靴の絵はまっさらな状態から全て僕が実際に描いています。半分ぐらい絵が描かれたものに描き足していく場合はジュリアンの“このエリアをこの色彩で”とか“余白をうまく使って”といったアドバイスに従いながらやっていました。ただ、それをそのまま自動的にやるわけではなく、どのぐらい絵の具をつけて描くのかといったことも考えながら演じなければいけません。そのうえ台詞をしゃべらないといけないのでとにかく大変だった…ということをジュリアンのさっきの言葉で思い出しました(笑)」
ーー実際に絵を描かれたことで新たな気づきや発見などはありましたか?
ウィレム「ジュリアンは絵画の技術だけではなく、人生についてどんな風にアプローチしたらいいのかということも教えてくれました。クリエイティブなことにおけるプロセスなんかも彼から学んだので、これまでとは物の見方が変わったように思います」
ーー絵画のレッスン以外にどのような役作りをされましたか?
ウィレム「クランクイン前の準備期間に南フランスのアルルを歩き回ることで、ゴッホが見た風景をこの目で見て感じ、彼の経験がどのようなものであったのかを考えることができました。というのも、時代と共に色んなものが変わっていきますが、アルルの風景はゴッホが生きていた頃とあまり変わっていないからです。特に田舎のほうはまだ農業が行われていたりしますよね。そういった風景を見れたのはとても良かったです」
シュナーベル監督「ウィレム無しではこの映画は完成させることができなかったと思います。彼は演技力がありますし、形式通りに演じる俳優とは違います。現代に生きているのにゴッホの存在感を出せる人なんてそうそういないので、この役は彼にしか演じることができなかったと自信をもって言えます」
ーー絵を描くときの画家としての喜びや苦しみを監督から教わることもありましたか?
ウィレム「キャラクターの感情や心情というのは演じていれば自然とわかりますから、ゴッホの心理や精神について画家としての意見をジュリアンに求める必要はありませんでした。ジュリアンとは“どの辺りをどのように歩くのか”“絵を描くスピードはどのぐらいか”といった具体的な動きに関して話すことが多かったです」
シュナーベル監督「僕らは長年友人関係を築いてきましたから、お互いのことをよく知ってるし信頼し合っています。だからこそ言葉での説明はあまり必要ないんです」
ーー最後の質問になりますが、お2人は芸術作品を生み出す喜びをどんな時に感じますか?
シュナーベル監督「私は絵を描いている時は自分が納得するまで筆を止めることはないので、“もうこの絵は完璧だから死んでもいい”と思えた瞬間に喜びを感じます」
ウィレム「芝居中に役として動いたりしゃべったりしている時に“自分自身を消失”することができたらそれは喜びですね。“絵を描いてる時は何も考えなくなる”とゴッホも言っていたそうですし。長年俳優をやっていると、“こういう場面ではこういうリアクションをすればいい”といった癖が出てくることもありますが、そういった邪念を全てカメラの外に置いておくことができれば“走ることだけに没頭するアスリートのような状態”になれますから、その瞬間に一番幸せを感じます」
シュナーベル監督「今作でも沢山走ってますしね(笑)」
ウィレム「そうそう! だから僕はこんなにハッピーなんです(笑)」
ヘアメイク(ウィレム・デフォー):AZUMA(M-rep by MONDO-artist)
(インタビュアー・文/奥村百恵)
<STORY>
幼いころから精神に病を抱え、まともな人間関係が築けず、常に孤独だったフィンセント・ファン・ゴッホ。才能を認め合ったゴーギャンとの共同生活も、ゴッホの衝撃的な事件で幕を閉じることに。あまりに偉大な名画を残した天才は、その人生に何をみていたのか――。
『永遠の門 ゴッホの見た未来』
監督・脚本:ジュリアン・シュナーベル 『潜水服は蝶の夢を見る』
脚本:ジャン=クロード・カリエール『存在の耐えられない軽さ』
出演:ウィレム・デフォー 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、ルパート・フレンド『スターリンの葬送狂騒曲』、マッツ・ミケルセン 『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』、オスカー・アイザック 『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』マチュー・アマルリック『潜水服は蝶の夢を見る』、エマニュエル・セニエ 『潜水服は蝶の夢を見る』
配給:ギャガ、松竹
© Walk Home Productions LLC 2018 原題:At Eternity’s Gate/2018/イギリス・フランス・アメリカ/カラー/シネスコ/5.1ch デジタル/111 分/字幕翻訳:松岡葉子